第22話:過去から未来へ
「僕って変だよね」
僕の言葉に、みんなが無言で憐れみの目を向けてくる。
四人にそんな顔をさせているって申し訳なさはあった。
でもそんな気持ちとは裏腹に、堰を切ったように情けなさが口を衝く。
「こうなる覚悟までして勝手に助けたくせに、僕は沢山後悔した。SNSとかマンガとか、そういう煌びやかな世界なんて僕には眩しすぎて。現実はそんな甘くないって、そういう物に目を向けるのを止めた。親や先生以外と話す機会のない生活は、僕にどうやって同級生と話せばいいかわからなくした。世間に疎く、話し方すらわからなったけど、話す相手がいないから困りはしなかった。けど……だけど……本当は困りたかった! 困ってでも友達と話せたら! 一緒にいられたら! それがどれだけ楽しいんだろうって! そんな後悔ばっかりしてたんだ!」
感情が高ぶり、声が震える。
自然に浮かぶ涙が止められない。
みんながそれを望んでないかも知れないのに。
それでも、僕は空気すら読めないまま、勝手に語り続けた。
「結果、僕に残った唯一の希望は勉強だけだった。友達関係近くの高校に通えば、またこんな状況が続くかもしれない。それだけはどうしても嫌で。もうこんな世界から抜け出したい。その一心で勉強だけは頑張った。両親に無理を言って、東京の学校を受験して無事受かって、こうやって新たな高校生活を送れると思ったけど、結局中学のトラウマが尾を引いた。何が流行りかもわからない。話し下手でまともに話せない。そんな僕は、高校に入っても学校で友達らしい友達なんて作れなかった」
……話していくうちに、情けなさで逆に気持ちが冷めてきて、僕は少し冷静になる。
四人をちらりと見ると、唖然としたまま固まってる。
でも、こんな話を聞かされてるんだもん。そうなっても仕方ないよね。
僕は涙を拭うと、小さく笑う。
「そんな僕にとって、ファンタジー・フォレストは救いの場だった。受験が終わって、暫く勉強をしなくて済むようになった僕は、することを失って時間を持て余したんだけど。たまたまCMで見たファンタジー・フォレストのゲーム画面は凄く魅力的に見えて、僕はただ独り、景色でも見ながらのんびり過ごそうって決めて、ゲームを始めてみることにしたんだ」
でも、本当はあの時も少し虚しかった。
独りで世界を旅するのと、学校で独りなのがまるで表裏一体に感じて、この先もずっと僕は独りなんじゃって、思っちゃってたから。
「でも、初日からそうはいかなかった。いきなり死にかけた僕を助けてくれたみんなとの出会い。それは一期一会だと思ってたのに、みんなは何かと僕を気にかけてくれて、時々一緒に遊んでくれた。ビルフも、ラルトも、ブレキオもナガツも。みんな優しくって……それが、本当に、本当に嬉しくって。でも、同時に迷惑をかけちゃいけないなとも思っちゃって、独り悩んだり、困ったりもした」
みんなと過ごすうちに生まれた不安。
それは間違いなくあった。
でも……。
「ただ、それだって僕にはとてもかけがえのない時間だった。だって、僕はやっと友達相手に困ったりすることができたんだから。……だから、みんなにシャインズ・ゲートに誘ってもらえた時、凄く嬉しかったんだ。本当に」
その言葉に嘘なんてない。
これが僕の本心。だけど、それだけが本心じゃない。
僕は目を伏せると、そのまま言葉を続けた。
「……でも。だからこそ、僕はみんながTOP4だと知って、友達でいたいって言われてからずっと怖いんだ。人気者のみんなと一緒にいたい。でも、妬まれてまた中学みたいに戻りたくない。ゲームだけじゃなく、現実でも少しでも一緒にいたいというなら友達として応えたいし、自分が変わらなきゃって思ってるのに。自分が変わったって未来は変わらないんじゃないか。また友達を失って、誰も側にいない日が来るんじゃないかって、不安になっている自分もいて。今は嫌われないようにしよう。友達でいてもらえるようにしようにって、ただただ必死なんだ」
