幕間:沙和の直感
あれ? 優くん何見てんだろ?
あーし達は彼に釣られて、視線をそっちに向ける。
あっちって確かショッピングモール──あ! もしかして、あれ見てる!?
目で追った先にあったのは、大きな宣伝ボード。そこに映ってる女の子に見覚えがあった。
「あれ、確かASUKAだよな?」
「そうですね」
きよっちとちっちーが言う通り、あれってASUKAだよね。
去年の秋くらいに新人アーティストとしてデビューしたんだけど、歌はめっちゃ上手い容姿もめっちゃ可愛くて、一躍人気になったんだよねー。
ちなみに、確か彼女はまだあーし達と同じ高校生って言ってたっけ。
宣伝ボードの彼女は茶色い髪をあーしみたいにポニテにしてて、凛とした顔をしてる。
テレビとかユーチューブなんかでも見たけど、やっぱ顔立ちもいいしめちゃくちゃ可愛いけど……。
「まさか……優汰様は、ああいった女性が好きなのでは……」
少し不安そうな顔でぽそりと呟くるとっち。
それを聞いて、あたしも内心ギクッとする。
「ま、まさかー」
優くんってば、未だあーし達を友達って思ってるくらいだしー、可愛い女の子だからって簡単に目移りしたりしないっしょ。
そう思ってはいるんだけど……イルミネーションをバックにした優くんは。未だASUKAを見たまま目を逸らそうとしない。
もしかして、もしかしちゃうわけ!?
あーしはいてもたってもいられなくなって、思わず優くんの側まで歩み寄った。
「あれ? もしかしてあれ、ASUKAじゃん?」
「ASUKA……」
あーしがわざとらしく声を出して優くんの気を引くと、彼はぽそりと彼女の名前だけを口にする。でも、こっちを見てくれない。じっとあの子を見たまんま。
やば。これ、嫌な予感当たってる!?
「そ。そうだよー。新人危険のアーティスト」
「おい。それを言うなら新人気鋭だろ」
あーしの後に続いて脇に並んだきよっちは呆れ顔をしたけど。
「新進気鋭よ。まったく。相変わらずなんだから……」
「あ……」
るとっちの指摘を聞いて、あーし達は思わず顔を見合わせた。
やっばー。またやっちゃったかも。
「そ、そうだったな」
「ご、ごめんごめーん」
きよっちは頭を掻きながら苦笑い。
あーしもちょっと恥ずかしくなって、おんなじ顔をしながらるとっちに両手を合わせてテヘッと舌を出す。
でも……普段ならそんなやりとりに苦笑いしてくれる優くんは、まるであーし達が目に入ってないってくらい、ASUKAを見つめたまま動かない。
「……優汰君。そんなにASUKAが好きなのですか?」
眼鏡を直し、ちょっと真剣な顔でちっちーが優くんにそう声をかけると、はっとした彼はやっとあーし達の方を見てくれた。
「あ、え、えっと。ごめん。そういうわけじゃないんだけど……」
優くんはちっちーの問いかけに少し困った顔を見せると、またASUKAの方を見る。
嘘っ!? もしかして、やっぱあーし達より彼女のほうがいいわけ!?
あーしは一気に不安になったんだけど……。
「その、なんか、華があるなって思って」
そう言った優くんを見た時、なんとなくその予想は違うなって思った。
なんだろ。彼の表情が、好きな人を見ている感じに見えなかったんだよねー。
「た、確かに華はあるな」
「そ、そうですね。可愛らしいと思います」
「ま、まあ、優汰様のお眼鏡に叶うなら、そうかもしれないわね」
きよっち達はどこかぎこちない感じで相槌を打ってる。
でも、みんなの顔を見たらあーしでもわかる。きっと優くんがASUKAに見惚れてるんじゃって思って動揺してるんだーって。
でも、なんか違う。
上手く言えないけど、多分そうじゃない。
「……ごめんね。そろそろあっちの方も見に行こっか」
優くんはやっとASUKAから目を逸らすと、あーし達の方を見てそう言った。
「そ、そうですね。そろそろ行きましょうか」
「そ、そうだな。ちなみに、まだまだ写真を撮るからな」
「ええ。優汰様。覚悟なさいね」
「うん。そうするよ」
きよっち達にバツが悪そうに苦笑いした優くんは、そのまま一人、まだ見てないイルミネーションの方に歩き出す。
他の三人も彼に続いて歩き出したけど、あーしは一人歩き出せなかった。
なんだろ……この不安……。
ASUKAに優くんを取られる。そう思ったわけじゃない。
それは違う。
なんでかわかんないけど、それだけは絶対違う。
だって、歩き出した彼の後ろ姿が、どこか寂しそうに見えたから。
「……ん? 沙和。どうしたんだよ?」
あーしが付いて来ないのを見て、四人がきょとんとしながらこっちに振り返る。
……どうしよう。
この不安。どうしたら解消できるんだろ。
優くんに直接聞いちゃう?
……ううん。それはなんかまだ早い気がする。
あーしの直感が間違ってる可能性もあるし。
あーしの不安をみんなに話す?
なんかそれも違う気がする。それってみんなを困らせるだけ。
「どうしたの?」
優くんが少し不安そうな顔で、あーしに問いかけてくる。
あーしは彼にそんな顔をさせたいわけじゃない。でも、このままじゃやっぱいらんない。
不安を解消する方法……だったら……。
「えっと、優くん。ちょっと、お願いがあるんだけど」
「どんな?」
首を傾げた優くんに、あーしは右手を胸に当て気持ちを落ち着けると、真面目な顔でこう言ったの。
「あーし達、今日優くん家に泊まれない?」




