第30話:迷う優汰
「うーん……」
そこまで言われても、僕は躊躇しちゃって返事ができなかった。
だって、ゲーム内でどんなに有益なバフが貰えるにしても、結婚という言葉はより重い気がしたから。
『流石に、そこまでは嫌か?』
喜世さんが、こっちの様子を窺いながら、少し心配そうに声を掛けてくる。
正直、嫌かどうかはわからない。
現実で立って、TOP4と結婚するとか付き合うなんてこと、考えたことがなかったし。
勿論、今回の話だってゲームのシステムなだけ。実際の夫婦生活をするわけじゃないのはわかってる。わかってるんだけど……。
……うーん。
みんなはこういうのも、ゲームのシステムだって割り切れてるのかな?
「あの。変なことを聞いていい?」
『変なこと、ですか?』
「うん。あの、みんなってゲームとはいえ、結婚とか簡単にできちゃうタイプ?」
僕の質問に、四人が顔を見合わせる。
『まあ、流石にリアルじゃ無理けどよ。ゲーム内の結婚なんて現実とリンクしてるわけじゃねえし。システム的に有効ってなら、ありはありじゃねえかな』
『あーしもそーかなー。あ、でもー、勿論誰とでも結婚できるわけじゃなくってー。や、やっぱそこは、特別な優くんだからーってのはあるかも。きよっちもそうだよね?』
『あ、ああ。勿論。それは大前提だぜ。その辺の野良パーティーに入って急に結婚しようなんて言われたら、死ぬ気で断るしよ』
『そうですね。私も同じ気持ちです。瑠音は?』
『言うまでもありませんわ。優汰様だからこそ、このようなお相手を頼めますわ。言い方を変えれば、他の方相手でしたらお誘いがあってもお断りしますもの』
僕だからこそ。
その言葉は嬉しくも感じたけど、同時にちょっと不安にもなった。
やっぱり、今までの初めてなんかよりより遥かに重い気がしたから。
「ちなみに、みんなは初めての結婚をゲーム内で経験しちゃうのって、あまり気にしない?」
『ま、まあ、全く気にしないと言われれば、嘘になりますわね』
『……何故、そのような疑問を口にされたのですか?』
千麻さんの問いかけに、雰囲気を悪くするかもと思いながらも、僕は真面目な顔でこう答えた。
「あくまで僕の考え方なんだけど。キスとか嘘の告白なんかだって、ゲーム内で初めて経験するのは恥ずかしいよ。だけど、それは練習だってわかってるからいいかなって思ってるんだ。みんなの役にも立てそうだし。ただ、これがゲームの中だけとはいえ恋人や夫婦になりたいっていうと、それはなんとなく一線を越えてるっていうか。そういうのはやっぱり、みんなが好きな人と初めてを経験したほうがいいんじゃないかな? って思っちゃうんだよね」
自分の頭がちょっと硬すぎるのかな。
そんな気持ちになりながら、僕は言葉を続ける。
「だから、みんながゲームのシステム的に割り切れてて、全然気にしないなら僕も割り切ろうと思うんだけど。そういう関係性を気にするんだったら、お互い無理しないほうがいいのかなって」
僕の話を聞いて、みんなが神妙な顔をする。
もしかして、そこまで深く考えてなかったのかな?
彼女達がお互い顔を見合わせる。でも、中々誰も話そうとしない。
だとしたら、僕が空気を読めてなかっただけかな……。
「ご、ごめん。なんか変な話をしちゃったけど、みんなが構わないなら僕もいいから」
気まずい感じに耐えきれず、思わずそう答えると。
『それは、駄目だと思います』
眼鏡を直し表情を引き締めた千麻さんは、しっかりとそう口にした。
みんなの視線が集まる中、彼女は話を続ける。
『私は……いえ。私達は、優汰君がこういう時の初めてでもいいと思ってます。それだけあなたが特別。その気持ちは変わりませんし、それだけの仲だとも思ってますから。ですが……同時に私達は、優汰君が嫌だと思うことをしたいわけじゃないんです』
『確かにそうだな』
それを聞いて、次に口を開いたのは喜世さん。
『俺達もちょっと行き過ぎてたかもしれねえ。お前が俺達に必死に気を遣ってるのに甘えてよ。だけど、本当にお前が嫌だけど付き合うって話なら別。俺達はそこまでしてお前に無理をしてほしくねえ』
『そうですわ。優汰様はお優しいわ。だから特別な友達だとも思えましたけれど。それで優汰様が思い悩むのであれば、それは本末転倒。そこまでして結婚したいとは思いませんわ』
瑠音さんもまた、しっかりとそう口にする。
みんな、流石に僕がすぐにOKしなかったから、嫌がってるって感じたのかもしれない。
『ちなみになんだけどー』
そんな中、沙和さんがおずおずと口を開く。
『今日ってお互い意図せずにこんな格好をしちゃったじゃん? 実際に結婚はしないってなった場合でも、この格好で告白の練習はしちゃっていいの?』
「まあ、それは構わないかな。正直、告白の練習にどんな服装がいいかもわかんないし。結婚っぽい雰囲気はでちゃうかもだけど、それは仕方ないと思うから」
『そっか』
僕の返事を聞いて、沙和さんが他の三人を見る。
『じゃー、結婚の話はなしにしよ。その代わりー、優くんに嘘でも結婚したいって思わせるくらい、真剣に告白する。それでいい?』
し、真剣に? 練習にそこまで入れ込むの?
あ。でも、それが普通なのかも。
この間の岩良さんだって、あれだけ悩んでやっと只野先輩と付き合えたわけだし。
ちなみに、デートの後に岩良さんにメッセージでどうなったか聞いたんだけど。
先に告白してくれたのは只野先輩だったみたい。ただ、自分も思いを伝える時に凄く勇気がいったって言ってた。
そう考えると、それくらい気持ちが入ってないと練習にならないもんね。
『ま、まあ、俺はそれでもいいぜ』
『わ、私もです』
『私も、か、構いませんわよ』
沙和さんの言葉にOKをした三人。
だけど、一気に彼女達が緊張したのが表情でわかる。
『優くんは、それでもいーい?』
「う、うん。わかったよ」
『じゃ、これで決ーまりっ』
緊張しながら答えると、沙和さんもどこか緊張した感じで小さく微笑むと、また三人に向き直り、ぎゅっと拳を握るエモートと共に気合いの入った顔をする。
『みんなー。今日は頑張るぞー!』
『おー!』
TOP4のみんなが同時に拳を突き上げるエモートをしたけど、ウェディングドレスがあまりに似つかわしくない。
端から見たら、結婚に気合を入れてるようにしか見えないよね、これ……。
とはいえ、流石に今の話通りなら結婚っていう一線は超えずに済んだはず。
ただ、その分みんなの嘘告白の本気度があがったようにも感じるけど……。
ま、まあ、昨日だってずっとドキドキしっぱなしだったんだし。
みんなが真剣に練習できるなら、きっといいはず……だよね?
妙に気合の入った四人を遠間に見ながら、僕は一気に緊張しだしたのをはっきりと感じていた。