『優くん……』
『優汰様……』
『優汰……』
『優汰君……』
みんなが、心配そうに僕の名前を呼ぶ。
上目遣いに彼女達を見ると、それは表情にも色濃く出てる。
……教会の中で、シスター姿のみんなを前にこんな話をしてる。
なんか、まるで懺悔しているみたいだ。
ふとそんなくだらないことを思ってしまったことに、僕の頬が緩む。
えっ? とみんなの表情が少し変わったけど、それも当然だと思う。
でも、そんな表情のままにさせておけない。だから、最後までちゃんと伝えよう。
「あの、こんな変な僕だけど。友達としてまだまだな僕だけど。それでも、あの日言った思いは本当なんだ。僕は、この先もみんなと友達でいられたらって思ってる。だって、みんなは僕にとって唯一の友達。僕にとってのTOP4だから。……でも、みんなはそうじゃないかもしれない。だから、もし友達を止めたいって思ったら──」
『思うわけないじゃん!』
僕の弱気な言葉を遮ったのは、少し涙声の沙和さんだった。
彼女の表情も泣きそうになってる。だけど、普段みたいにエモートまでは付いてない。
なんとなくそれが、沙和さんが本気で叫んでくれたように思わせてくれる。
『あーしは、優くんのそういう優しいとことがいいの! 優くんだから一緒がいいの! だから、あーしはぜーったい、友達止めるなんて言わないかんね!』
『当たり前ですわ。ここまで私達の事を心配してくださっている優汰様を、嫌いになる要素などございませんもの。……本音を言えば、貴方様をいじめた相手に報復してやりたいのだけど』
……え? ほ、報復!?
あまりに真剣な顔でそう口走る瑠音さん。
デジカメの件でも似たようなことがあったけど、あの時同様に冗談に感じられないその言葉と表情は、僕を焦らせるに十分だった。
「る、瑠音さん。そこまではしなくっていいから。もう過去の話だし」
『ほんとだぜ。お前はいつもそうやって優汰を困らせてんじゃねえよ』
『こ、困らせてなどおりませんわ! 私はただ、優汰様の事を思って──』
『だったら優汰の言うことを聞けって。こいつがそんなの望む奴じゃねえだろ。ったく……』
瑠音さんがころりと態度を変え、言葉と表情だけで必死に弁解すると、喜世さんが呆れながら大きなため息を漏らす。
だけど、やっぱり彼女も動いたのは表情だけ。あと、やっぱりどこか声が震えてる気がする。
そんな中、喜世さんがふっと真面目な顔をしてこっちを見た。
『いいか? 優汰。過去を忘れろなんて言わねえ。だけど、もう後悔するな。確かに、自分が悔やむようなことをしただろうし、お前が苦しむようなことがあっただろ。だけど、それは無駄じゃねえ。それで助けられた奴らもいる。そして、何よりそれがあったからこそ、俺達と出会えたんだからよ』
「みんなと、出会えた……」
喜世さんが優しい声で切々と語ってくれた言葉。それが、心に染みる。
僕が選んだ道は間違っていなかった。そう言ってくれているようだったから。
『そう。優汰君は素晴らしい行いをしたのです。きっと神様も、そんなあなたを許し、ご褒美として私達と巡り合わせてくださったのかも知れませんよ』
千麻さんは本当のシスターみたいな事を口にすると、優しく微笑んでくれる。
巡りり合わせ……。
確かに、こんな辛さを経験したからこそ、僕はファンタジー・フォレストに触れ、偶然みんなに出会えた。
それはただの偶然。でも、あの過去がなかったらきっと、ゲームに触れることもなかったと思う。
『優くん。あーし達、ぜーったい優くんを幸せにするから』
『そうですわね。貴方様の辛い過去など、私達との想い出で薔薇色に染めてみせますわ』
『ま、お前も今までと違うプレッシャーはあるだろ。だけど、俺達がお前にとってのTOP4だってなら、俺達だってお前にとってのTOP4でいてやるよ。この先お前に友達ができても、それでも俺達が最高の友達だって言わせてやる』
