第7話:違いすぎる状況
『は? どういうことだよ』
千麻さんの推測に未だ納得がいってない喜世さんに、僕はちゃんと理由を説明することにした。
「みんなは演技も上手だし、杞憂だったかもしれないんだけど。それでも本気で驚いてくれたほうが、僕とみんなの関係性を疑われずに済むかなって思ったんだ」
『……確かに、私達が学校で、今まで同様に接していては、優汰様のイメージチェンジに興味を持った感は薄れてしまう。それであれば、私達が強く驚いてから話しかけたほうが、より興味を持ったように感じ取っていただけますわね』
『そうだったんだー。優くんさっすがー!』
腕を組んだまま片手を顎に当て、瑠音さんが納得した顔をすると、沙和さんが急に笑顔になり僕の前に駆け込んでくる。
急にアップになった、彼女の大胆な胸元と笑顔。
さ、さすがにゲームとはいえ、この格好でこの距離は……。
「そ、そんなことないよ」
僕は突然の状況に、咄嗟に火照ってきた顔を横に逸らす。
『でもそういう意味じゃ、優汰が狙った通りにはなったかもしれねえな。瑠音が優汰様とか言い出した時には、流石にやべえって思ったけどよ』
『ああああ、あれは仕方ありませんわ! 誰だって突然目の前に天使が現れれば、驚き見惚れ、感嘆の声を漏らすのは普通ですわよ!』
……え? て、天使?
沙和さんの後ろのほうで瑠音さんが顔を真っ赤にし必死に弁解しているけど、今のって僕の事を差してるのかな?
流石にそれは過大評価だと思うけど……。
『おいおい。流石に天使は言い過ぎじゃねえか?』
『あら。喜世は優汰様の素晴らしさ、まだわかっておりませんのね。お名前を呼ばれただけで、あれだけ恥ずかしそうにしておきながら』
『う、うっせー! 生で優汰の顔を見ちまっただけでもヤバかったんだ。仕方ねえだろ! な? 千麻』
『は、はい。流石の私も、心の平静を保てませんでしたし……』
『わかる。わかるよー。あーしも見た瞬間から顔がニヤけそうだったしー』
僕の脇に移動し、盛り上がる三人に向けめちゃくちゃ頷いている沙和さん。
た、確かにみんなめちゃくちゃ照れてたもんね。
まあ、喜んでくれたみたいだし、それは良かったけど。
なんとなくみんなの反応が悪くなかったことにホッとしていると、千麻さんが少し真面目な顔をした。
『ただ、学校の女子の盛り上がりもまた想像以上でしたので。優汰君への負担が心配ですね』
『そーだねー。お昼なんて、ちっちーと二人、みんなに囲まれてトークショーみたいになってたもんねー』
『ま、注目を集めちまうのは仕方ないんだけどよ。今日みたいな日が続いたら、優汰も気持ちが休まんねえだろ。どうだ?』
「う、うん。正直ここまで反響があるって思ってなかったし、今日もずっと緊張しっぱなしで疲れたかも」
両腕を頭の後ろに回し、僕に同情の目を向けてきた喜世さんに、僕は苦笑いしながら冗談っぽく答える。
目下の悩みは本当にそれだと思う。
早く慣れないといけないけど、慣れる前に参っちゃわないかはちょっと心配だし。
……そういえば。
「でも、そう考えるとみんなって凄いよね。TOP4として同じくらい注目されてるけど、全然自然体だし」
本当にこれはそう思う。
今日のお昼だって、緊張しっぱなしの僕と比べ、千麻さんは本当に普段通りに振る舞ってたもんね。
「何かコツでもあるの?」
僕の素朴な疑問に対し、顔を見合わせた彼女達の表情が曇る。
『そうですね。結局は慣れ、としか言いようがないのですが……』
『優汰様と私達では状況が違いすぎますもの。私達の話は参考になりませんわね』
「え? どういうこと?」
今の僕とみんなの状況って、そんなに差があるの?
千麻さんと瑠音さんの話を聞いてもいまいちピンとこない僕を見て、瑠音さんがちょっと苦笑いする。
『私達は別に、小さな頃から人気だったわけじゃないわ。各々に変わろうと努力をし、時間を掛けて変わっていくうちに人が集まるようになっただけ。だから、慣れるための時間も余裕もありましたのよ』
『でも優汰君は違います。今まで全然注目されなかったあなたは今日、一躍時の人になりました。その差はやはり大きいと思います』
「あ、そういう事か……」
つまり、いきなり僕と同じ状況になってたら、流石のTOP4でも戸惑ってたって事だよね。
つまり、僕は当面この状況のまま慣れるしかないって事。
今日一日でこれだけ疲れたのに、本当に慣れるものなのかな……。
「はぁ……」
不安な気持ちばかりが先行して、僕は思わずため息を漏らす。
『なあ。優汰は俺達の為に頑張ってくれたんだろ? 何か策はないのかよ?』
『と、言われましても。優汰君はあれだけの女子生徒の心に火をつけたのです。それを簡単にどうにかできるかといえば……』
『まあ、周囲の熱が冷めるまで待つくらいしか手はないわね。まあ、熱が冷める保証もありませんけど』
喜世さんのそんな問いかけにも、千麻さんと瑠音さんはお手上げと言わんばかりに両手をあげ肩を竦めるエモートをする。
やっぱりそうなるよね。
でも、こればかりは仕方ないかな……。
諦めの気持ちが大きくなった、その時。
『そうだ!』
隣でポンッと手を合わせるエモートをした沙和さんがみんなを見た。
『ね? こうなったらー、あーし達で優くんを囲っちゃわない?』
「え? 囲う?」
囲うって、どういう意味?
僕が思わず疑問を返すと、彼女は僕に向き直る。
『そ。今日、あーし達も朝テンション上がっちゃって、いきなり優くんび名前呼びとかお願いしちゃったっしょ? だからー、どうせならそれをエスカレートさせんの』
『エスカレートって、どういうことだよ?』
僕と同じ疑問を口にしてくれた喜世さんに対し、沙和さんは……あれ? 何で顔を赤らめ恥ずかしそうな顔をしたの?
不思議そうな顔をした僕に、沙和さんはちょっともじもじと身を捻りながら、こう口にしたんだ。
『そ、そりゃぁ、その……もーっと好き好きオーラを出してー、なるべく一緒にいるの』




