第2話:友達だからこそ
朝のバタバタから一段落し、無事に日直の仕事もこなしながら迎えた昼休み。
僕は今日も一階の食事スペースに足を運ぶと、奥の壁際の席に腰を下ろした。
今日は喜世さんのお弁当。
千麻さんと同じく料理が得意な彼女が、どんなお弁当を作ってくれたのかすごく楽しみだ。
机にお弁当をおいてふと思う。
笑うなって言ってたのがちょっと気になったけど、考えてみたらこの年でミニカーの包みを使ってる生徒なんて見たことがない。
もしかして、これのせいなのかな?
僕は特に気にしないし、これで周囲にからかわれたとしても別に構わないけど。
さて。じゃ、開けてみよう。
縛ってある包みを解き、そこから出てきたお弁当箱を──あれ?
中から出てきた物を見て、僕は思わず首を傾げた。
確かに預かった時に少し小さめだなって思ったけれど、ステンレスっぽいお弁当箱の蓋には、どこかで見たような戦隊ヒーローがいた。
えっと、確かピュアキュアと同じく、日曜日にやってるってCMをしてた気がするけど、名前がちょっと思い出せない。
でも、違和感はそれだけじゃなかった。
一緒に付いていたお箸入れのサイズは大人用よりやや短め。お箸入れのデザインは、多分ポシェットモンスターのピッカリチュウっぽいかな。これもCMでは見たことがあるし。
見れば見るほど、これって僕用に作ってくれたようには見えないお弁当。
確か、喜世さんは弟さんがいて、一緒に作るって言ってたよね。
……もしかして、このお弁当って弟君ので、間違って持ってきちゃったのかな?
それでも渡されたって事は、食べてもいいんだよね。
まあ、折角なんだしちゃんと頂こう。
僕がゆっくりとお弁当箱の蓋を取ってみると……うわぁ。
僕はまるで子供のための宝石箱にも見えるお弁当に、思わず目を輝かせた。
お弁当の六割を占めるご飯には、カットした海苔や、幾つかのそぼろを使い、さっきのピッカリチュウが描かれてる。
残りのスペースには野菜の他、ウサギ型にカットされた林檎に、たこさんウィンナーも入ってる。
なんか、すごく懐かしいなぁ。
小さい頃、お母さんが作ってくれたお弁当を思い出させるそれは、僕を自然と笑顔にさせてくれる。
これもちゃんと写真に収めておかないと。
僕はいつものようにスマホを構えると、お弁当にカメラを向けシャッターを切った。
さて。じゃあ……。
「いただきます」
両手を合わせ頭を下げた僕は、そのまま箸箱から少し小さな箸を取り出すと、お弁当箱をじっと見る。
さて、最初はやっぱりこれかな。
一番最初に箸でつまみあげたのはタコさんウィンナー。それを口の中に放り込むと、なんか凄く懐かしい味がした。
ケチャップベースの味付けに、ウィンナー自体に付いた塩気。
そうそう、この味だ。少しカリッとした表面の皮の食感も凄く懐かしい。
最近は大人用のウィンナーを買って食べる事が多いんだけど、改めて子供用のを食べると味付けが少し控えめだって気づく。
でもそれがケチャップと合わさってバランスがいい。こう考えると、子供向けのお弁当も色々考えられてるんだなぁって思う。
合間にサラダを挟み、次はご飯にいこう。
折角上手にデザインされたキャラクターを崩すのはちょっと勿体ないけど。
僕は豚肉のそぼろが乗ったご飯を箸でつまみ上げると、それを口に入れてみた。
……うわっ。このそぼろ、本気で凄い!
実は肉そぼろって、作る時に炒めすぎるとパサパサになりやすいんだよね。
だけど、このそぼろはそんなことない。ちゃんと豚肉らしいジューシーさを保ったままそぼろに出来てるんだ。
卵のそぼろもふっくら感が残ってる。これって本当に凄いことだし、だからこそ凄く美味しいんだ。
この味を子供ながらに味わえるって、弟君も幸せだろうなぁ。
まだ見たことすらない喜世さんの弟君を勝手に想像しながら、僕は気づけばぺろりとお弁当を平らげていた。
「ご馳走様でした」
ほんと。この三日間美味しいお弁当しか食べてない。こんな贅沢あっていいのかな。
そう思いながらお弁当箱を片付け始めた。
「き、来たぞ!」
どこからした男子の声。
同時に、食事スペースがにわかに騒がしくなった。
もしかして、昨日みたいに沙和さんが顔でも出したのかな?
そんな事を思いつつ、僕が余所見もせずお弁当箱を包みに戻していると。
「はあっ!? お昼にTOP4が、食堂に勢揃い!?」
「う、嘘だろ!?」
「ほ、ほんまやないか!」
なんて男子生徒達の声が耳に届く。
え? 全員?
思わず顔を上げると、生徒達が見つめる先。廊下の方に確かに四人の姿が見えた。
この間見た限り、みんな自分のクラスで友達と一緒にいる時間だったはず。
それなのにここに来た理由って、もしかして……。
「よ、よし! 弁当撮影作戦だ!」
「うわぁ! 俺学食だぁ!」
「諦めるな! 食べ掛けとか撮ってたら変に思われて声を掛けられるかもしれねえだろ!?」
「変な奴に思われるのは、それはそれで複雑だろって……」
変な盛り上がりと共に、周囲でスマホを持ってお弁当を撮影する男子生徒達。
それでTOP4の気を引けるかといえば、多分そんなことはないと思う。
だって、彼女達の目的は多分僕だから。
あくまで推測でしかないけど。
きっと沙和さんは、昨日の件で僕と関係ができたのを利用して、その流れでみんなを紹介して、僕とTOP4の最低限の繋がりを作っちゃおうって考えている気がする。
ここはどうするのが正解なんだろう……。
こそこそと身を小さくして、うまくやり過ごすべき?
関係性を築いた結果、周囲の男子に妬まれたりしないか。そんな不安のせいで、僕の心が萎縮しそうになる。
そんな時。
ふと僕は、沙和さんのある言葉を思い出した。
──『さっき話したじゃん。あーし、ありうっちの事を色々知りたいーって』
──「う、うん」
──『あれってもち本音だしー、リアルで会いたいのもそう。そう思っちゃうのは、あーし達にとって、ありうっちが特別な友達だからなんだよねー』
ネットゲームの友達でしかなかった僕達が、互いに身近な存在だったと知ったあの日。
沙和さんは既に口にしてくれていた。僕のことを特別な友達だって。
そして、昨日僕は改めて口にしたじゃないか。
この先もみんなと友達でいられたらって。
僕にとってのTOP4は、特別で、大切な友達。
それなのに相手を避けるなんて、やっぱりおかしい。
……僕は変わるって決めたんだ。
そのきっかけを、沙和さんが作ってくれようとしてるんだ。
だったら、覚悟を決めなきゃ。僕と、みんなの未来のために。
椅子に座ったまま、目を閉じ静かに深呼吸した僕は。
「よしっ」
小さくそう呟き気合を入れると、お弁当箱を手にし立ち上がったんだ。




