第13話:独りじゃない
その歌は、はっきりと僕に過去を思い出させた。
笑顔で過ごす回りのみんなと僕の間にある見えない壁。
それは本当に悲しみしかない世界で。
最初の頃はその壁にもまだ隙間があって、どこか申し訳なさそうな顔をしてた生徒達もいたけれど。気づけば外のみんなは、まるでこっちの世界なんて存在していないかのように、笑顔で楽しそうに友だちと過ごすようになっていた。
そんな壁の向こうを見ながら、僕はつらい思いを堪えながら、同時にずっと思ってた。
きっとあっちの世界にいる人は、僕に対して痛みも苦しみも感じていないんだって。
僕はずっとそう思ってた。
ううん。そう思わないとやっていかなかった。
だけど、木原さんの歌は、そんな壁の向こう側を僕に教えてくれた。
『本当は、ずっとずっと謝りたかった。
あなたに声を掛けたかった。
だけど、私は怖かった。向こうに戻るのが怖かった。
独りの悲しみを知っていたのに。
本当は、ずっとずっと感謝していた。
あなたが私に声を掛けてくれたことに。
だけど、私は言えなかった。勇気を持つのが怖かった。
あなたを苦しみを知っていたのに。
だから私は今でもずっと、苦しみ生きている。
届けようのない、懺悔を胸に秘め』
苦しそうに、辛そうに、まるで叫ぶかのような伸びやかな声で言葉を歌に乗せるASUKA。
その裏にいるであろう、笑顔の下で苦しんでいた木原さん。
僕だってなかった。
無視された相手に話しかけにいく勇気なんて。
僕がそうすれば、相手に迷惑がかかる。
だったら独りがいい。独りでいい。
そう思ってたから。
結局、僕は木原さんを救えてなかったのかもしれない。
僕は独りでいいと覚悟を決め、何も変えようとしなかった。
そのせいで、彼女をずっと苦しめてたんだから。
歌を耳にしながら、僕が口を真一文字に結び、奥歯をぎゅっと噛む。
「優汰君」
ふと、歌を遮るように僕の名前を呼んだ千麻さん。
彼女を見ると、どこか悲壮感を漂わせている。
「この歌で、中学校の頃を思い浮かべましたか?」
返事はしなかったけど、体は正直だった。
ぎくりとした僕を見て、千麻さんは不安そうな顔を隠すことなく、僕との距離を詰めると、両腕で僕をぎゅっと抱きしめた。
「え? 千麻さん?」
「大丈夫です。辛い過去があったとして、今は私達がいます。もう優汰君を独りになんてさせませんから。だから、安心してください」
不安を見せないよう、胸元からこっちを見上げ、頑張って優しい笑顔を向けてくれる千麻さん。
ぎゅっと強くなる腕の力。それはまるで口にしたことは真実だって、必死に伝えようとしているようにも感じる。
……まったく。やっぱり僕は駄目だ。
ASUKAの歌を聴いてこんな態度を見せたら、過去を重ねたのなんてバレバレじゃないか。
今は千麻さん達と楽しむためにここに来てるのに。
「……ごめん。心配かけて」
彼女を腕で抱きしめ返すと、自分なりに笑顔を浮かべる。
それを見て、千麻さんは少し安堵した顔をすると、胸に頭を預けてきた。
……こうやってると、ちょっと落ち着くかも。
みんながいう、僕に癒されるっていうのもこういうことなのかな。
心の痛みが和らぎ、穏やかな気持ちでいると。
「ねえねえお母さん。あの二人、抱き合ってるよ」
「しーっ! そういうこと言わないの。さっさと行くわよ」
近くを通りがかった親子の声が耳に届いた。
はっとして周囲を見渡すと、こっちを見ていた人達がいそいそと歩き去っていく。
思わず彼女と顔を見合わせると、顔が真っ赤になってる。勿論僕も。
「そ、そろそろ次の場所に行こうか?」
「そ、そうしましょう」
互いにささっと離れた僕達は、お互い身を小さくしながら、こそこそとその場を後にした。
◆ ◇ ◆
「あ、先輩達。お帰りなさい」
あの後もう少し施設内を見て回った僕達が、そのまま岩良さん達が休んでいた場所まで戻ると、既に岩良さんの脇に只野先輩も腰を下ろしていた。
先輩の顔色もずいぶん良くなってる。ただ、思いっきり肩を落としてるけど。
「二人とも、迷惑をかけてすまんでござる」
「お気になさらないでください。気分はいかがですか?」
「お陰様で随分良くなったでござるが……済まぬが、しばらくは激しいアトラクションは避けてもらえぬか?」
流石に絶叫系で疲弊しすぎたせいか。完全に只野先輩は萎えてるけど、確かに自分が苦手な物ばかり経験したら、流石に迷惑をかけた気持ちになるのかもしれない。
「僕は全然構わないけど。千麻さんは?」
「はい。折角なのですから、みんなで楽しめるものにしましょう」
「そうですね! ちょっと私のリクエストも多かったし、今度は誰かリクエストしてくださいよ」
岩良さんの提案に、僕達三人は顔を見合わせる。
「そういえば、二人は園内を見てきたようだが、良さそうなアトラクションはあったでござるか?」
「屋外はそこまでですが、屋内のアトラクションであれば良さそうなものが幾つか」
「じゃあ、みんなでそっちに行ってみましょっか?」
「そうだね」
僕達四人は頷き合うと、そのままさっき千麻さんと歩いてきた方にみんなで向かったんだ。




