第19話:これも青春
千麻さんのお願いを受け入れたものの、会話的にはやっぱりちょっと気まずくて。
景色が綺麗だね、なんて感じの話でお茶を濁しているうちに、ゴンドラはゆっくり地上に戻ってきた。
「あ。お帰りなさい!」
ゴンドラを降り出口のほうに向かうと、出口までの通路の入口に観覧車を降りていた岩良さん達が待っていてくれた。
声を掛けてきた岩良さんは笑顔。只野先輩も笑ってはいるけど表情は固い。
でも、その理由ははっきりとしてる。だって、二人は手を繋いでるんだから。
今日これまでの間に二人が手を繋いでたことなかったよね。
やっぱり上手くいったんだと思うけど、その話を触れてもいいのかな……。
僕が声をかけるのを躊躇していると、二人の姿を見た千麻さんが、さっきキスを目撃した事実なんてなかったかのように優しく微笑む。
「お二人とも。どうでしたか? 観覧車は」
「そ、それはそれは、良かったでござるよ。であろう? 彩瀬」
「う、うん。ほんと、良い思い出になりました」
千麻さんが何かを察してるのに気づいたのか。
二人は顔を見合わせるとちょっと気恥ずかしそうに笑う。
「そうですか。それならよかったです。ね? 優汰君」
「う、うん。そうだね」
急に話を振られたせいで、僕は短く相槌を打つので精一杯。
だけど、そのぎこちなさできっと理解してくれたんだと思う。
「これも有内先輩のお陰ですよ」
岩良さんにそう笑顔で言われちゃって。
「そ、そうかな」
僕は照れ笑いを浮かべながら、そう返すことしかできなかった。
「それでは、行くでござるか」
「うん」
只野先輩の声にしっかり笑顔で頷いた岩良さん。
二人はそのまま手を繋いだまま僕達の前を歩き始める。
彼女は間違いなく、今日一番の笑顔を見せている。
うまくいったなら良かったかな。内心ホッとしていると、隣に立っていた千麻さんが僕の手をぎゅっと握ってくる。
「では、私達も参りましょうか」
「あ、うん」
安堵から一変。一気に恥ずかしい気持ちになる中、僕達もまた岩良さん達に続き、出口を目指し歩き始めた。
◆ ◇ ◆
夕日も随分と傾き、空も暗くなってきた頃。
僕達は地下鉄で前楽園を後にした。
只野先輩と岩良さんを挟むように、僕が只野先輩の。千麻さんが岩良さんの脇に座っている。
今日遊んだアトラクションの感想なんかを語っている最中、岩良さんが急にこんなことを聞いてきた。
「そういえばですけど。有内先輩と長月先輩って、お付き合いしたりしないんですか?」
「えっ!?」
その言葉に、思わず驚きの声を重ねた僕と千麻さん。
今日は二人をくっつけるため色々頑張ったとはいえ、流石にここで嘘を吐くのは気が引ける。
「ううん。特にそういうことはないけど」
「そうなのでござるか!?」
僕の言葉に只野先輩が驚きを見せる。
ということは、うまく騙せてはいたってことかな。
「そうだったんですね。手を繋いだりしてるから、てっきりそういう関係かと」
「そ、そんなことはありませんよ。そ、それでなくても優汰君は人気がありますし」
「それは長月殿とて同じ。お似合いと思っておったが」
只野先輩のお似合いって言葉を聞いた瞬間、千麻さんは、一気に顔を真っ赤にしその場で小さくなる。
こんな時でも学校と同じように好意を持ってる演技をしてくれるんだ。
多分、二人から好意は演技だったって広まるのを心配してるのかもしれないけど。
「でも、確かに有内先輩、髪を切ってから大人気ですもんね」
「そうなのかな?」
僕が首を傾げると
「そうですよ。長月先輩もそうですけど、TOP4があそこまでハマってる男子なんて見ないですし、今や一年の憧れの男子ランキング急上昇ですよ」
「そうなんだ。あんまり実感ないけど」
「またまたー。めちゃくちゃラブレター貰ってたじゃないですかー」
「最初はね。でも返事を書いた後はすっかり落ち着いたし」
岩良さんがニヤニヤしてるけど、僕にとっては本当にそんな感じだ。
やっぱり好きな人がいるって書いたのが功を奏したんだろうし、外見がたまたまよく見えたけど、みんな飽きたのもあるんだと思う。
「でも、長月先輩も大変ですよね。仲の良い友達がライバルだなんて」
「そ、そうですね……」
さっきからずっとずっとモジモジしている千麻さんは、一気に口数が少なくなっている。
端から見ても迫真の演技過ぎて、真実を知ってなかったら絶対勘違いしてそうだ。
「ちなみに、有内先輩って好きな人がいるって噂ですけど、どんなタイプが好みなんですか?」
「そうだなぁ……」
そう聞いてきた岩良さんは興味津々。
だけど、僕は好きな人についてまったくイメージを持ってないから、好みも考えてなかったんだよね。
えっと……。
「優しい人、かな」
何となく素で答えると、岩良さんは露骨に不服そうな顔をする。
って、どうしてだろう?
「もー。先輩ってば、好きな人が誰かバレないように濁してるでしょ」
あ。そっか。
こういう人って話をしたら、どんな子が好きか詮索されちゃうもんね。
あまりに考えなし過ぎだったなぁ。危なかった。
「もしお二方に恋人でもできたときには、また共にデートでもするでござるか」
「あ、それはいいかも! 私はできれば、有内先輩と長月先輩がくっつくのがいいと思うけどなー」
只野先輩の提案に、笑顔で賛成する岩良さん。
ただ、彼女が口にした言葉については、正直僕の中でイメージが沸かない。
人気がでたってことは、少しはTOP4と釣り合ってきたのかなって思うけど。
だからって、みんなと僕が恋人になれるようなイメージはないし。
ただ、今は変に空気を悪くしちゃいけない気がする。折角岩良さん達が恋人同士になったんだし。
「まあ、恋の話はどうなるかわからないけど。よければまたみんなで遊びに行こうか?」
「賛成! またみんなでどこか行きましょう!」
「そうでござるな」
「は、はい」
僕がこんな提案をすると、岩良さんと只野先輩は笑顔で、千麻さんは恥ずかしげに返事をする。
そんなみんなを見て、僕はふとこんなことを思いながら、自然と微笑んだんだ。
きっと、これもまたTOP4がくれた青春なのかもって。




