第22話:二人が四人に
「あれ?」
『ど、どうかしましたか?』
「えっと、ちょっと待って」
戸惑う千麻さんをそのままに、僕はパソコンの画面から目を逸らし、スマホのロック画面を見る。
……え?
これって、沙和さんと瑠音さんからのメッセージ?
パソコンの画面に目を戻し、そっちからイズコを確認すると……あ。やっぱり二人からメッセージが来てる。一体なんだろう?
僕は順番に彼女達からのメッセージを確認してみた。
『やっほー! 優くーん! 今暇?』
『優汰様。今お暇かしら?』
二人からのメッセージは、さっきの千麻さんからのメッセージと同じような内容。
『大丈夫か? 何か問題でもあったのか?』
少し心配そうな喜世さんに対し、僕はキャラに首を横に振るエモートをさせる。
「ううん。今、沙和さんと瑠音さんから暇かって連絡が来てて」
『は? あいつらも用事あったんじゃねえのかよ?』
『確かに。沙和はお友達と一緒に帰られましたし、瑠音も家の用があると言ってましたが……』
三人で顔を見合わせるけど、本人達に聞かないと答えなんてわからないよね。
「ちょっと聞いてみるけど、みんなも暇だったら合流する感じでいい?」
『ああ。千麻。流石にその格好は色々言われるぞ。さっさと着替えてこいよ』
『は。はい。少々お待ちを』
「喜世さんごめん。ちょっと待っててね」
『いいぜ』
僕は再びイズコの返信に集中することにした。
まずは沙和さんからっと。
『えっと、今は丁度シャインズ・ゲートしてる』
『マ!? じゃー、あーしも行っていい?』
『いいけど、喜世さんや千麻さんもいるよ?』
『うっそーっ!? 二人って用事あるって言ってたじゃーん』
『そうだよね。だから僕も驚いたんだけど』
『そっかー。優くんを独り占めにできないのは残念だけどー、二人に後れをとるわけにいかないもんね!』
え?
『後れって?』
『ほらー。レベルとか色々ー。とにかく、あーしも準備してすぐ合流すんね!』
『わかった。待ってるね』
レベル上げは元々みんなで合わせようって話になってるし、別に気にしなくても大丈夫だと思うんだけど……。
まあいいや。次は瑠音さんだ。
『えっと、今は丁度シャインズ・ゲートしてる』
『そうですのね! ちなみに、優汰様はお一人ですの?』
『ううん。喜世さんと千麻さんと一緒。あと、さっき連絡が来て沙和さんも合流するみたい』
そう返事をした後、次の瑠音さんからの反応が中々返ってこない。
あれ? 何かあったのかな? 実は用事の最中とか。
『もし用事が終わってないなら、無理しなくて大丈夫だよ』
『いいえ。用事は既に終わっておりますので。急ぎログインいたしますわ』
『わかった。待ってるね』
……うーん。一体あの間は何だったんだろう?
まあ、気にしても仕方ないかな。
「とりあえず二人ともログインするって」
『そうか。しっかし、一体どういうことなんだよ……』
喜世さんはそう言って呆れ顔をしてるけど、確か彼女も今日は弟君達の面倒を見るって言ってたはず。
「ちなみに、喜世さんの方は大丈夫なの?」
『ああ。獏達の面倒を見ねえとって思ってたら、あいつら友達を連れて帰ってきてよ。結局、俺の出番はなさそうだから、一人でいい狩場でも探すかって思ってたんだよ』
「そうだったんだ」
僕が納得した顔をすると、喜世さんは僕に疑いの眼差しを向けてくる。
『それよりお前、ほんっとうに、千麻とは友達のままだよな?』
「え? う、うん。それは間違いないよ」
『そ、そうか』
そこまで言った瞬間、彼女は急に周囲をキョロキョロと確認する。
千麻さんがログアウトしている今、ここにいるのは僕達だけ。
彼女もそれを理解したのか。急に顔を赤らめると真剣な顔になり、無言で僕との距離を詰めてきた。
え? どういうこと?
「喜世さん?」
困惑し名前を呼んでも、彼女は何も言い返してこない。
ただゆっくりと僕に歩み寄り、顔を近づけてくる。
え? こ、これってもしかして!?
そこまできてやっと現状を理解したけど、僕は驚きのせいでその場から動けない。
え、えっと、このままでいいの? 大丈夫?
また頭が一気に混乱しかけたその時。
『喜世。あなたも抜け駆けは駄目ですよ?』
どこか落ち着いた千麻さんの声が耳に届いた。
瞬間、ピタッと喜世さんが動きを止めたかと思うと、そのまますすすーっと後ろ歩きで僕と距離を取る。
ふぅ。よかったぁ。
まったく心構えができてなかったから、本気でどうすればいいかわからなかった。
ゲームのキャラは平然と立ったままだけど、僕はリアルで胸に手を当て、ほっと安堵する。
『ぬ、抜け駆けなんてしてねえからな!』
喜世さんは千麻さんの言葉に露骨に動揺してる。言葉では否定してるけど、多分あれは本気でキスしようとしてたよね。
千麻さんがいない所でしようとしてたってことは、ある意味じゃ抜け駆け、ってことになるのかな?
そんな事を考えていると。
『あら。抜け駆けなんて随分な言葉ですわね。何があったのかしら?』
さっきの千麻さんよりも落ち着いた、どこか冷めたような瑠音さんの声が届く。
それを聞いて、喜世さんがギクッした顔をする。
『でもさー。きよっちにあなたもなんて言ってたってことはー、ちっちーも抜け駆けしようとしてたーってことだよね?』
彼女が何かを答える前に続いて聞こえてきたのは、千麻さんを勘ぐる沙和さんの声。
『え? い、いえ。その、抜け駆けというのはその、言葉の綾ですよ。そうですよね? 喜世』
『あ、ああ。俺達が用事が終わってログインしてよ。鉢合わせしちまったからそういう話題に──』
『あら? 今千麻はまだログイン前になってますわね。履歴的には数分前にログアウトしたようだけれど』
『そんな状況で一人で抜け駆けするってことでしょ? 鉢合わせとか全然関係なくなーい?』
喜世さんの言い訳を遮り、瑠音さんと沙和さんがはっきりと疑いの声を上げる。
千麻さんも喜世さんも無言。
ただ、眼の前の喜世さんの顔がはっきりと青ざめてるのはわかる。
……これって、このままだと二人が悪者になっちゃうのかな?
この先、みんなで旅行も控えてるのに、ここで気まずくなるのも嫌だな。
千麻さんと喜世さんの抜け駆け。
それが何なのか。僕ははっきりわかってる。
そして二人が悪者にならずに済む方法……。
この先のことを想像し、僕は緊張で変な汗を掻き始めてる。
でも、多分これが一番丸く収まりそう。だったら……。
僕はごくりと唾を飲み込んだ後、意を決してこう言ったんだ。
「ご、ごめん。その、僕がキスの練習をしたいって言ったんだ」




