第11話:みんな人気者
車窓から見える景色が少しずつ見慣れた景色に変わっていき、外に西葛橋高校の制服を着た生徒達の姿が増えてくる。
一応車の窓はマジックミラーみたいになってるみたいで、外から中を覗き見られることはないっぽい。それでも通り過ぎる車に目を向けてくるのは、きっとみんなもこの車の中にTOP4が乗ってるってわかってるからだと思う。
ふと思ったけど、TOP4の車の中から僕が出てくるって、結構驚かれることじゃないかな?
クラスに入ったらその事で色々質問されるのは目に見えてる気がするけど、そこはうまくやるしかないよね……。
学校が近づくにつれ膨れ上がってきた不安。
それを僕の表情で気づいたのか。みんなが僕に笑顔を向けてくる。
「優汰様。そんなに緊張なさらなくてもよいわ」
「そうだよ! あーし達がうまーくリードするからさー」
「そういうこと。お前は普段みたいにしときゃいいからな」
「クラスに入った後も、私がフォロー致しますから」
彼女達の気遣いは嬉しいけど、同時に申し訳なさもある。
結局、この状況を作った原因は僕にあるんだから。
ただ、ここで変にネガティブなことを言ったら余計心配かけちゃうもんね。
「うん。お願い」
僕が笑顔を見せると、みんなが少し顔を赤くしながら微笑んでくる。
今までよりこうやって恥じらい顔が増えたけど、それはやっぱりTOP4の可愛さや綺麗さを際立たせてる。
……こういうのを見ると、みんなが人気者になるのもわかるよね。
きっと彼女達を好きな人達は、こういう所に魅力を感じるのかな。
そういう意味じゃ、友達とはいえ僕ばっかりこういうのを見てるのは、ちょっと悪い気もするけど。
「まもなく到着致します」
いつも変わらない面条さんの落ち着いた声。
……よし。頑張ろう。
膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた僕は、車が止まるのをじっと待った。
◆ ◇ ◆
学校のすぐ近くにある公園。
その隣にある駐車場に車が止まると、既に結構生徒達がそこで彼女達の登場を待ちわびている。
こ、こんな中で車を降りるんだ。大丈夫かな……。
そんな不安なんて関係無しに、無常にも面条さんが瑠音さんがいる方の車のドアを開けた。
「優汰様はこちらから。よろしいわね」
「う、うん」
小声でそう言った瑠音さんに頷くと、彼女もこちらに頷き返すと颯爽と車の外に出た。
その直後、わっと歓声が上がると同時に、周囲の生徒達が彼女に黄色い声援を送る。
反対のドアやひとつ前のドアから千麻さん達も出ていくと、彼女達を呼ぶ声が大きくなっていく。
前にちらりとテレビで見た、ライブ会場でアイドルが出てきた時のような声を聞きながら、僕は車の中でリュックを背負うと、瑠音さんが車のドアの前から移動したのを見計らい外に出た。
駐車場に屋根はない。
そのせいで強く感じた陽射しを手で避けたその瞬間。
「はぁぁぁぁぁっ!?」
という男子の声と。
「きゃぁぁぁぁっ!」
という女子の黄色い声が同時に聞こえた。
「なんであいつがいるんだよ!?」
「あの男、TOP4のなんだってんだ!?」
疑問に思うのももっともな、はっきりと不満を感じる男子達。
どう反応すればいいかわからないでいると、すぐさま声を上げたのは瑠音さんだった。
「あら。通りがけにお見かけして、私が一緒に登校しましょうとお誘いしたのよ。何か問題ございますこと?」
「え? あ、いや、その……特に……」
両腕を組み、澄まし顔でそう言った彼女は、以前から見ているクールな印象のまま。
威嚇したわけじゃないんだろうけど、そんな瑠音さんの態度が一気に周囲の男子達を戸惑わせる。
逆に、そこにいた女子達は。
「そりゃそうだよねー。あれだけのイケメン、TOP4が放って置くわけないしねー」
「でもでもー、朝からこうやってイケメンが見られるなんてサイコーじゃん?」
「だよねー! 今日ここにいて良かったー!」
なんて、妙に喜んでくれてたけど、そんな声も次の瞬間、悲鳴のような声に変わった。
「さ、沙和さん!?」
みんなの視線を集めた先にいたのは、ぎゅっと当てられた胸の感触と、花のような優しい香りを漂わせている沙和さんだった。
驚いて腕に抱きついている彼女を見ると、少し頬を染めながら、いつものような笑顔でウィンクしてくる。
「よーっし。じゃ、優くん、行こっ!」
「え? あ、う、うん」
正直演技なんて関係なしに、僕は思いっきり戸惑っちゃったんだけど、それは周囲も同じだった。
「さ、沙和さんと腕を組んでるぅぅぅっ!?」
「うっそーっ!? 腕を組んじゃうって、沙和さんと彼ってどんな関係なの!?」
え、えっと、友達だけど……。
なんて言えるわけもなく、僕は腕を組まれたまま、なすがままに一緒に歩き出す。
敢えて沙和さんは何も言わず、周囲ににんまりとして見せた後、僕の方を嬉しそうに見ながら一緒に歩いてる。
普段だって恥ずかしいこの状況。それを他の生徒の前でしてるっていうのがより恥ずかしさを際立たせて、僕はもう顔を真っ赤にするしかなかった。
「まったく。沙和。そうやって優汰に迷惑かけてんじゃねえって」
「そうですわ。彼も戸惑っているじゃない」
「いーのー! こうやってアピっとかないとー、優くんに気をかけてもらえないしー」
僕を挟むように横並びになった四人。
沙和さんの隣に立った喜世さんと、挟んで反対に立つ瑠音さんの苦言に、沙和さんはにこにことした笑顔を崩さなかったけど。
「そうやって困らせていると、逆に嫌われますよ」
瑠音さんの奥に立つ千麻さんの言葉を聞いた瞬間、さすがの沙和さんも露骨にギクッっとした。
「ゆ、優くんってー、別に困ってないよねー?」
「え、えっと、ごめん……」
素直に本音が出た僕を見て、沙和さんは腕から離れるとむくれて見せる。
「もー。優くんってばピュア過ぎっしょー。これくらい友達なら普通じゃん」
「そ、そうなのかな?」
「そりゃねえだろ」
「違いますわね」
「絶対に違います」
沙和さんの言葉に、落ち着いた顔でさらりと突っ込む他の三人。
こういう息のあった会話がちょっと楽しくって、僕がくすっと笑った瞬間。
周囲からまた「きゃーっ!」という黄色い声援があがった。
って、そっか。沙和さんに気を取られててすっかり忘れてたけど、周囲には一緒に歩く生徒達もいたんだっけ。
「あの笑顔、反則でしょ」
「ほんとほんとー。私もああやって微笑んでほしー!」
「わかるわかるー。でも、TOP4に目をつけられちゃったら、やっぱり彼氏にはなれないのかなー」
「ま、まだわかんないわよ。彼の好みが彼女達とは限らないし」
そんな女子の会話と。
「沙和さんは絶対あいつに入れ込んでるだろ」
「喜世さん達もみんな顔が赤かったぜ。既にあいつに気があるんじゃねえか?」
「いやいやいやいや。あいつがイケメンすぎるからってだけだ。きっとそのうち飽きたり性格が合わなくって離れたりするって」
そんな男子の会話が耳に届く。
現時点でみんなが思っているような感じになってるか怪しいけど、どうなんだろう……。
僕は未だ不安を拭えないまま、みんなと学校に向かったんだ。




