第17話:観覧車にて
「先輩、ごめんなさい!」
あの後、互いに昼食を終えレストランを出た直後。その場で勢いよく頭を下げたのは岩良さんだった。
「助けてもらったのにビンタまでしちゃって。本当にごめんなさい!」
真剣に謝ってる感じが伝わったのか。
只野先輩は嬉しくて笑顔になりそうなのを必死に堪え、何とか真面目な顔に戻る。
「助けたとはいえ余計な言葉を口にし、彩瀬を傷つけたのは拙者でござるし」
「でも、だからってビンタしちゃうなんて──」
「構わぬでござるよ。それだけ嫌な気持ちになっただけ。なんら間違ってござらん。むしろ拙者こそ元凶となったのだ。すまぬでござる」
岩良さんに倣って先輩が深々と頭を下げると、入れ替わるように岩良さんが頭を上げその姿をじっと見つめた後、少し涙目になりながらふっと小さく笑う。
「……もう。先輩は何も悪くないのに」
「そんなことはござらん」
「じゃあ、おあいこって事にしましょ」
恥ずかしさをごまかしたのか。からかうような言い回しをした彼女。
だけど、その声はとても優しい。
ゆっくりと頭を上げた只野先輩は、岩良さんと目を合わせると釣られてにこりと笑う。
「そうでござるな」
二人が笑い合う姿。
そこには、さっきまでの気まずそうな空気なんて全然ない。
「良かったですね」
僕の脇に立つ千麻さんが、二人に聞こえないよう耳元でそう囁く。
「そうだね」
小声で返した僕は、心底ほっとしながらそんな二人を笑顔で見つめていた。
◆ ◇ ◆
その後、僕と千麻さんの提案で、みんなで『スペーストラベラー』に入ってみた。
アポロ12号が持ち帰ったという月の石の展示だったり、過去に宇宙に行っていたスペースシャトルのコクピットを再現した乗り物で、ちょっとした宇宙旅行を体験できたりして、相当満足度の高い場所。
極めつけはVRで月面を体験するアトラクションで、ハーネスを付け上から引っ張ってもらうことで、まるで月にいるかのような軽い重力の体験をするっていうもの。
これが本気で凄くって、ジャンプに合わせて体が結構浮くし、ふわっと着地するんだよね。
しかも、それに合わせてゴーグル内の映像も変わるから、本当に月面にいるかのような感覚で、すごく興奮した。
千麻さんや岩良さん、只野先輩も体験したんだけど、みんなが体験し終わった後。
「今のアトラクション、本当に凄かったよね」
「そうでござるな。六分の一の重力とはあのような感じだとは思わなかったでござる」
「そうですね。最初はちょっと足元が離れている間、少し強さもありましたけど」
「先輩! それわかります! なんかふわーって感じでちょっとドキドキしましたもん!」
こんな感じでみんなで感想戦でも盛り上がった。
あれは機会があればまた体験したいなって本気で思ったっけ。
ちなみに、仲直りをした後の岩良さんと只野先輩はというと、午前中よりなんとなく空気が良かったような気がする。
岩良さんが嫌味を言うこともなかったし、只野先輩の苦手そうなものは彼女が先に口にしてくれて、その後のアトラクションで嫌な思いをするようなこともなく、みんなで楽しくアトラクションを回れた。
間違いなく、笑顔を交わす機会が増えた二人。
それは恋愛に疎い僕でも、何となく二人の距離が縮まったんじゃないかな? なんて思えて、千麻さんと一緒にこうやってダブルデートをしてよかったかも、と思っていた。
◆ ◇ ◆
そして夕方。太陽が西に傾き、町が夕焼け色に染まり始めた頃。
僕達は最後に観覧車に乗ることにした。
先に来たゴンドラに岩良さんと只野先輩が乗り込み、その後のゴンドラに僕と千麻さんが乗り込んだ。
中は冷房がちゃんと効いている。外は少し夏っぽい暑さだったから、この涼しさにほっとする。
「やっぱり景色がいいなぁ」
「そうですね」
少しずつ上に向かうゴンドラ。外に見えるビルやアトラクションを見ながら、僕が思わず声を上げると、向かいに座っていた千麻さんも相づちを打つ。
「でも、岩良さんが只野先輩に冷たくし始めたときには、本当にどうなるかと気が気じゃありませんでしたが」
「本当だよね。でも、結果として午前中より仲良くなったような気がするし、うまくいったんじゃないかな」
「そうですね」
僕の言葉に微笑んだ千麻さん。
よくよく考えると、このダブルデートを提案してくれたのは彼女だったっけ。
「千麻さん。ありがとう」
「え? 急にどうしたんですか?」
素直にお礼を言った僕を見て、彼女が思わず首を傾げる。
「だって、今回のダブルデートを提案してくれたのも、こうやって日程や場所まで決めてくれたのも千麻さんでしょ。僕が相談した側だったのに、結果的に色々手を尽くしてくれたから」
「そうでしたか。でも、元はと言えば優汰君の優しさがきっかけですし、それに……」
そこまで口にした彼女は、俯き上目遣いになると。
「その……私も、お零れにあずかれましたので」
しおらしい声でそう口にした。
「えっと、お零れって?」
「あ、えっと、そのですね。……わ、私も、優汰君とこうやって、デ、デートしてますし……」
夕焼け色に染まっていてもわかるくらい、顔を真っ赤にする千麻さん。
そ、そこまで恥ずかしがられると、こっちもちょっと恥ずかしいけど……。
「そ、そっか。千麻さんが二人の仲を取り持ってくれたお礼くらいにはなってるといいけど」
「じゅ、十分過ぎます! 今だってこうやって、二人きりで素敵な時間を過ごしせてますし」
千麻さんがこれまでにないくらい、恥ずかしそうにもじもじとしてる。
でも、素敵な時間、か……。
僕で癒されたいって言ってたし、役に立ててるならいいんだけど。
喜んでくれているであろう言葉がどこか恥ずかしくて、僕が頬を掻きながら外の景色を見て気持ちをごまかしていると。
「ちなみに、その……私と、優汰君の距離も、少しは縮まりましたか?」
突然、千麻さんがそんな質問をしてきたんだ。




