第31話:嘘告白の始まり
あの後、僕はみんなから簡単な説明を受けると、一人教会の中に残ることになった。
みんなは一旦教会の外に出て準備中。
イズコのボイスチャットも、僕だけ別の部屋にいる。
厳かな曲だけが流れる、落ち着いた教会の祭壇の前に立ったまま、僕はさっきの説明を振り返っていた。
今回の練習のルールはふたつ。
ひとつは、みんなの告白にちゃんとOKを出すこと。
断わっちゃうとキスまでいけないし、振られる練習がしたいわけでもないからっていう話だったけど、流れからするとそれは妥当だと思う。
それから、告白相手とのチャットルームで二人きりで会話し、告白の内容は他の人達に話さないこと。
いくら嘘の告白だとしても、その内容を知られるのは恥ずかしいと思うし、僕だって告白中の会話の内容を他の人達に聞かれてたら、恥ずかしすぎて逃げ出しちゃうかもしれない。
流れとしては、ひとりひとり順番に教会に入ってきて僕に告白し、こっちがOKしたところでキスをするって話になってる。
ただ、すっかり忘れていた事実を突きつけられて、既に僕の胸はバクバク言ってる。
その理由は、沙和さんに言われたこの一言。
──「ち、ちなみにー。今回はー、優くんもフェイトラあるじゃん。だからー、そのー。ちゃ、ちゃんと、キス顔してほしいんだけどー。いーい?」
それを聞いて流れで頷いちゃったんだけど、後々考えたら、それって凄く恥ずかしいってことに気づいたんだ。
確かに前は僕だけフェイストラッキングしてなかったから、ただ見てるだけで済んだ。
キ、キス顔ってことは、ちゃんとキスした気持ちで行動してってことだよね……。
た、たしかこの間のみんなは、目を閉じ唇を少し突き出してたっけ。
顔が近づいたら、それと同じ事をすればいいんだよね、多分。
でも、目を瞑ったらいつキスが終わったかわからなそうだけど……もし、じっとその顔を見られてたらどうしよう……。
今更ながらそんな不安に苛まれるけど、それも後の祭り。
聞き忘れちゃった以上、みんなが満足するまではその顔をしてないといけないかな……。
……うう。考えてるだけで変に緊張して喉が渇いてくる。
パソコンデスクの上に置いていたコップを手に取り、中のお茶をぐびっと飲んだ僕は、最初に誰が入ってくるのか。教会の扉を固唾を呑んで見守っていた。
教会のBGMを耳にしながら、どれくらい待っただろう?
そんなに時間は経っていないはずなのに、随分長い時間待ったような変な気持ちになっていると、ギギイッとゆっくり教会の扉が開き、そこから誰かが姿を現した。
逆光でパッと見シルエットしかわからないけど、あれは多分……。
『ま、待たせたわね』
耳元に届いた緊張した声。やっぱりあれは瑠音さんだ。
ゆっくりと閉められた扉。頬を染めたウェディングドレス姿の彼女は、恥ずかしそうな顔をしながら、ゆっくりと僕の前に歩いてくる。
やっぱり、瑠音さんも凄くドレスが似合ってるし、いつも以上に高貴さを感じる。
……うわ。ちょっと緊張で呼吸が荒くなりそう。お、落ち着かないと。
現実の自分だけが胸に手を当て、静かに息を整えていると、彼女は僕の手が届きそうなくらいの距離まで詰めた所で足を止めた。
『お、お元気かしら?』
「う、うん」
どこかぎこちない二人の会話。
え、えっと、段取りはさっき聞いた。だから、ここは僕の番だよね。
「え、えっと。それで、用事って何?」
これが、みんなと決めた告白を始める合図。
それを聞いた瑠音さんは、より頬を赤く染めると上目遣いに僕を見た。
『え、ええ。それなのだけど……少し、話を聞いてもらっても、よろしいかしら?』
おずおずと、不安そうな顔で問いかけられた僕は、彼女に釣られるように緊張しながら「うん」とだけ答えた。
瑠音さんは既に演技に入ってるんだろうけど、やっぱり今までの学校生活同様、それが演技と感じないくらい、恥ずかしさや迷いが伝わってくる。
でも、今は感心する気持ちなんかより、緊張が上回っていた。
『あの……今日、貴方様をここにお呼びしたのは、そ、その……わ、私の想いを、伝えるためですわ』
「る、瑠音さんの想い?」
『ええ』
一度目を閉じ、ふぅっと大きく深呼吸した瑠音さんから伝わる緊張感。
この先何を口にされるのか。それが僕の顔を火照らせていく。
そんな中、彼女はゆっくりと目を開くと、真剣な顔で僕を見つめ、語りだした。
『優汰様との出会い。それはファンタジー・フォレストでのアユとラルトとしてでしたわね』
「う、うん」
『先日、お話した、アユからのプレゼントをいただいた日の話。私にとって、あれが始まりでしたのよ』
「始まりって……何の?」
『それは……貴方様への、淡い恋物語の』
「……え?」
それって流石に早すぎない?
確かにあそこから世界が変わったとは言ってたけど、だからってあの頃には恋心を抱いてたの?
そんな事を考えていると、瑠音さんはちらちらとこちらの様子を窺いながら、告白を続ける。
『勿論、まだあの頃ははっきりと恋だと気づいてはいませんでしたわ。ですが、あの頃から私は、アユと少しでも一緒に過ごしたいという気持ちを持つようになりましたの。そして、時が進む毎に、私ははっきりと意識しましたわ。貴方様と共にイられない時間の寂しさと、胸の痛みを。そして、それが初恋だと気づくまで、それほど時間がかかりませんでしたわ』
流石に練習の告白なんだし、これが事実なんてことはないと思う。
だけど、口にされた理由に変な矛盾も感じなくて、一瞬本当かと錯覚しそうになる。
『そんな中、ファンタジー・フォレストからシャインズ・ゲートへと世界は変わり、目の前に優汰様が現れた。あの時、私は運命を感じましたの。まさか私の憧れの方が、このようなすぐ側にいらっしゃったなんて……』
ふっと瑠音さんの表情から真剣さが消えると、潤んだ瞳とともにどこか幸せそうなほほ笑みを浮かべる。
それがあまりにも綺麗で、僕の胸が今までにないくらいドキッとする。
少しの間、互いを沈黙が包んだ後。
瑠音さんは微笑みを崩さず、より熱い思いの丈を語り出したんだ。