『はい。ですから、これからも共に歩みましょう』
真剣な表情の沙和さんと瑠音さん。
笑顔を見せる喜世さんと千麻さん。
表情も言葉も違うけど、みんなが真剣に伝えてくれた思いが僕の鬱々した気持ちをゆっくりと霧散させてくれる。
「……嬉しいな」
ぽつりと漏れたそんな言葉と共に、僕は涙を拭うと笑って見せた。
「みんな。ありがとう。あと、迷惑ばっかり掛けて、ごめん」
『構わねえって。どっちかといえば、学校で優汰の気持ちも考えず話しかける奴とのほうが、よっぽど迷惑かけてるしよ』
『う、うるさーい!』
喜世さんがにしししっと目を細め沙和さん達に顔を向けると、沙和さんが叫びながらぷんぷんと怒るエモートを見せた。
『不貞腐れるくらいでしたら、無闇にそんな行動を取らなければ良いと思いますよ?』
『仕方ないじゃーん。優くんがお弁当の写真撮ってるのがめっちゃ気になっちゃって、気づいたら無意識に声かけちゃってただけだしー』
「……え? そんな理由なの?」
瑠音さんと話していた憶測は完全に空振り。
まあ、沙和さんらしいと言えば沙和さんらしいけど。
『えー? そんな理由じゃダメ?』
反省の色を感じさせない彼女が、きょとんとして首を傾げる。
「え、えっと。駄目ってわけじゃないけど、あの時は正直戸惑っちゃって」
『沙和。少しは優汰君の事を考えて行動しましょう?』
『そんなこと言っちゃってさー。ちっちーだって、昨日二人でこっそり一緒に帰ったんでしょ? あーしのが迷惑って言うなら、それだって迷惑じゃーん』
『そ、それは、そうかもしれないですが……』
突然の反撃に、困ったように俯いた千麻さんが、様子を窺うようにこっちをちらちらと見る。
これ、迷惑かどうかって聞かれてるのかな?
「まあ、緊張はしたけど。別に迷惑じゃないよ」
『そ、そうですか。良かった……』
僕がそう返すと、千麻さんが心底ほっとする。
『まったくよー。お前らはすぐそうやって、優汰の優しさに甘えやがって』
『あら? そんなこと言って。貴方様だって、明日はやっと俺の番だって楽しみにしていたわよね? あわよくば、一緒に帰ろうと思ったんじゃありませんこと?』
『う、うるせーよ! お前だってさっきから、優汰様優汰様言ってるじゃねえか。急にキャラ変してるんじゃねーって』
『な、何を仰りますの!? 今こそが本当の私。これから先、優汰様とより良い関係を築くため肩肘張らずそうお呼びしようと思っただけですのよ』
『うっそくせー。いっつもツンツンしてるほうが本性に決まってんだろ』
『そ、そんな事ございませんわ! 勝手なことを言わないでくださいまし!』
教会でシスター姿の四人が、予想外のことで言い合いをしている。
異世界で普段通りの賑やかさを取り戻した彼女達を見て、ぼくはくすりと笑う。
『優汰。今、俺達を見て笑ったろ?』
『まさか、呆れてしまいましたの!?』
『ゆ、優くん。そ、そんなことないよねー?』
『そうだとしたら申し訳ございませんが……』
焦りと不安を見せる四人。
でも、呆れたなんてことは勿論ない。
「違うよ。ただ、やっぱりこうやって賑やかなのほうが、僕が知ってるTOP4らしくていいなって」
安心させるように微笑むと、四人は急に顔を真っ赤にする。
あれ? なんでだろ?
『や、やっぱ、優汰はそうやって笑ってるほうが、かっこいいよな』
『ほんそれ! マジヤバ過ぎて顔がニヤけそうになっちゃうしー』
『ま、まあ否定はしませんわね。優汰様。私達の前では是非、笑顔でいてくださいまし』
『はい。その笑顔があれば、私達は幸せを噛みしめることができますから』
笑顔がいいって言ってもらえるのは嬉しいけど、今までとそこまで変わらないと思うんだけど。
そんな事を思いながらも。
「うん。そうするよ」
僕は決意表明を兼ねて、そうはっきりと言葉にした。
友達との過去で後悔するんじゃなく、友達との新たな未来を楽しみたい。
そう、はっきりと思えたから。




