第10話:優汰の悩み
「そういえば。有内殿は、長月殿へのプレゼントは考えたでござるか?」
「え?」
……あ。そうだった。あの日色々あってすっかり忘れてたけど、来月は沙和さんの誕生日だって教わったじゃないか。
でも、今まで両親以外に誕生日プレゼントなんてあげたことないし、なんなら相手はTOP4。どんな物をあげていいのかなんて、さっぱり想像がつかない。
「あ。えっと、実は全然いいのが思いつかなくって……」
「そうでござるか……」
僕が苦笑いしながら頭を掻くと、只野先輩も釣られて困った顔をする。
それを聞いて、またどこか冷めた目をした岩良さんがこっちに顔を向ける。
「有内さんって、長月先輩に誕プレあげるつもりなんですか?」
彼女の言葉にはどこか嫌味を感じるけど……あ。
みんなは僕がTOP4と友達だなんて知らない。そんな中で、彼女達に投票すらしなかった僕が突然プレゼントを上げるって言ったら恐ろしく不自然。
そこから僕達の関係が疑われるのは流石に行けないと思う。
「え、えっと、そこまで親しいわけじゃないけど、長月さんはクラスメイトだから、みんなでお祝いするみたいな話になったら僕も参加しようかな、くらい」
慌ててそんな嘘でごまかすと、それを聞いて驚いたのは只野先輩だった。
「なぬ!? 同志よ。お主、まさか長月殿の生誕を祝わないつもりでござるか?」
「う、うん。だって、僕なんかに急に祝われても困るだろうし」
「そんなことはないでござるよ! 長月殿はどのような方にもお優しき御仁。有内殿が祝いの品を渡せば絶対に──」
「たーだーのーせんぱーい」
お昼を食べるのをそっちのけで、僕に熱弁を振るおうとした先輩に対し、岩良さんが恐ろしく低い声を出した。
間違いなく呆れ顔をした彼女は、また只野先輩にジト目を向ける。
岩良さんの視線を受けた先輩は、まるでメデューサに睨まれたかのように焦り顔のまま固まってしまう。
それを見て、フンッとそっぽを向いた彼女は、そのまま自然な顔に戻りこっちに話しかけてくる。
「有内さんって、長月先輩と同じ二年生だったんですね」
「あ、うん。そうだけど」
「すいません。先輩なのになんか馴れ馴れしく呼んじゃってましたね」
「ううん。別に気にしてないし、今の呼び方のほうが呼びやすいならそれでもいいよ」
「本当ですか?」
「うん」
僕が素直に頷くと、岩良さんがほっと胸を撫でおろす。
まあ、こっちも只野先輩に色々追及されたらボロをだしちゃいそうだったし、本当に助かったけど。
ただ、この気まずい空気のままだとちょっと居心地が悪いかな。
「そういえば、岩良さんと只野先輩って知り合いなの?」
軽く味噌汁を口にした後、僕が岩良さんにそう尋ねると、彼女は何故かため息を漏らす。
あれ? なんか聞いちゃいけなかったのかな?
そんな不安を覚えていると。
「只野先輩とは家が隣で幼馴染なんですよ。一応」
岩良さんはそう言うと、呆れ顔のまま肩を竦めた。
「さ、流石に一応とは、酷い言い草ではござらんか。幼稚園からの仲でござろう?」
「確かにそうですけどー。昔は頼りになるなーって思ったこともありますけど、今じゃただの長月先輩オタクじゃないですか。尊敬する気持ちなんて微塵もありませんよ」
只野先輩に取り付く島すら与えない冷たい言葉。
実際先輩も「うぐぐ……」というくぐもった声を出したけど、それ以上反論ができない。
周囲から見たら、このやり取りってどう見えるんだろう?
なんとなくだけど、不仲に見えるこのやり取りってTOP4でもたまにあったりするし、本気で仲が悪かったら一緒にご飯なんて食べないよね。
「先輩と岩良さんて、仲が良いんですね」
僕がそう口にした瞬間。
「そ、そんなことありませんから!」
「そ、そう! 拙者達は、幼馴染以外の何者でもないでござるよ!」
突然二人は顔を真っ赤にして僕の言葉を否定した。
あまりに必死の形相に、
「そ、そっか。ごめん」
思わず僕は椅子に座ったまま尻込みしそうになる。
こ、ここまで必死に否定したってことは、本当に仲が良くないのかな?
でも、だったらなんで一緒にご飯を食べてたんだろう?
そんな疑問が頭をよぎったけど、二人の雰囲気から見て、その話題を振ったら焼け石に水。僕が怒られかねないよね。
どこかモヤッとしながらも、僕はそんな感情を沙和さんが作ってくれたおにぎりと共に飲み込んだんだ。
◆ ◇ ◆
結局、千麻さんの誕生日の話はうやむやになり、そのまま終わった昼休み。
午後の授業も無難にこなし、気づけばいつも通りに放課後を迎えた。
土日のことを考えると、少しはお菓子とかを買い込んでおいたほうがいいかも。
そう思って帰り道に少し遠回りしてスーパーで少し買い物をし、それから家に戻った。
制服からパジャマに着替え、キッチンの流し台で沙和さんから借りていたスープジャーを洗って拭いておく。
……これでよしっと。
えっと、時間は六時過ぎか。明日のこともあるし、後は少し部屋の掃除とかをしておこうかな。
スープジャーをキッチン側のカウンターに置いた包みに戻した僕は、そのまま自分の寝室から掃除機を持ち出し、少し部屋の掃除を始めた。
……千麻さんの誕生日か。
プレゼントって、一体何がいいんだろう?
僕は掃除機を掛けながら、ぼんやりとそんな事を考える。
リアルで知り合ったのは、まだまだつい最近。
千麻さんの誕生日すらたまたま知っただけ。他のみんなの誕生日なんて知らないどころか、細かな好みなんかもわからない。
だいたい、女子相手にプレゼントなんてあげたことなんてないし、どういう物が好まれるかなんてさっぱりわからないんだよね。
千麻さんが好きそうな物……本は色々読んでそうだけど、こういうのって同じ本を持っていたり、既に読んでたりしたら気まずいよね。
となると、洋服とかアクセサリーとか……って、僕にそんなのを選べるセンスもないし、勝手に選んで彼女の好みじゃなかったら申し訳ないし……。
こういう時って、本人に聞いてから買ったほうがいいのかな?
でも、それもなんか空気を読めてない気がするよね。
うーん……そうだ。
沙和さんが来たら聞いてみようかな?
昔から一緒の彼女だったら、好みとかも知ってそうだし、特に沙和さんはファッションなんかにもこだわりがありそうだから、いいアイデアを持ってるかもしれないよね。
よし。
今日少しだけ話をしてみて、相談に乗ってくれそうなら後で通話しながら話を聞いてもらおう。
僕はそんな事を考えながら掃除を進めていったんだ。




