第10話:温度差
岩良さんの朝食も兼ねた食事を済ませ時間を潰した僕達は、そのまま最初のアトラクションに決めた例のお化け屋敷『死葬婚礼』。
ある村で行われた婚礼の儀。そこで起きた惨殺事件のせいで、その家が呪われたという設定らしくて、荒れ果てたその古くて大きな屋敷に興味本位でやってきた配信者が恐怖を体験する、というアトラクションらしい。
一人、ないし二人一組で進んでいくアトラクション。
その入口に立った僕達が向かい合いはないをする。
「じゃー、私と只野先輩が先に行きますね。いいですよね? 先輩」
「ううう、うむ。だだだ、大丈夫でござるよ」
笑顔で話す岩良さんとは対象的に、口数も少なく早くも腰が引けている只野先輩。
背の愛はまだ中にすら入ってないのに顔面蒼白。本当に大丈夫なのかな? って正直不安ではあるんだけど。
ただ二人は幼馴染なんだし、岩良さんもこれは想定内だと思う。
だからきっと、この場を利用して少しでも距離を縮めようって考えてるんだろうし、只野先輩には申し訳ないけど、ここは耐えてもらうしかないかな。
「千麻さんはそれでいい?」
「はい」
対する千麻さんは、さっき話してた通り平然とした顔で頷いてる。
──「そーだよー。どーせこの中でホラーとか得意なの、ちっちーだけだしさー」
そういえば、以前夜ふかしして公園を歩いてた時、幽霊とか怖いかって話になった時に沙和さんが千麻さんのことをこう言ってたっけ。
多分この感じだと、それは事実なのかなって気がする。
「じゃ、列に並びましょ! 先輩も早く!」
「そ、そんなに慌てずとも──」
「いいから! 待ち時間長くなるの嫌ですもん!」
完全に及び腰の只野先輩の腕を引き、列に並ばせようとする岩良さん。
そんな二人を見ながら、僕と千麻さんは顔を見合わせるとくすりと笑った。
◆ ◇ ◆
パンフレットにもあった通り、『死葬婚礼』のアトラクションとしての作りは本気で凄い。
自身で懐中電灯を持って歩くスタイルなんだけど、朽ちかけた和風の屋敷の中の作りも本格的だし、突然ガタガタっと襖が揺れたり、首元に生暖かい風を感じたり。呪詛のような言葉が耳元で聞こえたときには、一体どうやったんだろうって興味が湧くくらい驚いた。
千麻さんは僕の腕に絡むように密着して歩いている。
でも、それは彼女が怖がっているわけじゃなくて、僕達の関係性を疑わせる演技のため。
互いに半袖だから、肌と肌が触れ合う感覚は少しドキドキするけれど、それでもアトラクションの出来のほうが凄くって、正直あまり気にならない。
「本当に出来が素晴らしいですね」
「だよね。ほら。あそことか、たまに一瞬びしゃっと血飛沫が窓に付くけど、映像っぽくなくて凄くリアルだし」
「そうですね。最近の技術の進歩は目覚ましいですよね」
周囲に人がいたら興ざめするかもしれない会話。
ただ、ある程度お互いが距離を取り進んでいくスタイルだから、流石にこういった話も聞かれないし、あまり気にせず会話をしてる。
ちなみに、どうしても流れで進んでいく都合もあって、時折……っていうか、結構な頻度で別の組の絶叫が聞こえてくる。
ただ、その頻度が一番高いのは間違いなく僕達の前方。
何かあったんだな、というタイミングでほぼ男子の絶叫が聞こえてるけど、あれは多分只野先輩だと思う。
「只野先輩は、本当に苦手なのですね」
「みたいだね。あそこまで怖がってくれたら、アトラクションの設計者も大満足だよね」
「そうですね」
僕達は薄暗い中で顔を見合わせると、またも小さく笑い合う。
「でも、千麻さんって本当に怖がらないよね」
「それは優汰君も同じじゃないですか?」
「確かにそうかも」
「優汰君は昔から恐怖系に耐性が強いんですか?」
そうだなぁ……。
「強いっていうか、こういうのを見た時に、その技術が凄いとかのほうが気になっちゃうんだよね」
「逆に興味が湧いてしまうと」
「うん。正直、TOP4のみんながオンラインゲームの友達だったって知った時のほうがよっぽど驚いたくらいだし」
「確かに、あれは本当に驚きましたよね」
目を瞑ると今でも思い出すあの時の光景。
本気で最初は目を疑ったもんなぁ。
「ちなみに、千麻さんはホラー系って全然怖くないの?」
「はい。もし本当にこういった場所に踏み入るとなれば、流石に怖くはあるのですが。映画やアトラクション、ゲームなどはどうしても現実じゃないという気持ちが強くなってしまい、逆に落ち着いてしまうんですよね」
あー。その気持ちはわかるかも。
ゲームなんかも実写に近いってだけで感動とかはあるけど、作り物って思っちゃう人からするとどこか興ざめしちゃうのかもしれない。
彼女の意見に妙に納得していると。
「あの……こういう空気の読めない女子は、嫌ですか?」
千麻さんが眼鏡を直した後、おずおずとそう尋ねてくる。
空気が読めないと言われれば、ある意味そうなのかもしれないけど。
「ううん。それも千麻さんの個性だと思うし。別に嫌じゃないよ」
実際、僕だって人のこと言えないもんね。
今だってまったく強さなんて感じず、こんな会話に興じてるんだから。
「そ、それなら、良かった……」
僕が微笑むと、ちょっと恥ずかしそうに俯く千麻さん。
……正直、こういう表情をされる方がよっぽどドキドキするよね。
気恥ずかしくなった僕が顔を逸らし、熱くなった顔を見えないようにした瞬間。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
一際大きな只野先輩の絶叫が少し前で聞こえた。
「先輩ってばだらしないんだからー。ほらー。早く行きますよ」
「わわわわ、わかっておる。わかっておるが!」
「言い訳無用です。もう少しなんですから。頑張ってください」
あれ? 岩良さんの呆れ声まで聞こえてきたけど、もしかして僕達が歩くのが早すぎたかな。距離が随分近くなった気がする。
「……優汰君にあそこまで絶叫されてたら、私も困ったかもしれないですね」
「うん。僕も同じだと思う」
少し呆気にとられた後、僕達は自然に顔を見合わせると苦笑いする。
そういう意味じゃ、今日の相手が千麻さんで良かったかな。
そういえば、喜世さんも怖いの苦手って言ってたっけ。
彼女を連れてきたら、只野先輩みたいな反応をするのかな?
僕は何となくここにいない喜世さん達三人がどんな反応をするのか気になりながら、一度も驚くことなく千麻さんとお化け屋敷を堪能したんだ。




