第8話:好き好きオーラ
「……へ? す、好き好きオーラ?」
今までの人生で聞いたことのない、だけど絶対恥ずかしくなりそうな言葉を聞いて唖然とした僕を見ながら、沙和さんはおずおずと話を続ける。
『う、うん。あーし達がー、学校でもなるべく優くんと一緒にいて露骨に好きっぽいてアピールをしたら、周りの子はきっとこう思うじゃん? TOP4相手じゃ分が悪いかもーって』
『た、確かに、そうやってイチャイチャ……いえ。スキンシップの機会を増やしアピールすれば、牽制になるかもしれませんね』
『それは良案ですわ! うまくいけば私達に目をつけている男子まで牽制もできますし、なんなら優汰様も私達も、より青春を味合わせることができますもの。優汰様! 私はこの案を推しますわ!』
『私も沙和の提案に賛成です。それで優汰君とより長く一緒にいられるなら、その……凄く、嬉しいですし……』
話を聞いて、瑠音さんは興奮気味に、千麻さんは恥ずかしそうに賛同する。
で、でも……。
「え、えっと、沙和さん。変な質問をしてもいい?」
『な、なーに?』
「そ、その、好き好きオーラってことは、みんなが僕のことを好き、みたいに演じるってこと?」
確かに以前、沙和さんは僕の性格とか良いところを褒めるのに、好きって言葉を使ってた。
だけど、今回の好きはどうにも同じに感じなかったんだ。
僕の質問を聞いて、沙和さんがより顔を赤くすると。
『そ、そーいうこと。わざと体に触れたりとかー、積極的に腕を組んだりとか。そーいう事をして、優くんを振り向かせるぞーって演技をするの』
「そ、そうなんだ」
彼女の説明を聞いて、僕はちょっと煮えきらない返事をした。
今でも特別な友達として、時折みんなと触れ合ってる。でも、その頻度がより多くなったりするってことだよね。しかも学校とかで。
それはそれでめちゃくちゃ恥ずかしいと思うんだけど……。
『ま、まあ、優汰が及び腰になる理由もわかるぜ。俺達だってその、やっぱ恥じらいってものがあるしよ』
「だ、だよね。だったら無理しないほうが……」
『だけどよ。お前が一生懸命考えて、俺達と学校でも接する環境を作ってくれたんだろ? それを無駄にするのも勿体ねえだろ』
喜世さんは顔を赤らめたまま、真面目な顔でそんな意見を聞かせてくれる。
確かに、ここまで頑張っても、周りの女子との時間が増えてTOP4といる時間が変わらなかったら、それは本末転倒な気がする。
『そ、それにですよ。優汰君がこの先、他の女子に囲まれ精神的に疲弊してしまうのであれば、まだ私達といたほうが気持ちは楽ではありませんか?』
僕の気持ちが楽なほう、か……。
千麻さんの言葉もまた、僕の頭の中から抜け落ちていた考えだ。
勿論、TOP4といるのに慣れてきたとは言っても、それはあくまで個別にあっている時だけ。学校で会うのはまた別の緊張がある。
でも、今日のように他の女子に囲まれるのだって、この先も緊張するのはわかりきってる。
うーん……これって、どっちがいいんだろう?
『優汰様。偽装とはいえ、そのような関係を望まない。そのような行動は嫌だと仰られるなら、無理にとは言いませんわ。ただ、これも沙和が、貴方様の為にと考えた案のひとつ。そ、その、私達も恥ずかしさはあるけれど、覚悟はできてますわ。だから、お受けいただけませんこと?』
僕が悩んでいると、瑠音さんも真剣な顔になりそう言ってきた。
「で、でも、この間の婚約者の件もあったでしょ? みんなとの関係性が変わっちゃうんじゃないかって、千麻さん達も不安がってたし」
『あれは瑠音一人だけ優汰君と特別な関係となってしまうために起きた、歪な関係だったからです。私達四人がみんな同じ関係性──つまり、優汰君にそ、その、恋い焦がれる関係であるなら、私達の状況は何も変わりませんよ』
『そ、そーいうこと! なんなら、あーし達も優くんの事で盛り上がれるわけだしー? 別に優くんは恋人候補としてあーし達を見なくってもいいわけ。なんなら今までみたいに、あーし達の好き好きオーラに気づかないように振る舞ってくれてもいいしさー』
こっちが気にしていた点について千麻さんと沙和さんが答えてくれたけど、確かに僕が自然体で対応すればいいんだったら、少しは気が楽かもしれない。
……って、本当に?
