第3話:楽しいひととき
沙和さんのお願いから始まった、急なお泊り。
千麻さんの話は、うまく瑠音さんが手を回してくれて問題なく解決。喜世さんも響子さんと話して無事許可をもらえて、晴れて全員で僕の家に泊まれることになった。
とはいえ、みんなも特に準備なんかはしてないのは変わらなかったんだけど、そこについては、
「じゃー、優くん家のお泊り準備、開始しまーす!」
という沙和さんの提案で、僕達はさっき見えたショッピングモールのブティックで買おうって話になった。
この間千麻さんの誕生日に行った所とは違い、少しファンシーなお店だけど、女性用の私服だけじゃなく、パジャマなんかも売っているお店。
「優汰君は、どのようなパジャマがお好みでしょうか?」
「やっぱー、あーしに似合う感じのセクシー系?」
「優汰様はそんな破廉恥なお方じゃありませんわ! きっと清楚なデザインがいいに決まってますわ!」
「まあまあ。言い争ったって仕方ねえだろって。どうせだし、優汰が選んだパジャマをお揃いで買おうぜ」
なんて話がまとまり、僕はみんなのパジャマを選ぶことに。
色々悩んだ結果。目のやりどころに困らない、それでいてちょっと可愛い感じの水玉柄の無難なパジャマを選んでおいた。
一応色違いのバリエーションも多かったけど、沙和さんは薄い黄色。千麻さんは同じく薄い水色。喜世さんは濃い赤に瑠音さんが淡いピンクと、それぞれをイメージできるカラーを選んでたみたい。
ちなみに、下着も選んでもいいって話は流石に断わって、その間だけは店の外にあるベンチに腰を下ろし遠間から彼女達を見守ってたんだけど。
「や、やはりここは、勝負にいかないといけませんよね……」
「お、おい。べ、別に普段通りでいいだろ。あいつに見せるわけじゃねーし」
「そ、そうかしら? 偶然に見られてしまう可能性も、あるかもしれないじゃない」
「ま、あーしは胸も大きいしー、パジャマからチラ見えしちゃうかもだから、ちゃーんと気になってもらえるやつ買うけど」
ここまで聞こえていいのかわからないような会話をしながら、ある意味盛り上がっていた四人。
正直な所、どんな下着だって見えたら恥ずかしいし、僕としては見えないほうが助かるんだけど。
そんな気持ちはあったけど、僕は敢えて聞こえないふりをして知らぬ存ぜぬを貫いた。
◆ ◇ ◆
買い物が済んだ後。折角夜ふかしできるんだしってことで、同じくショッピングモール内にあるボウリング場でみんなで遊ぶことになった。
僕は友達とボウリング場なんて初めてだし、実際のプレイ経験もそこまで多くない。
正直自信もなかったけど、ちゃんとその話を伝えたうえで一緒にプレイすることにした。
喜世さんは流石に一番上手だったけど、沙和さんも肉薄するくらいには上手。
瑠音さんと千麻さんも、みんなでよくやってるのか。二人ほどストライクやスペアは出てないけど、いい感じにスコアを重ねていく。
そんな中、僕だけは最初っから全然駄目で、ガーターとか端っこだけ倒しちゃってばかり。
ただ、二フレーム目までを見て業を煮やしたのか。三フレーム目の投球の前に、喜世さんにレクチャーを受けることになった。
「いいか? 投げるまでの歩幅と、腕の動きはこう。思いっきり腕に力を入れる必要なんてねえから、最初に後ろに持ってく時以外は、振り子の原理で自然に投げてみろ」
「うん」
「それから、とにかく投げる時にまっすぐ投げる方に腕を出せるようにフォロースイングするんだぞ。球速が遅くなってもいいから、まずは丁寧に投げてみろ」
「わかった」
時間を貰って何度か素振りさせてもらった後、言われたとおりに丁寧にボールを投げてみると──。
「うっわー! おっしー!」
「お。いい感じじゃねえか」
「後一本でしたわね」
「ですが、まっすぐ投げられていましたよ。今の調子です」
なんて四人が喜んでくれた通り、初めてボールがまっすぐ転がってくれた。
結局、喜世さんの教えを守りながら頑張った結果、僕のボウリング人生でも最高のスコアも出せて良かったけど、何よりみんなに応援してもらえるっていうのが凄く嬉しくって頑張れたのはここだけの話。
ただ、体力がなくって三ゲーム目にはまたまっすぐ投げられなくなってて、もう少し筋肉や持久力を付けないと駄目かなぁ……なんて反省もあった。
それでも、本当に楽しいひとときだった。
◆ ◇ ◆
ボウリングを終えた後、少し遅い夕食をレストランで取った後、遅くまで空いているスーパーに寄り、おやつや明日のご飯の食材なんかを買って、無事に僕の家までやってきた四人。
彼女達に先にお風呂に入ってもらった後、僕はひとりでお風呂に入り、のんびりと湯船に浸かっていた。
……やっぱり、みんなといる時間は楽しいな。
凄く盛り上げてくれるし、彼女達が喜んでる姿を見るとほっとするし、友達といる楽しさってこういうことなんだなって、改めて感じる時間も増えてきた。
これが、みんなが言ってた青春って感じなのかな。
もし昔からこういう生活ができてたら、確かに楽しい学校生活を送れたのかも。
天井を見上げながら、昇る湯気をぼんやり眺めていると、ふっと公園で見たASUKAの宣伝ボードを思い出した。
……あの時の彼女とは友達……とまではいかなかった。
もし、いじめにあうような事がなかったら、友達になれたのかな?
こんな感じで学校生活を楽しめたのかな?
中学校の時、彼女が笑ってくれた時を思い出し、僕の胸がキュッと締め付けられる。
決して良い思い出は多くない。なんなら辛い気持ちになった思い出のほうが圧倒的に多い。
ただ、それでもボードに映っていたASUKAの表情は曇りのない笑顔だった。
……きっと、ああやって笑えてるなら良かったんだよね。
彼女のためになったんだよね。
まだ、同じ相手と決まったわけじゃないけれど。
僕はあそこで見たASUKAに、思い出の相手を重ね一人しんみりしてた。
コンコンコン
……あれ?
「優汰君。大丈夫ですか?」
え? 大丈夫?
ノックの音の後、浴室の向こうから聞こえたのは千麻さんの声。
入口を見ると、曇りガラスの向こうに四人らしきシルエットが見える。
「えっと、大丈夫って?」
「いや、中々あがってこねーからよ。のぼせてないか心配になってよ」
「その様子だと大丈夫そうかしら?」
「あ、うん。ごめん。もうすぐあがるから」
「おっけー。じゃ、冷たい飲み物とか用意しとくから。慌てないで出てね!」
「うん。わかった」
TOP4の言葉に、思い出が色褪せ現実が色帯びる。
そう。今更過去を考えたって仕方ないよね。
あの頃とはもう違うし、過去だって変わらないんだから。
僕は湯船のお湯を手で掬い、パシャリと顔にかけると、気持ちを切り替えお風呂から出て浴室を後にした。




