第1話:不安な登校
瑠音さんの一件の翌週。
朝、僕は学校に行く準備のため、いつものように制服姿で鏡の前に立っていた。
……うーん……本当に大丈夫かな……。
歯ブラシを咥えシャカシャカと歯を磨きながら、そんな不安に苛まれる理由はふたつある。
ひとつは、千麻さんのために買った誕生日プレゼント。
土曜日の日中に買いに出かけたんだけど、半日以上掛け悩み抜いて買った物が、今でも正しかったのか自信がなかったりする。
──「優くんがー、あーし達のためにーって、考えてくれたプレゼントを贈ればおっけーだよ」
沙和さんがそう言ってくれてたし、形が残るものがいいってアドバイスをもらったのもあったから、その方向で頑張って選んだんだけど。こういうのって初めてだから、本当に喜んでもらえるか不安で仕方がない。
千麻さんの誕生日は木曜日。
そこまで、ずっとこのもやもやが続くのかなって思うと少し憂鬱だったりする。
歯ブラシを洗面台で洗いコップに入れた水で口を濯ぐと、僕はコップの中に歯ブラシを入れ洗面台の棚に戻す。
そして、改めて鏡に映る自分をじっと見た。
もうひとつの不安は、そこに映る僕の姿だ。
普段あるはずの黒い前髪は短くカットされ、おでこを出す感じで左右に分けられている。
周囲も髪を梳いたりしてもらって、普段よりすっきりとしているんだけど、そのせいで目元が普段以上にひんやりしてるし、視界も随分クリアにはなった。
僕がみんなの側にいるためにって思って考えた結論。
それは、せめて外見だけでもイメチェンすることだった。
TOP4のみんなが、シャインズ・ゲートでイメチェンした僕を褒めてくれてた。
勿論それを真に受けていいのかは、僕も未だわかってない。
ただ、もしそれが本当だとしたら、僕がリアルでも同じようにちゃんと顔を出したら、彼女達が僕に興味を持ったって理由で、より話しかけやすくなるきっかけになるんじゃないかなって思ったんだ。
日曜日。
人生で初めて行った美容室の店員さんも、凄く似合ってると褒めてくれてたけど、やっぱり見慣れない自分を見ているとどうしても不安になる。
みんなに変な顔とか思われたり、似合わないって言われないかって。
実際、家に帰るまでの途中も、妙に周囲の女性にちらちら見られてた気がするし。
ちなみに、今日は月曜日でお弁当を作ってもらう日じゃないから、朝は誰もうちに来ない。
だから誰かに朝から確認もできないんだよね。
それがより不安を掻き立てるけど、だからって学校を休むわけにもいかない。
……自分でイメチェンするって決めたんだから。
不安を洗い流すように顔を洗った僕は、覚悟を決めると顔を拭き、そのまま出かける準備を進めたんだ。
◆ ◇ ◆
気合を入れ直したのはいいんだけど……。
僕はバスの後ろの方に座りながら、より不安を覚え始めた。
というのも、どんどん生徒が増える中、まるで昨日を再現するかのように、同じ学校の制服を着た女子達がちらちらとこっちを窺ってきたから。
「あんな人いた?」
「ううん。見たことない」
なんてひそひそ声も聞こえてきたけど、多分僕のことを言ってるのは間違いなさそうだけど……。
なんとなく周囲の目が妙に気になっちゃいそうで、僕は誰とも目が合わないように、窓の外に目を向けた。
……この感じだと、学校でももっと色々な人の目にさらされるよね。
どうしよう。これでクラスのみんなとか、それこそTOP4にまで似合ってないとか言われたら……。
不安で心臓がぎゅっと締め付けられたような気持ちになる。
外の天気のように快晴とはいかない気持ちのままバスに揺られて少し。
やっと学校まで着いた僕は、ひとりゆっくりとバスを降り、登校する生徒の流れに沿って歩き出したんだけど。
……なんか、周囲の生徒が僕から距離を置いて、やっぱり何かヒソヒソ言いながら歩いてる気がする。
ちらりと後ろを向くと、いつもより妙に女子が僕の背後にいるようにも見えるけど、多分気のせいだよね……。
普段より変に注目されている理由がわからないまま、僕は校門の前までやってきた。
普段ならここでTOP4のみんなが来るイメージがあるんだけど、今日は珍しく鉢合わせしない。
みんなが注目を集めてくれたら、僕を見る人も減るって思ったんだけど……。
運悪く助け舟もないまま、僕は変に注目されたまま学校へと入って行く。
下駄箱で上履きを履き替えている間も、遠間に女子の視線を感じるし、廊下をすれ違う女子達の視線も痛い。
いつキモいって言われるんじゃないか怖くなりながらも、僕はやっと二年C組の教室に入ったんだけど。その瞬間、既に登校していたみんなの視線が一気に僕に集まった。
目を丸くした女子達と、唖然とする男子達。
だけど、誰も僕に挨拶をしてくれない。
「お、おはよう」
気まずい空気に耐えられなくて、僕はおずおずと挨拶すると、そのまま自分の席に腰を下ろす。
と、その瞬間。
「あ、有内ぃぃぃぃぃっ!?」
教室内にいる生徒達の声が、綺麗に重なったんだ。




