第12話:千麻のわがまま
晴れ空の下。賑やかな園内を歩き始めた僕達。
二人が視界が消えた後、ほどなくして千麻さんは僕の腕に腕を絡めて、寄り添ってくる。
さっきはお化け屋敷にいたからあまり恥ずかしさはなかったけど、やっぱり人前でだと少し恥ずかしい。
季節も夏になってきて、それでなくても少し汗ばんだりしてるけど、こうやって腕を組んでるせいでより暑くなったように感じてる。
「ち、千麻さん」
「は、はい」
こっちを見上げた千麻さんは、ちょっと緊張気味。
ただ、改めてみると白いワンピースと濃紺の長い髪がすごくおしとやかさを強調してるし、普段より素敵に見える。
周りの視線を集める理由は僕だってわかる。だって、僕も間違いなく緊張してるから。
「え、えっと。今は岩良さん達もいないんだし。無理してくっつかなくても大丈夫だよ?」
そう声をかけると、彼女は少しだけ目を伏せた後、僕の腕をよりぎゅっと引き寄せ……え?
「ち、千麻さん?」
「わ、私は、その……こう、してたいです……」
驚いた僕に、彼女は消え去りそうな声でそう言ってきたけど……。
「な、なんで?」
思わず尋ねた僕に、彼女はまた顔を上げじっと僕の目を見つめてきた。
「そ、その。前にも言いましたが。私は優汰くんといると癒されるんです。誕生日に甘えさせてもらった時も、その……凄く、幸せでしたし。だから……その……今日は、こうしていたら、駄目でしょうか?」
彼女はそうお願いしながら眼鏡の下の瞳を潤ませる。
……こ、こういう千麻さんも、やっぱり可愛いよね……。
一気に体温が上がったのは、夏の日差しのせいだけじゃない。
ただ、それで頭をぼんやりさせてたら、本来の目的を忘れちゃいそう。
「え、えっと。千麻さんが嫌じゃなければいいけど。ただ、ちょっと汗を掻いちゃったりしてるから、嫌な時は離れてね」
「そ、それはお互い様です。もし優汰君がそういう理由で嫌なのでしたら、今すぐ離れますが──」
「だ、大丈夫だよ」
勿論汗の匂いだってしてないし、たまに吹く風に乗って感じるのはどこか優しい良い香り。
それが嫌ってことは全然ない。ただ、なんか話している会話の内容のせいで、どこか変な気持ちになりそう。
「と、とにかく。二人も楽しめる場所、ちゃんと見つけないと」
「そ、そうですよね」
僕達は互いに顔を真っ赤にしたまま何とか硬い笑顔を交わすと、忘れかけていた本題のために、周囲のアトラクションに目をやりながら、園内を歩き続けた。
◆ ◇ ◆
とりあえずは屋外のアトラクションを中心に見て回ったんだけど、なんとなく只野先輩が苦手そうな絶叫系が多い。そうじゃないものも、乗り物に乗って園内に作られたジャングルみたいなのを探索するものだったり、高いところから景色を見渡す観覧車が多い。
「観覧車は二人っきりになるのには向いていますが、そこはもう少し時間を置いてから良いと思います」
「そうなんだ」
素でそう返したけど、千麻さんがそういった理由はあまりわかってない。
もしかすると、岩良さんは体を動かしたりするのが好きだとか、そういう僕の知らない情報を知ってるからなのかも。
「じゃあ、今度は複合施設の中を見てみようか」
「そうしましょう」
そのまま僕達は少し足を伸ばし、複合施設の中に入ってみた。
この間みんなと一緒にやったボウリングに、ローラースケート。夏場だからかプールなんかもあるんだなぁ。
後は……。
「へー。この施設は、宇宙を体験できるアトラクションみたいだね」
コンセプトに合った宇宙空間をイメージした壁。入口から見える奥手も、まるで月面をイメージしたような構造。
施設の名前は、ええと……『スペーストラベラー』か。
激しく動くとかはなさそうだけど、僕的には知的好奇心を掻き立てられてる。
「これは……私も少々気になりますね」
千麻さんを見ると、彼女も眼鏡を直すと興味津々な目を向けてる。
「二人に合うかわからないけど、折角だしお願いして入ってみようか」
「そうしましょう」
意見の合致した僕達は、笑顔を交わすとそのまま施設内の広い廊下を先に進んでいく。
「……あ」
と。施設内に掛かっていた曲が別のものに変わった瞬間、千麻さんが足を止めた。
あれ? どうしたんだろう?
「何かあったの?」
「あ、いえ、その。そうといえば、そうなのですが……」
急に不安そうな表情を見せてるけど、どうしたんだろう?
耳に届いているのは、どこか淋しげな感じのバラードっぽい音楽。
あ、もしかして……。
彼女の顔を見ているうちに、ふと心に過った不安。
それは、流れてきた歌の歌いだしを聞いた瞬間、現実に変わったんだ。
その歌を聞いたのは初めて。
だけど、僕の記憶にもある聞き覚えのある声。
流れてくる歌詞は、前にみんなから話の通り、凄く切ない歌。
……これはASUKA──ううん。木原さんの歌だ。
僕はその場に立ったまま、自然と耳を傾けていた。




