第8話:待ち合わせ
あれから二週間。
TOP4のみんなとの夏旅行を目指し、期末テストの勉強を開始した僕達。
その間はシャインズ・ゲートも休んで勉強をしたんだけど、週末に僕の家で一緒に勉強するだけじゃなく、平日もなるべく全員で僕の家に集まって勉強に勤しんだ。
その成果もあってか。
お陰様で沙和さんと喜世さんは無事赤点を免れ、晴れて夏休みの補習を受けずに済むことになった。
期末テストの成績が出た後のお昼時。
──「優汰。マジ助かったぜ」
──「ほんとありがとー! 優くんがいるってだけでー、勉強こんなに頑張れちゃうのって凄いよねー」
なんて、一緒に食事をしながら喜んでた喜世さんと沙和さん。
とはいえ、そこで名前の上がらなかった二人が不服に感じ。
──「確かに。普段私達と勉強してもここまで成績は上がりませんでしたよね」
──「ほんと、昔から私達に泣きついておきながら、ここまでやる気に差を出されるのは心外ね。やはり貴女達は置いていくべきかしら」
なんて口にされたときには、沙和さん達も必死に平謝りしてたっけ。
ちなみに、その場で五人で旅行だなんて言葉は口にしなかった。
下手に周囲に知られれば絶対に騒ぎになるに決まってるからだ。まあ、そのせいもあって、僕は後で男子にどこかに行くのか聞かれたけど、そこは遊びに誘われたって話でごまかしておいた。
まあ、それを聞いただけでもみんな凄く羨ましがってたけど。
こうして無事期末テストは乗り切ったんだけど、僕には夏休みに入る前、もうひとつ頑張らないといけないことがあった。岩良さんの件だ。
◆ ◇ ◆
期末テストが終わった後、初の週末。
丁度梅雨も開け、夏らしい空が戻ってきた土曜日。
僕は一人、家からかなり離れた地下鉄の駅、前楽園駅の改札前で人を待っていた。
地下鉄なのに駅が地上にあってちょっと驚く場所にいる理由。
それは千麻さんが調整してくれていた、岩良さんと只野先輩とのダブルデートが今日に決まったから。
流石に葛橋付近でみんなで集まると、同じ学校の生徒に見られる可能性も高いからって、遊園地がある現地で集合ってなったんだけど、集合時間の十時の一時間前には僕はこの場所に立っている。
本当はもう少し遅くに着いてもいいと思うんだけど、友達の待ち合わせで変に遅刻しちゃって、迷惑をかけちゃいけないかなって考えちゃって。結局早い時間からいたわけだけど。
待ち合わせの三十分前の今。
「やはり、この辺りは休日だと人が多いですね」
僕の脇には既に、千麻さんが立っていた。
彼女は夏らしい白いワンピースに麦わら帽子という、清楚なお嬢様を彷彿とする服装。
その透明感は周囲の目を奪うのに十分で、さっきから通り過ぎる人達がちらちらと視線を向けてくるくらいには注目を集めている。
ちなみに僕はというと、この間千麻さんの誕生日の時に彼女に見繕ってもらった服装。
そう。黒のジャケットとスラックスに、インナーとして白いシャツと黒の革靴っていう出で立ちだ。
こういう時に普段みたいな地味な服を着てたら、脇にいる千麻さんが笑われちゃったりしないか心配だったのもあるし、なんなら彼女が選んでくれた服装は本当に僕とは思えない格好良い服装。であれば、これを着ていけば間違いないよねっていうのが理由だった。
「優汰君は何時からここにおられたのですか?」
そう聞いてきた彼女が現れたのはついさっき。
とはいえ、三十分前にやってくるのは、やっぱり早い気もする。
「えっと、九時くらいには着いてたかな」
「え? そんな前からですか!?」
「うん。ちょっと早すぎだったよね」
千麻さんのあまりの驚きように恥ずかしくなり、思わず頭を掻いていると、彼女がおずおずとこんな事を聞いてきた。
「ちなみにそれは、今日が楽しみだったから……でしょうか?」
楽しみだったかどうかっていわれると、そういう気持ちも間違いなくあったと思う。
実際、友達と遊園地に行くって経験はこれまでになかったから。
勿論、楽しみ以上に緊張もしてるんだけどね。
「まあ、楽しみ半分。緊張半分かな」
「半々、ですか?」
「うん。友達と遊園地に行くって経験がなかったし、岩良さん達の力に慣れるかっていう不安もあるから、楽しみでもあり緊張もしてるかなって。あと、こんなに綺麗な千麻さんと一緒なのもあるかも」
……うん。正直普段より華やいで見える彼女は綺麗だと思う。
本当に小説の挿絵なんかで出てきそうなくらい絵になってるし。
「わ、私、綺麗、ですか?」
僕の言葉に、ぽんっと顔を赤くする千麻さん。
「う、うん」
あまりの可愛さにちょっと緊張しながら頷くと、彼女もその場で俯いてしまう。
周りの人達の波が楽しげに流れていく中、まるで別世界のように会話がなくなる僕達。
最近ちょこちょこ二人っきりだったけど、ここまでの格好をしてたのは彼女の誕生日以来。
普段の制服だとそこまで緊張しないのは、やっぱり日常っぽさがあるから──。
突然僕の手に何かが触れた感触があって、僕の思考が止まる。
思わずそっちを見ると……千麻さんが僕の手を優しく握っていた。
麦わら帽子の鍔に隠れて表情は見えない。でも、ちょっと手が震えてるようにも感じる。
え、えっと、彼女から繋いできたんだから、この方が良いのかな?
握り返すとか、そういうのまではしなくってもいい?
いきなりのことに頭が混乱し始めていると。
「あ! 長月先輩! 有内先輩!」
僕達に向けられた、聞き覚えのある女子の声がした。
瞬間、ぱっと離れた手と共に千麻さんが顔を上げる。
僕も声のしたほうを見ると、丁度改札から岩良さんと只野先輩が姿を現したんだ。




