第23話:爆弾発言
僕の言葉に、イズコから誰の声もしなくなった。
ただ、目の前の喜世さんが目を丸くしたのは、それが嘘だってわかってるからだと思う。
少し沈黙が続いた後。
『ちょ!? マ? 優くん! それマジで言ってんの!?』
『ゆ、優汰様! 何故そのような大役を私に与えてくださらなかったの!? まさか、私が嫌いだとでも言うの!?』
耳に届いたのは、露骨に動揺する沙和さんと瑠音さんの声だった。
「ご、ごめん。二人が練習相手なのが嫌ってわけじゃないよ」
『じゃー、なんであーし達じゃなかったの!?』
「えっと、その……やっぱり、四人に一斉にお願いするのは凄い恥ずかしかったし。先に僕がログインしてたんだけど、そこで一緒になったのが千麻さんで。それで、僕がこんな酷いお願いをしてるところに喜世さんも来たってだけで。ね? 喜世さん」
正直、うまく嘘がつけているかさっぱりわからない。
ただ、それでもできる限り真実に聞こえるようそう伝えると、目の前の喜世さんに僕は無言で頷いてみせる。
これで意図が伝わってくれるといいんだけど……。
そう思っていると、彼女は申し訳なさそうな顔で頷き返してきた。
『わりい。そういうこと。俺は二人がキスしようとしたとこに出会して。千麻に何抜け駆けしてんだって言ったんだよ。で、後から優汰の事情を聞いて、俺も、その……キ、キスさせろってせがんだだけ。履歴の通り、さっき丁度千麻が用事でちょっとログアウトしただろ? で、さっきキスしにいったのは、二人っきりでするなら誰にも見られねえし、恥ずかしさもマシかと思ってよ。ま、千麻に勘付かれちまったけど』
まるで普段通りの喜世さんの喋り。
これだったら、沙和さんや瑠音さんも嘘とは思われないかも。
ただ、彼女が沙和さん達に責められそうな部分があるのはちょっと気がかりだけど……。
『……千麻。優汰様からお願いされたというのは本当なの?』
疑いが晴れず、矛先が千麻さんに向く。
彼女は今ここにいないから、アイコンタクトとかもできない。
ここは信じるしかないかも……。
喜世さんと顔を見合わせながら、祈るような気持ちで返事を待っていると。
『……はい。優汰君からたまたま相談を受けまして。私でいいなら是非、とお受けしました。ま、まあ、先程は喜世に呼び止められ、未遂で終わっておりますが……』
千麻さんは少し恥じらいを感じる声でそう答える。
『喜世も、まだ未遂ですよね?』
『あ、ああ。それは間違いない。だよな? 優汰』
「う、うん。突然キスされそうになって驚いたけど、千麻さんの声で動きが止まったし」
よかった。千麻さんも僕の話に乗ってくれて。
正直ほっとしたけど、世の中そんなに甘くなかった。
『ち、ちなみにさー。優くんってー、何で急にキスの練習とか言い出したわけ?』
……あ。理由なんて考えてなかった。
え、えっと……そうだ!
「そ、その……最近、みんなと僕との距離が近くて、側で見ることも多くなったでしょ?」
『ま、まー、確かに増えたよねー』
『そ、そうですわね。』
二人の返事はちょっとバツが悪そうな声。
多分だけど、だいたいは彼女達から腕を組んできたりしてるから、その機会を作ってる認識gあるんだと思う。
「ただ、やっぱりみんなの顔が直ぐ側にあったりすると、こっちも凄く恥ずかしくなっちゃってフワフワしちゃって。流石にそれじゃいけないかなって」
『だ、だけれど、それでキスまで考えるものですの?』
瑠音さんの言うことももっとも。
自分でも理由として弱いと思ってるけど、ここはなんとか辻褄を合わせないと。
え、えっと……そ、そうだ!
「そ、それなんだけど。ふと以前ゲーム内でキスされた時の事を思い出して。ほら。シャインズ・ゲートってかなりリアルでしょ? だから、それだったら顔が近づいても恥ずかしがらないようにできるんじゃないかなって。あと、僕が好きな人とキスするってなった時の心構えも、できるんじゃないかな、なんて思って……」
咄嗟にこの間観覧車で口にしていた千麻さんの理由を拝借してみたけど、ちょっと無理があったかな?
途中で自信がなくなり、声が小さくなった僕。
でも、直後に返ってきたのは、まるで真逆のみんなの大きな驚き声だった。
『おおおお、おい! 優汰! それマジかよ!?』
「……え? マジって、何が?」
『な、何がじゃありませんわ! 優汰様は今、私達に爆弾発言をなさったじゃありませんの!』
「ば、爆弾発言? どこが?」
ピンとこなくてリアルで首を傾げた僕に、千麻さんがこう恥じらいまじりにこう教えてくれた。
『き、決まっております! 今、優汰様は仰ったではありませんか! す、好きな人と、キスをすると』
……あ。確かに言ってたかも。
でも、それって爆弾発言なの? 未だよくわかってないんだけど……。
なんとも納得がいかない僕に対し、
『そ、それってあーし達の誰か? そ、それとも別のクラスの子?』
『も、もしや、学校の外で気になる方ができたのですか!?』
『もしや、貴方様のラブレターのお返事の言葉も、嘘と見せかけた真でしたの!?』
『ま、まさか、蒼とか言い出さねえだろうな!?』
みんなは恐ろしく焦った声でそう言ってくる。
目の前の喜世さんなんて、はっきり動揺を見せてるし。
流石にそれはないのに。
僕はある言葉がおかしくって、くすりと笑っちゃったんだ。




