第26話:落ち着かない朝
ついに迎えた夏休み初日。
去年は中学生活から解放されて初めてだったのもあって、気づけば昼くらいまで爆睡していたのをよく覚えている。
だけど、今年は違かった。
昨晩寝たのは、日付も変わった今日の午前二時過ぎ。
目覚ましすら掛けず寝たはずなのに、朝の七時過ぎにはもう、僕は目を覚ましていたんだから。
パジャマから私服に着替え、朝ご飯を作って食べて、食器を洗ってから洗濯機を回し。
そのまま家の中を掃除機を掛け、それが終わったら洗濯を干す。
普段の流れのまま家事をしていたら十時前には一通り終わっちゃって、時間を持て余した僕は家にある物を確認した後、昨日できなかった買い出しに向かった。
青空と入道雲。暑い日差しはもう夏をしっかり感じさせてくる。
そんな中、僕は自転車に乗って近くのスーパーに足を運ぶことにした。
今日も最高気温は猛暑日。風を切って走ってても熱い風を感じて、爽快感はあまりない。
途中、楽しげに友達と歩いて行く小学生達。そういうのを含め、やっぱり夏休みって感じがする。
スーパーに到着し中に入ると、エアコンの風が既に汗ばんでいた肌を冷やしてくれてホッとする。
えっと、柔軟剤の予備がなかったのと、ティッシュペーパーは買わないとかな。
後は当面の食材だけど、来週末からみんなとの旅行がある。
それだったら、作り置きできるカレーなんかにして、そこまでに消費できる量を作るのがいいのかな。
頭の中で、そんな事を考えながらかごに買う物を入れていく。
だけど、気持ちはどこかふわふわとしていた。
眠いかと言われたらちょっと眠い。だけど、同時に変に気持ちが落ち着かない。
その理由はわかってる。それは、間違いなく今晩のこと。
嘘でも告白される。それが変に僕を緊張させていた。
ここ二ヶ月くらい、TOP4と一緒にいて思ったのは、やっぱりみんな魅力的だってこと。
可愛らしさ。愛らしさ。可憐さ。綺麗さ。
色々な褒め言葉があるけど、それがどれも刺さるくらいにみんなやっぱり外見はいい。
しかも、それだけじゃない。みんな友達思いで優しいし、色々気も遣ってくれる気立ての良さだってある。
特別な友達に癒されたいからって、たまに凄く距離感が近くなることもあるけど、だからこそよりみんなの魅力を感じてるのは間違いない。
それもあって、ゲーム内で嘘でも告白されるっていう状況であっても、変に僕を緊張させてるんだと思う。
しかも、昨日シャインズ・ゲートで遊んでいる時、今回はいざという時の練習だからって、本気で告白するくらい真剣にやるって言ってた。
勿論、嘘だってわかってるから勘違いはしようがない。
ただ、絶対に恥ずかしい。それだけはどんなに心を落ち着けようとしても変わらない。
しかも、その一週間後には旅行なんでしょ?
みんなはきっと、こういう事も慣れてるし、演技も上手だからすぐに普段通りにできると思うけど、僕はそんなことない。
今の所、旅行までにみんなと会う予定はないけど、いざ現実に顔を合わせた時、どんな顔で会えばいいのかっていう不安もあるんだよね。
変に気恥ずかしさばかり出してたら、きっとみんなに気を遣わせちゃうし。
はぁ。もっとこういう事に耐性があればなぁ……。
「あら? もしかして有内君?」
野菜コーナーの辺りでぼんやりしていると、後ろからどこかで聞いた声が届く。
あれ? この声って確か……。
僕が声の主に振り返ると、彼女は自然と笑顔を浮かべた。
立っていたのは買い物かごを乗せたカートを押していた喜世さん似の女性。
そう。彼女のお母さんの響子さんだ。
「あ、こんにちは」
「こんにちは。今日はどうしたの?」
「えっと、夏休みの間、家で過ごせるように買い出しを」
「そうなの。でも、その年でちゃんとひとり暮らしできているのは素晴らしいわね」
「そんなことないですよ。きっと喜世さんが同じ立場に立ってもちゃんとやれると想いますし」
「そうだといいけど」
喜世さんの話を口にすると、響子さんはくすりと笑う。
「今日はお仕事はお休みなんですか?」
「ええ。最近休日出勤が多かったから、やっと土日にちゃんと休みが取れるわ」
「そうなんですね。ちなみに喜世さんは?」
「家で蒼の面倒を見てもらってるわ。流石にこの暑さの中連れ歩くのもいけないし」
そうなんだ。
それを聞いた瞬間、僕は鉢合わせしなくて済んだことに内心ホッとしていた。
なんとなく、今顔を合わせたら何を話していいか困りそうだったから。
「ちなみに、来週はみんなで旅行なんでしょ?」
「あ、はい。そういえば、その間って喜世さんが獏君達の面倒を見られないんじゃ?」
「そうね。でも、毎年この時期は私のおじいちゃんの家に預けてるのよ。だから心配しなくていいわよ」
「そうなんですか。だったらよかったです」
僕の返事を聞いて、響子さんは目を細めニッコリと笑う。
「旅行中、喜世が粗相をするようなことがあったら教えてね。帰ってきたらお灸を据えておくから」
笑顔は笑顔なんだけど、その言葉が冗談に聞こえなくて、僕はちょっとドキリとする。
「大丈夫ですよ。喜世さんはすごく真面目ですから」
「本当かしら。今朝も朝から妙にソワソワしていたし。変に羽目を外したりしないか心配なのだけど」
「さ、流石に大丈夫だと思いますよ。他のみんなもいますし」
「だといいのだけれど。ちなみに、有内君も女子四人と一緒だからって、あまり浮かれて羽目を外しすぎないようにね」
その言葉は旅行のことを指しているはずなのに、何故か今晩の話のようにも感じちゃって内心ギクリとする。
「だ、大丈夫です。ぼ、僕も、誠心誠意向き合いますので」
「誠心誠意、ねぇ……」
疑いを含んだような言葉。
や、やっぱりこんなに動揺してたら、信じてもらえてないのかな?
不安でいっぱいになっていると。
「……ま。有内君は真面目だから心配ないかしらね」
そう言って響子さんはくすっと笑う。
「あまりお邪魔しちゃいけないわね。とにかく、これからも喜世と仲良くしてね」
「は、はい」
「それじゃあ、またね」
「はい。失礼します」
僕がペコペコ頭を下げると、もう一度小さく笑った響子さんはそのままカートを押して去っていく。
……ふぅ。緊張した。
響子さんの後ろ姿を見送りながら胸を撫で下ろす。
でも、やっぱりこんな浮ついた気持ちでいたら、ちゃんと信じてもらえないのかも。
嘘告白は嘘告白。だけど練習も兼ねているなら、恥ずかしくっても、もっと真摯に向き合わないと。
僕はそんな事を考えながら、自分の買い物を再会したんだ。




