第3話:宣戦布告
廊下から食事スペースに入ってきたTOP4のみんな。
周囲の生徒達の視線を集める中、沙和さんがきょろきょろと辺りを見回す。
なるべく自然に。自然に……。
いざとなるとやっぱり緊張するけれど、それでも気後れまではしてないし、大丈夫だと思う。
僕は座っていた場所から、食事スペースのテーブルの間にある広い通路部分に歩み出た。
「あっ! みーっけっ!」
その瞬間、沙和さんが彼女らしい快活な声と笑顔を向けてくると、金髪のポニーテールを揺らしながら走ってきた。
周囲の視線がこっちに集まったような気がするけど、僕は敢えてそれらを無視し、その場で歩みを止める。
「やっほー!」
「あ、その。こんにちは」
思わずおずおずとしちゃったのは、もう癖だと思う。
だけど、急に堂々とするよりは自然だよね?
とにかく、ここからはどれだけうまく演技できるかにかかってる。頑張れ、俺!
「みんなー! こっちこっちー!」
心の中で自分を鼓舞していると、後ろを振り返った沙和さんが、立ち止まっていたを呼び寄せる。
その呼びかけに応え、瑠音さんは澄まし顔で。千麻さんは落ち着いた表情で。喜世さんはそっけない感じを見せながら、それぞれゆっくりと歩み寄ってきた。
みんなが横に並ぶのと同時に、また沙和さんがくるりとこっちに向き直る。
「ほらー。この子が昨日話してた、弁当カメラマンだよ!」
べ、弁当カメラマン?
あまりに予想外過ぎる切り出され方に、僕が本気で唖然とすると、それを見た喜世さんが呆れ顔をする。
「おい、沙和。そんな戦場カメラマンみたいな呼び方は酷いだろ。こいつもびっくりしてるじゃねえか」
「本当ですわ。私達の時間を奪ってまで会わせるなら、ちゃんと紹介なさい」
「えへへっ。ごめんごめーん」
喜世さんと瑠音さんが苦言を呈すると、てへっと舌を出し愛想笑いを見せた。
「うっわーっ! 武氏さん可愛すぎんだろ!」
「今ので心臓打ち抜かれたわ。俺、駄目かも……」
直後。男子生徒が一気に盛り上がり一気に騒がしくなったけど、目の前の四人が動じてないのは、やっぱり慣れっこなんだと思う。
「でもさー、今日の包み、なーんか子供っぽくなーい?」
と。再びこっちを見た沙和さんが僕に近づくと、前屈みになって手に持ったお弁当箱の包みを覗き込んでくる。
それを見て、ギクリとした喜世さん。
勿論、僕もそうだ。
さ、流石にそのまま真実を伝えるわけにいかない。と、とりあえず……。
「じ、実は、いつもよくしてくれている近所のおばあちゃんが、孫にお弁当を持たせるの忘れちゃったらしくって。それで、代わりに食べないかって言ってくれたから、お言葉に甘えたんだ」
「へー。いいおばあちゃんっているもんだねー」
僕の咄嗟の嘘に、沙和さんはにこにこでそう返してくれる。
でも、あんな嘘の吐き方でごまかせてるかな?
ちょっと不安になっていると。
「だけどよ。子供向けの味付けとか、合わなかったんじゃねーか?」
喜世さん自ら、お弁当の味を確認してきた。
周りの生徒が気づいているかわからないけど、片目を閉じこっちを見てる顔には、普段の彼女らしからぬ不安そうな顔が見え隠れしてる。
でも、僕の感想は勿論こうだ。
「全然。懐かしさもあったけど、凄く美味しかったよ」
「ほ、本当か?」
「うん。特にそぼろとか特に丁寧に作られてて、ほんと凄くよかったし。また食べたいくらいだったよ」
僕が誇張なしの褒め言葉を口にすると、喜世さんの頬が緩みかける。
あ。それは流石にバレちゃうんじゃ!?