今までより人前で触れ合う機会が増えるかもしれないのに?
『ま、まあ、こればかりは優汰が決めてくれ。お前が納得して選択するってなら、俺達は別に文句もねえし』
『そうだねー。アイデアを出したあーしが言うのもなんだけど。優くんが嫌ならそれはそれで仕方ないっしょ』
僕の反応が芳しくないと感じたのか。
ちょっと残念そうな顔をしながら、喜世さんや沙和さんがそう気遣ってくれた。
無言で状況を見守ってる瑠音さんと千麻さんも、残念そうな顔をしてる。
多分、二人も僕のことを考えてこれまで話をしてくれたんだよね。
僕はどうすればいいんだろう……。
誰もが無言になった時間。
波と風の音だけが周囲を包みこむ中、僕は頭の中で答えを整理すると。
「みんな。ごめん」
そう切り出した。
直後、みんなが露骨にがっかりした表情をしたけど、僕は構わず言葉を続ける。
「その、みんなに迷惑をかけちゃうけど、力を貸してくれない?」
『……え?』
こっちの問いかけに、四人の疑問の声が綺麗に重なる。
『こ、断るって話じゃねえのか?』
「うん」
『嫌ではございませんこと?』
「嫌っていうか、恥ずかしいだろうなとは思ってる」
『その、無理はなさらなくても……』
「ありがと。でも大丈夫』
『ほんとに? ほんとーに、大丈夫?』
「うん。多分知らない女子に囲まれる方が、よっぽど辛いし無理かなって思うし。友達であるみんなが一緒のほうが、気恥ずかしさはあると思うけど、気持ちは楽だから」
僕はみんなが納得してくれるよう、自分の口でそう説明した。
言い方が悪いかもしれないけど、友達とも言えないあまり素性も知らない女子に囲まれるくらいなら、少しは気心がしれているTOP4といるほうが気分は楽。
そう思って決断したんだ。好き好きオーラって言っても、きっと四人だって人前だし加減は知ってると思うし。なんなら僕が恋人のように振る舞う必要がないんだ。自然体でいられるなら全然マシだと思うし。
僕の言葉を聞いて、四人が顔を見合わせ笑顔になる。
と、その直後。
『やったぁぁぁぁっ!』
と、両手を上げガッツポーズのエモートをしたのは沙和さんだった。
あれ? 今のって、そんなに喜ぶところだった?
「え、えっと、そんなに嬉しいの?」
思わず沙和さんにそう尋ねると、彼女はにっこにこの笑顔を見せる。
『うん! だってー、これで優くんと沢山アオハルできちゃうわけだしー。学校でも一緒にいられるし! ね?』
『そ、そうだな。優汰。俺達なりに好きをアピールしてくから、覚悟しとけよな?』
「え? 覚悟?」
『そ、そうですわ。偽りだとしても、周囲を欺くために本気で行動しなければ意味がありませんもの。でしょう? 千麻』
『は、はい。その、全身全霊をもって、好意を向けさせてもらいますからね』
他の三人も妙に気合いが入ってるけど、そこまでの必要ってあるのかな?
唯一そこまで気持ちが高ぶっていない僕は、そんなTOP4を見ながら少し唖然としちゃったんだ。




