第21話:一人が二人に
ピタリと動きが止まり、はっとした千麻さん。
この声って──。
「喜世さん!?」
思わず辺りを見回すと、いつの間にいたのか。僕達の横にいつものチャイナ服っぽい装備の喜世さんが、めちゃくちゃ焦った顔で立っていた。
『お、お前ら今、キスしようとしてたよな!?』
喜世さんが慌てて駆け寄ってくると、僕達二人を交互に見る。
一方の千麻さんは、凄くバツの悪そうな顔。
え、えっと、喜世さんの言ってることは事実だけど、ここはちゃんと説明したほうがいいのかな?
でも、千麻さんのお願いだったし、僕から何か言うのは変だったりする?
戸惑いながら千麻さんに顔を向けるけど、ちらりと視線を合わせた彼女はまた俯いてしまい何も言えずにいる。
うーん。ここはやっぱり僕が話そう。
そう思った矢先、先に口を開いたのは喜世さんだった。
『だいたい千麻のその格好……ま、まさか、もうお前らそういう関係なのか!?』
彼女は突然叫ぶと、強くショックを受けたかのような愕然とした顔をする。
え、えっと、そういう関係?
「えっと、それってどういう──」
『そそそ、それはありません! 神に誓って友達のままです!』
僕が尋ね返そうとした瞬間、慌てて割って入った千麻さんは両腕を横に振るエモートを交え、強く否定する。
それを聞いて、喜世さんが心底ほっとした顔をしたけど……あ、もしかして、ウェディングドレス姿だったから、僕達がゲーム内で結婚したって思ったのかな?
このシャインズ・ゲートにはキャラ同士の結婚っていう概念があって、確か結婚した者同士は愛で結ばれた特殊技が出せたり、パーティーに一緒にいると強いバフがかかるっていうのがあったはず。
流石に子どもを作ったりなんてことはできないけど、この恩恵に預かりたくって結婚する人達も多いって前に聞いたような気がする。
『じゃ、じゃあお前、なんでそんな恰好なんだよ?』
『え、えっと、これにはその、深いような、深くないような理由がありまして……』
気を取り直した喜世さんの問いかけに、千麻さんは顔を真っ赤にしたまま、困り顔で返事をする。でも、どこか曖昧な感じで要領を得ない。
それを見ていた喜世さんが、はっとすると僕を見た。
『ま、まさか、お前のリクエストか!?』
「え? ううん。千麻さんがこれを着てきたんだけど……」
あ。そういえば、すっかり理由を聞くのを忘れてた。
僕も答えを求めるように千麻さんに目を向けてしまう。
彼女は身を小さくし目を伏せたまま、僕や喜世さんをちらちらっと見ると、大きなため息を漏らす。
『そ、その、とある事がきっかけで、私がその、優汰君にき、き……』
『キ、キスをお願いしたのか!?』
また目を皿のようにした喜世さんに、千麻さんがコクリと頷く。
『ま、まさか、お前ら二人がリアルでキスしたんじゃねえよな!?』
喜世さんの続けざまの質問に、千麻さんは彼女と同じくらい動揺しながらまたも両手を振って否定するエモートを見せる。
『そそそ、そんなこと、できるはずございません! わ、私達は友達ですよ!? ね? 優汰君』
「え? あ、うん。流石に僕も、リアルだったら断わってるよ」
『そ、そっか。そりゃそうだよな。わ、悪い』
千麻さんの予想外の剣幕と僕の素の反応を見て、喜世さんは頭を掻くエモートを見せる。
『じゃ、じゃあ、なんでこんなことになってんだよ?』
『そ、それはその……私がその、ゲーム内で、キ、キスの練習をしたいと相談し、承諾いただけたのですが。えっと、その……この方が、雰囲気がでるかなと、思いまして……』
さっきの反応から一変。その場でもじもじとしたエモートを見せる千麻さん。
ふ、雰囲気って……ああ。確かに岩良さんと只野先輩の件がきっかけなら、将来二人が結婚するかも? って考えてもおかしくないし。
ドラマなんかでも、結婚式でキスをするシーンってよくあるもんね。わざわざそういうシーンをイメージしたのかな? 何となく腑に落ちた。
『にしたってだろ。お前、そうやって抜け駆けするのはどうなんだよ』
『ぬ、抜け駆けのつもりは……』
『いや、抜け駆けだろ。用事があるって言っておきながら、二人っきりになりやがって。だいたい練習ってなら、その……お、俺だって、キ、キスのひとつやふたつ……』
頭を掻いたまま、顔を赤くし口を尖らせ不満を見せる喜世さん。
って、あれ?
「き、喜世さんも、その、キ、キスの練習とか、したいの?」
『そ、そりゃ、決まってんだろ。言わせんなよ。恥ずかしい……』
僕が緊張しながらそう尋ねると、彼女は指をツンツンと胸の前で合わせるエモートと共に、顔をまっかにし恥ずかしそうに俯く。
そ、そっか。喜世さんもしたいのか……。
う、うーん……。
ま、まあ、ゲーム内なら構わないっていう気持ちは変わらないし、練習相手が増えるのは問題ない気がする。
実際、さっき千麻さんに顔を近づけられただけで恥ずかしさがヤバかったし、練習するなら僕も慣れないといけないし。回数は多いほうがいい……んだよね?
前の喜世さんとのゲーム内でのキスを思い出した僕の心が揺らぐ。
練習とはいえ、あれ以上の恥ずかしさを感じるわけだし。実際まだ頭が少しふわふわしてる。
『な、なあ。優汰。その、俺も、よ。その、キスの練習に、ま、混ぜてもらうってのは……駄目か?』
「え、えっと……だ、駄目ってことはないんだけど──」
なんとなく断るのは悪い気がして、OKを出しそうになったんだけど。
ほぼ同時にスマホがブルブルッと振動したの見て、言葉を途中で飲み込んだんだ。