「そうなのですか。有内君が唸るほどの味。どんなものか非常に興味がありますね」
焦りが顔に出たのに気づいたのか。
喜世さんの前に出た千麻さんが、僕に小さく微笑んできた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは。長月さん」
「あっれー? 二人って知り合いー?」
「はい。去年からずっと同じクラスですから。ね? 有内君」
「う、うん」
僕が沙和さんと千麻さんに返事をすると。
「マジかよ!? あいつ、羨ましすぎだろ!」
「ほんとだぜ。俺なんてTOP4と同じクラスにすらなったことないってのに……」
そんな男子の嫉妬にも似た声がする。
まあ、きっと彼女達のファンであれば、クラスメイトになるのは念願みたいなものだし、そう思われるのも仕方ないのかな。
あれ? そういえば、僕達の学校での接点を作ろうとしているのはいいんだけど。
「あ、あの、武氏さん」
「ん?なーに?」
「あ、あの。なんでTOP4のみんなを連れてきたの?」
僕のそんな疑問を聞くと、沙和さんは相変わらず屈託のない笑顔で、びしっとこっちを指差した。
「もちっ! 宣戦布告でーっす!」
「……え?」
宣戦布告?
この言葉には、周囲の生徒も同じ気持ちになったのか。みんながほぼ同時に首を傾げた。
でも、そんな空気なんて関係なしに、沙和さんは笑顔で話を続ける。
「ありうっち! 次の文化祭には、ぜーったいあーしに票入れてもらうかんね!」
あー。あの話か。
シャインズ・ゲートで互いに正体を知った時、こんな話になったっけ。
「あら。沙和。私を差し置いて、そのような結果を得られるとでも?」
沙和さんの宣言を聞いた瑠音さんは、ピンクの髪を払い自信ありげに腕を組む。
「おいおい、お前等。票を強制なんかする奴なんかがモテるわけねえだろ。な? 千麻」
「そうですね。もしかすると、今年も同じクラスになった縁で、私を選んでくれる可能性はあるかもしれませんが。それもまた有内君の気持ち次第。心を動かせるかは、これからのお話かと」
喜世さんの僕を庇うような言葉に、千麻さんがまた眼鏡を直しそうフォローを──あれ? これからのお話?
「ちっちー。それってー、あーし達に勝てるよーって言ってる?」
「勝てるとは言っておりませんが、負けるとも言っておりません」
沙和さんの問いかけに、千麻さんが落ち着きを払いさらりとそう口にしたけど、なんかこういう反応ってちょっと珍しいよな……。
ただ、あまりにはっきりとそう言い切ったせいで、喜世さんが赤髪をガシガシと掻き呆れ顔をする。
「千麻。お前、それこそ宣戦布告じゃねえか」
「あら。貴女も彼に気を遣う振りをして、票を稼ぐ気ではありませんこと?」
「そ、そんなことあるわけねえだろ! ったく……」
なんかこのやり取り、演技にしても真剣さをひしひしと感じるのは気のせいかな。
ただ、僕に絡むための理由付けとしては正当だし、周囲を信じ込ませるには十分かもしれないけど。
とはいえ、TOP4の予想外のやり取りは、周囲をにわかに騒がしくしてる。
流石にこのまま話を続けるのも……そうだ。
「あ、あの。僕、今日日直だから、そろそろ戻らないとなんで」
僕はまるで他人の事のように、四人のやり取りそっちのけでそう口にすると、彼女達が思わずこっちを見た。
「マ!? タイミング悪くてごっめーん!」
「う、ううん。気にしないで。それじゃ、悪いけど先に──」
「有内君。私は沙和にあなたを紹介したいと案内されただけですので、一緒に戻りましょう」
「え?」
「ま、俺も同じだ。どうせだし一緒に行こうぜ」
……あれ? ここは素直に解放してくれないの?
もしかして、僕がTOP4の標的にされてるってより強調したいのかな?
「じゃーあーしももーどろっ! るとっちは?」
「愚問ね。教室までの間に、私の魅力を存分にお話いたしますわ」
なんか、瑠音さんなら実際にやりかねないかも。
そんな事を思い自然と苦笑してしまう。
「えっと、じゃあ、行く?」
「おっけー!」
「よろしくてよ」
「ああ」
「では、参りましょう」
僕が歩きだすと、その脇に四人が並び歩き出した。
周囲の生徒達はあまりに予想外の展開に、声も出せず驚愕してる。
この中で、貴堂君みたいな相手が出てきたりしないか。そんな不安に身を震わせそうになったけど、僕はそれを無理矢理気持ちで抑え込んだ。
TOP4と友達でいるんだったら、この先きっとそういった覚悟もいる。
勿論、周りからすれば、今の状況はTOP4の気まぐれに見えるはず。
僕が周囲にTOP4の友達って認めてもらうには、まだまだ沢山ハードルがあるけれど、少しずつでもそれを超えていこう。
僕は彼女達に囲まれ気まずそうな振りをしながら、一人そう決意を固めたんだ。




