第10話:迫真の演技?
マンションを出てすぐ目の前に、以前にも乗せてもらった、少し大きな黒い車が止まっている。
側にはいつものように面条さんも立ってるし、流石に間違いはなさそうかな。
「おはようございます。どうぞこちらに」
僕達が近づいて来たのを見て。後部座席側のドアの前で待機していた面条さんが、僕達に会釈した後ドアを開けてくれる。
「おっはよー!」
「おはようございます。優汰様」
「よお」
後部座席で向かい合わせに座っていた沙和さん達は。僕を見て笑顔になると各々に挨拶してきた。
空き席はは一番後ろの席の真ん中と、同じ列の開けたドア側。その奥には瑠音さんが、向い合せの席側には喜世さんと沙和さんが座ってる。
「おはよう。えっと、僕はどっちに座ればいい?」
「勿論、私の隣ですわ」
瑠音さんがふふんと勝ち誇ったような顔をしたけど、多分これってまたじゃんけんをして彼女が勝ったってことかも。
「じゃ、お邪魔するね」
リュックを前に抱え直した僕は、頭を下げつつ車に入ると言われた通り、瑠音さんの脇に座る。続いて千麻さんも席に着くと、車のドアが静かに閉められた。
面条さんが運転席に戻り、ゆっくり走り始めた車。
車内では、みんなが無言のままじーっと僕を見てる……って、なんで?
寝癖とかはチェックしたはずだけど……。
「え、えっと、寝癖とか付いてる?」
戸惑いながら問いかけると。
「ご、ごめんごめーん。やっぱー、優くんイケメン過ぎーって思って見惚れちゃってさー」
沙和さんがぽんっと顔を赤くすると、てへっと舌を出して笑った。
見惚れる……僕を?
「み、見惚れるって、そこまでかな?」
「は、はい。今朝も本当に素敵ですよ。し、しかも、そんなお顔をここまで間近に見られるなんて、本当に幸せです……」
千麻さんはさっきと同じく俯き恥じらいながら、噛みしめるように小声でそんな事を口にする。
「ほーんと。誰かがイケメンは三日で飽きるとか言ってたけどよー。絶対嘘だよな。シャイゲで優汰といたら、自然と目で追っちまうし」
「そうですわね。しかも、優汰様がこうやってお側でお顔を拝見できるようになった今、隣で貴方様の息遣いを感じるだけで私も興奮してしまいますもの」
喜世さんはちょっとはにかみながら。瑠音さんもうっとりとしながらそんな事を口にしたけど、流石にちょっと反応が過剰過ぎないかな?
実は、やっぱりからかわれてるとか……って、そっか。さっきの千麻さんと一緒だ。
「もしかして、みんなもう演技を始めてない?」
敢えてそんな聞き方をしたけど、心の中ではちょっと確信してる。
だって、みんなは演技も上手だもん。
実際、昨日あんな話をしてなかったら、これが演技だって言われなかったら勘違いするところだし。
図星だったのか。
みんなが少し恥ずかしそうに顔を逸らすと、目だけで僕をちらちらと見てくる。
「よ、よくわかったな。俺達も今日から、その、好き好きオーラってのを出さねえといけねえんだろ?」
「そ、そーそー。だからー、みんなの前に出る前に、こうやって慣らしとかないと」
「ゆ、優汰様は戸惑われると思うけれど、今日から私達はこうやって、よりはっきりと好意を見せて参りますわ」
「た、ただ、優汰君は普段通りでよろしいですよ。戸惑うにしても受け入れるにしても、その……素直に反応を見せたほうが、真実味が増しますから」
あまりにはっきり聞いちゃったから、みんな恥ずかしくなっちゃったのかな。
でも、確かに真実味が出たほうがいいっていうのは、昨日の僕の行動でもそう。
だったら、お言葉に甘えたほうがいいよね。
「そうだね。僕は普段通りというか、みんなと初めて知り合った頃を思い出しながら頑張ってみるね」
みんなが変に緊張しないように笑顔を向けると、みんなは同時に目を逸らす。
そして、喜世さんは赤髪をガシガシと掻き。
沙和さんは人差し指をつんつんと合わせもじもじとし。
瑠音さんはせわしなくピンクの髪先をいじりだし。
千麻さんは俯いたまま両手で顔を覆いだした。
……これも、演技だよね?
そう考えると、やっぱりみんなって凄いなあ。
絶対に慣れもあると思うけど、きっとTOP4として格好いい男子とも付き合いがあるからこそ、普段通りの反応もしてきてるわけだし。
でも、好き好きオーラかぁ。
正直、みんなと一緒にいて色々な反応を見てただけでも恥ずかしかったけど、こうやって好意をアピールされたら、ファンの男子だったら卒倒している可能性もあるよね。
「でも、きっと周囲の男子もみんなの好意的な反応とか仕草を見たら、改めて惚れ直しそうだよね。僕がもしみんなのファンだったら、きっとすぐに自分を好きなんだって勘違いしそうだし」
何気なくそんな感想を口にした瞬間。
「ちょ!? マ!?」
「本当ですの!?」
「本当か!?」
「本当ですか!?」
と、四人が同時に声を上げると、目を丸くしながらずいっと前のめりになる。
え? え? ど、どうしたの!?
「あ、う、うん。ぼ、僕は友達だからまだ落ち着いてられるけど。もしファンだったら凄く嬉しいだろうし……」
焦りながらも何とかそう答えると、四人が同時に白い目を向けてくる。
あ、あれ?
何か僕、気分を悪くするような事を言っちゃった?
内心やらかしたのか不安になっていると、四人は互いに顔を見合わせる。
「まだ横一線、ってことだよな?」
「そうですわね。つまり、ここからが本番ですわ」
「あーし、ぜーったい負けないかんね」
「私も、クラスメイトとしてのアドバンテージを活かしてでも、勝ってみせますから」
互いにバチバチッと火花を散らすかのように、真っ赤な顔のまま真剣な顔で見つめ合う四人。
まるで僕を好きって言わんばかりの圧は、本気にも感じる。
ってことは、これもやっぱり演技なのか。
ほんと、みんなやっぱり凄いなぁ。こうやってすぐ切り替えられるところとか。
演技する四人が放つ真剣な空気を感じながら、僕はただただ感心したんだ。




