第2話:一緒にいたい理由
「それより沙和」
「あ、何?」
「貴女も随分急な提案をなされたけれど、ちゃんとご両親の許可を貰っているのかしら?」
そういえば、確かに今日そういう予定にはしてなかったんだ。
多分予定がないから提案してきたんだろうけど、その辺は大丈夫なのかな?
「ううん。まだだよ」
瑠音さんの問いかけに、沙和さんはまたもあっけらかんとそう言い切った。
「おいおい。それで本当に大丈夫なのかよ!?」
「ま、あーしのママチもパパチもそうゆーとこ緩いじゃん? こないだみたいにみんなといるって言えば、大体オッケーしてくれるってー」
周囲の懸念にも笑顔で返す沙和さん。
彼女のご両親に会ったことはないけど、なんとなくこの感じだと素直に話はまとまりそうかな。
「それより、きよっちとちっちーはどーすんの? 諦める?」
沙和さんがどこか煽るかのようににやりとすると、喜世さんがちょっとむっとする。
「はぁ? そんなわけねーだろ。今日はお袋の仕事も無事終わって家にいるし、明日も自由。こないだ優汰とも顔合わせしてこいつの良さも知ってるからな。流石に断られりゃしねーよ」
「あー。確かにきよっちとるとっちは親公認だもんねー。だったらー、早く電話して話まとめといて」
「ん? あ、ああ。わかってるって」
喜世さんの答えに満足したのか。ころりと態度を変え嬉しそうな顔をした沙和さん。
これには喜世さんも戸惑ってたけど、僕もちょっと不思議な感じがした。
何となく、沙和さんがもう少し弄ってくるんじゃないかな? って思ってたくらいだ。
「となるとー、あとはちっちーだけど。明日の夜はー、用事あるって言ってたよね? お昼は?」
「え、あ、はい。特には……」
「もし理由付けがいるなら、いつも通りるとっちの力を借りる?」
「その、それは是非お願いしたいのですが……その前に」
千麻さんは戸惑った表情のまま眼鏡を直すと、続けてこう口にする。
「確かに優汰君といたい気持ちはみんな同じ。それはわかります。ですが、理由は本当にそれだけですか?」
彼女がそう尋ねたくなる理由もわかる。
僕自身も、どこか不自然な印象が拭えてないし。
ただ、沙和さんはそんな千麻さんを見ても、笑顔を変えなかった。
「まー、全く何もないわけじゃないけどさー。でもー、その先にある気持ちは変わんないんだよねー。優くんと一緒にいたいーってだけだし。ちなみにー、あーしとしてはライバルが減って、優くんといちゃいちゃできる時間が増えるのを期待してたんだけどさー」
彼女が両手を頭の後ろに回し、悪戯っぽい笑顔を見せる。
それを見て、瑠音さんは両腕を組むと自信に満ち溢れた顔で胸を張る。
「あら。私がその程度のことで、このような貴重な機会を逃すとお思いでして」
「ま、ないよねー。それはなんとなーくわかってたし」
彼女の真似をするように腕を組んだ沙和さんが、瑠音さんと笑顔で視線を交わす。
な、なんとなく間で火花がばちばちっと散ってるみたいに見えるけど。さ、さすがにいがみ合ったりはいないよね?
そんな心配をしていると、瑠音さんと沙和さんが同時に僕に目線を向けると、これまた同時にくすりと笑った。
「ふふっ。優汰様は心配性なのね」
「ほんとほんとー。そんな心配しなくって大丈夫だってー。いっつもこんな感じだしー」
……もしかして、僕をからかったのかな?
でも、それだったらよかった。
「そっか。そうだよね。ごめん」
重苦しくならないように軽い感じで謝った僕は、そのまま千麻さんに目を向ける。
「折角だし、千麻さんも来ない? 予定があるなら仕方ないけど、できればみんなと一緒にいられると嬉しいし」
意見を受け入れてもらいやすいよう、微笑みながらそう提案すると、千麻さんはぽっと頬を赤く染めると、さっきまでの戸惑った表情から一変。しっかりと僕を見つめてくる。
「ゆ、優汰君が望むのでしたら、私も断る理由なんて何もありませんよ。瑠音。すいませんが、この間と同じく協力してもらえますか?」
「ええ。そうこなくっちゃね。少し待ちなさい。喜世。貴女は自分で電話できるわよね?」
「あ、ああ。こっちの心配はいいから、千麻のサポートを頼むぜ」
「わかったわ」
喜世さんと瑠音さんは互いに頷くと、それぞれにスマートフォンで電話をかけ始める。
とりあえずこれで全員泊まれそうかな?
誰か一人が欠けて落ち込むのはなんか嫌だったし、結果として良かったかも。
胸を撫でおろしていると、沙和さんが僕を見てにこりと笑う。
「優くん、ありがとね」
「ううん。大丈夫だよ」
「夜はまだまだこれからだし、ちゃんと楽しも! ちなみにー、話したいこととかあったらー、この機会に何でも聞くかんね」
あ。もしかして……。
沙和さんの口にした一言に、僕はなんとなくその意図を感じ取る。
きっと、彼女はなんとなく気づいてるのかもしれないって。
……あの頃のこと、話せるかな?
正直、思い出すだけで辛いあの頃に関係することを口にできる自信はない。
ただ、それでもそういう姿勢を見せてくれた沙和さんの言葉は、僕の気持ちを少し軽くしてくれる。
「そうだね。折角だし、楽しもう」
「そう来なくっちゃ!」
うん。話せるかはわからないけど。楽しんで忘れることだってできるんだから。
僕は、イルミネーションに負けないくらいの眩しい笑顔を見せる彼女に、心の中で感謝したんだ。




