第12話:この先のこと
「ごちそうさまー!」
ダイニングのテーブルで向かい合い夕食を取っていた僕達。
先にスパゲッティを食べ終えた沙和さんが、両手を合わせて元気に挨拶をすると、側にあるティッシュで口を拭き始めた。
「どうだった?」
「ひき肉もジューシー。茄子とか玉ねぎもちゃーんと崩れたりしてなかったしー、すっごく美味しかったよ! レトルトのミートソースじゃ、やっぱこーはいかないよねー」
彼女はお腹をぽんぽんっと叩き満足そうな顔をすると、コップに注いであったお茶をゴクゴクと飲む。
「でもー、優くんってほんとすごいよねー。レトルト使わないでミートソース作っちゃうなんてさー」
「そんなことないよ。分量がわかってればそんなに難しくないし、沙和さんでもさらっと作れるんじゃないかな?」
「かもしれないけどー。やっぱ包丁とか使うの苦手なんだよねー。ほーんと。優くんみたいに料理上手な彼ピがいたらー、毎日幸せだろーなー」
「確かに彼氏が料理上手だったら、こういう時楽かもね」
僕もスパゲティを食べ終えると、ティッシュで口を拭く。
そんな僕を見て、沙和さんがにんまりすると。
「もち、料理上手には優くんも含むんだけどねー」
なんて言ってきた。
僕が料理上手か。
この間もみんなに喜んでもらえるだけの料理は作れてたみたいだし、今回も沙和さんに喜んでもらえてる。
お陰で少し自信がついたけど、結局味付けは自分好みで作ってるだけだからなぁ。
「まあ、僕の料理は自分向けに勝手に作ってるだけだし、たまたま味の好みがあっただけかもしれないよ?」
僕がそう言うと……あれ? 沙和さんが急にムッとした気がする。
何か変なことを言ったかな?
「ご、ごめん。僕、何か変なことを言った?」
「別にー。優くんだってー、ちゃんと料理上手だーって伝わってほしかっただけですー」
露骨に拗ねた言い回しをしながら、口を尖らせる彼女。
うーん。もしかして、素直に褒め言葉を受け取らなかったのが気に入らなかったのかな?
だとしたら失敗したかも。今後は気をつけないと……。
「ね? それより優くんってー、もうパジャマ姿じゃん? お風呂は済ませてるかんじ?」
僕がちょっと気落ちしてると、まるでさっきの話なんてなかったかのように、沙和さんが笑顔になるとそう尋ねてくる。
「ううん。まだだけど……あ」
「ん? どうしたの?」
しまった。
いくら急だったからって、ずっとパジャマ姿なんてよくないじゃないか。
「ご、ごめん。空き箱返すだけのつもりだったから、ずっとパジャマだったの忘れてて」
「いいっていいってー。あーしはプライベートな優くんの姿を見れただけでー、ちょー嬉しいし!」
頭を下げた僕に、にこにこしながらそう言ってくれる沙和さん。
絶対礼儀正しくないと思うんだけど、そんな状況でもこう言ってくれるのは、きっとこれも彼女の優しさだよね。
「それよりさー。お風呂まだなら先に入っていいよ。片付けはあーしがしとくから」
「え? ちなみに沙和さんもお風呂まだだよね?」
「うん。だからー、優くんの後に入らせてもらおうってわけ」
「で、でも、お客さんなんだし。片付けは僕がやるから沙和さんが先に──」
「だーめっ! だいたいさっきなんてあーし、スパゲッティかき混ぜて、お皿用意しただけだしー、料理作りに使ってたお鍋とかも優くん洗ってくれてるじゃん。あーしがお世話になってるんだからー、食べ終えた食器くらいあーしがやっとくよ。だからー。ね?」
沙和さんが片手で頬杖を突きながら、笑顔でウィンクする。
ちょっと申し訳無さがあるけれど、沙和さんがそう言ってくれるなら……。
「わかった。じゃあ、先にお風呂を済ませるね」
「うんうん。そうしちゃって!」
僕が言葉を受け入れると、彼女は元気にそう口にした。
◆ ◇ ◆
「洗い物終わったら、テレビとか好きに見てていいからね」
「うん! 優くんはー、ゆーっくりお風呂に浸かってきてね」
「そうするよ。それじゃお先に」
「いってらっしゃーい!」
キッチンで洗い物をしながら、肩越しにこっちを見て笑顔を振りまく沙和さんを横目に、僕はひとり更衣室に入り服を脱ぐと、バスタオルなんかを洗濯機の上に用意して、そのままお風呂場に入った。
洗い場の椅子に腰を掛け、まずはシャワーを浴びて。普段通りに頭からお湯を浴びると、僕はシャンプーを手に頭を洗う。
長い前髪は一旦掻き上げて、頭の上でゴシゴシと泡立てる。
脇や後ろも念入りに洗ってっと。
一通り泡立てたらシャワーで頭を流す。
個人的に、こうやってシャワーを浴びてるときとか、湯船の気持ちよさが好きなんだよね。
こうやって静かに頭を洗っているこの時間も、僕にとって本当に落ち着く時間だったりする。おじさんみたいな発言かもしれないけど。
そして次はリンス。頭につけたら一旦シャワーを止めて少し放置する。
……そういえば、この後どうしよう?
沙和さんがお風呂入った後って、何をすればいいとか全然考えてなかったな。
紅茶くらいはあるけど、それ以外に出せる冷たい飲み物とかも置いてないし、お菓子やデザートもない。
一応明日のテスト勉強は十時頃集合だって言ってたから、買い出しはその前に行こうと思ってたんだよね。
沙和さんが好きそうな飲み物やデザートでも、買い出しに行ったほうがいいのかな? うーん……あれ?
僕はふと背後の風呂場の入り口を見る。
勿論その先は更衣室だけど、曇ガラスだからそっち側の状況はわからない。
今、何か音がしたような気がするんだけど。気のせいかな?
もしかして、僕が置いた着替えが落ちちゃったのかもしれないし。
僕はあまり気にせず再びシャワーを出し、リンスを丁寧に流してっと……これでいいかな。
キュッと蛇口を捻ってお湯を止め、ふぅっと一息ついた瞬間。
ガラガラッ
という風呂場のドアが開く音がした。
え!?
思わず僕が椅子に座ったたま振り返ると。
「どもー」
そこに立っていたのは、バスタオルを一枚体に巻いただけの、笑顔の沙和さんだったんだ。




