第20話:約束
気づけば明日はもう夏休み。
一学期の終業式を終えたその日。授業もなくお昼には学校を離れた僕は、一旦家に帰って昼ご飯を作って食べていた。
今晩はシャインズ・ゲートで遊びつつ、夏休みの予定について話をしようって言われてる。
明日から休みだから、少し夜更かしすることになるかもしれない。
休み中の買い出しお昼のうちに少し仮眠しておこうかな。
そんな事を考えながら、ダイニングのテーブル着いて昼食に作ったパスタを食べていると、テーブルに置いていたスマホがブルリと震えた。
横目に画面を見ると……あれ? 千麻さんから?
そこにあった通知は、彼女からのイズコのメッセージがあった通知だった。
彼女は確か、夏休み前最後の委員会活動で図書室にいるんじゃなかったっけ?
疑問に思いつつフォークを置いて、代わりにスマホを手にするとメッセージを確認する。
えっと……。
『こんにちは。この後ご予定はありますか?』
……え? どういうこと?
『えっと、特にないけど。何かあったの?』
『あの、思ったより図書委員の仕事が早く終わったので、シャインズ・ゲートでもいかがかと』
あ。そうなんだ。
仮眠のこともあるけど、遊びたいって誘われたなら付き合ってあげたほうがいいかも。
『今お昼を食べてるから、二時くらい集合でいい?』
『はい。ではそのお時間でお願いします』
『わかった。また後でね』
『はい』
遊ぶんだったら、あまりだらだらできないかな。
僕はささっとパスタを平らげると、早めに食器を洗ったりして、時間に備えることにした。
◆ ◇ ◆
予定時間の午後二時前。
寝室のカーテンの隙間から陽射しが漏れている。
学校があった日の午後、まだ外も明るい中でゲームするのってちょっと不思議かも。
そんな事を考えながら、僕はパソコンを立ち上げると、イズコとシャインズ・ゲートを起動した。
まだ千麻さんはどちらにもログインしてないみたい。
であれば、先にあそこに向かっておこうかな。
僕はイズコのボイスチャットとゲームにログインすると、ゼクセイドの西にある、前にみんなで集まった教会に向かった。
実は少し前、千麻さんから集合場所を教会にしたいってメッセージが来て、OKしておいたんだ。
久々に入った教会は、相変わらず人気はない。
でも、この荘厳さを感じる雰囲気と音楽は、僕の気持ちを落ち着けてくれる。
そういえば、何時見てもあのステンドグラスって凄いよね。
僕は教会の奥に向かうと、ステンドグラスを見上げながら、この後について考える。
今の時間は二人だけ。
レベル上げとかしちゃってみんなと差がつくのもなんだし、どこか行ったことない所でも見て回ろうかな? 彼女が来たら提案してみよう。
『お、お待たせしました』
あ。来た。
イズコから聞こえた声に、僕が教会の入口の方を振り返った瞬間、その場で動きを止めた。
だって、画面越しに見えた千麻さんは、白いウェディングドレスのような服装で立っていたんだから。
彼女は眼鏡の下で恥じらいの表情を浮かべながら、上目遣いでこっちを見ている。
『あ、あの、どうでしょうか』
「え? あ、う、うん。凄く、綺麗だよ」
ゲーム内なのに、あまりにリアルすぎて、本当にそこに千麻さんがいるみたいで、僕は緊張しながらそう答える。
でも、今の彼女は凄く綺麗で、かなりドキドキしてる。
な、何も話さないのは変な空気になりそうだよね。
と、とりあえず話だけでもしないと。
「そ、それより。今日はなんでそんな格好なの?」
僕がそう問いかけると、彼女は視線を落とした後、ちらちらと僕を見る。
『は、はい。その……先日の約束を、果たしていただこうかなと、思いまして』
「先日の……」
えっと……あ。も、もしかしてあれのこと?
「あの、ゲーム内で、その……キスしたいって話?」
『は、はい……』
こっちが若干しどろもどろになりながら聞いてみると、千麻さんは顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに返事をする。
この間の観覧車でお願いされた、シャインズ・ゲート内でのキス。
ただ、あの後中々二人っきりになれる機会もなかったし、結局日も経っちゃってちょっと忘れかけてたんだよね。
でも、こんな格好までしてするの?
これじゃまるで結婚するみたいなんだけど……。
僕の疑問なんて関係無しに、千麻さんはゆっくりと僕の目の前までやって来る。
『ゆ、優汰君。そ、その……キ、キス……しても、よろしいですか?』
じっと僕を見上げてくる彼女に、僕はゴクリとつばを飲み込む。
正直一気に顔が赤くなってるのがわかる。だけど約束した以上、断る理由はないわけで。
……う、うん。そうだよね。
現実じゃないんだし。大丈夫。うん。大丈夫。
「わ、わかったよ」
僕はそう返しながら、自分の手を胸に当て、必死にドキドキを抑えようと必死になる。
え、えっと、考え方を変えよう。
今この状態は、千麻さんも僕も、お互いに触れあったりできないわけでしょ?
だ、だから、そこまでドキドキすることないはず。
この間のデートの時のほうが絶対ドキドキしちゃったし。
『そ、それでは、いきますね』
僕が必死に煩悩を振り払おうとすると、より顔を近づけてくる。
……や、やっぱり、何か前と違う。
初めてのキスの時だって緊張したけど、なんか前よりドキドキしてる。
お互いが触れるわけじゃないのに、これまで彼女と触れた時の感触とかを思い出しちゃうし、なによりこの間見た岩良さんと只野先輩のキスシーンが重なっちゃって、余計に恥ずかしさで顔が火照ってくる。
そんな中、千麻さんが目を閉じてゆっくりと顔を近づけてきて──。
『な、何してんだよ!?』
え!?
彼女の唇が触れるくらいの距離まで近づいた瞬間、僕の耳に千麻さんとは別の、驚いた声が届いたんだ。




