幕間:千麻の誕生日
瑠音の一件が落ち着いた後、私達はそのまま彼女の別宅で夕食を済ませることになりました。
今日は豪華な感じにはせず、敢えて近くのファーストフード店のバーガークイーンで購入したハンバーガーやサラダ。ポテトやナゲットなどを並べて、さながら学校帰り気分。
大きな問題が片付いたからでしょうね。この間のスタビの飲み物をみんなで飲んだ時のように、テーブルを囲むみんなの表情も随分明るくてほっとします。
「そういやさー。中間テストも無事終わったしー。みんなで週末何処かに出かけない?」
そんな中、沙和がそんな提案をしてきましたが。
「あ、ごめん。僕、週末はちょっと用事があって……」
それを一番最後に断わったのは、意外にも優汰君でした。
「用事って、買い出しか何かか?」
ハンバーガーを飲み込んだ喜世がそう尋ねると、優汰君は少し困ったような顔をします。
「えっと、まあ色々あるんだけど。来週は千麻さんの誕生日だし、プレゼントも買わないといけないとって」
優汰君……。
私はその言葉を聞いて嬉しくなり、無言のまま喜びを噛み締めておりました。
だって、あんな事があった後でも、私の誕生日を気にかけてくださっているんですよ。嬉しくないはずがありません。
「そうですわね。ま、私は既に準備を終えていますので、優汰様のお買い物にゆっくりお付き合いできますけれど」
「あーしはまだ買えてないんだよねー。ね? 優くーん。せっかくだしー、あーし達と一緒に行かない?」
「あ、えっと。ごめん。今回は一人で行こうと思ってるんだ」
沙和の誘いすら断る優汰君。
「どうしたんだよ? 俺達と行けば、困った時にアドバイスだってできるぜ?」
確かに。プレゼントを選ぶのに悩むようであれば、彼女達の助言はきっと役に立つと思いますが。何か当てでもあるのでしょうか?
私まで首を傾げていると、彼は凄く申し訳なさそうにこう言ったんです。
「その、みんなの助言があったら嬉しいんだけど。それだと、自分で選んだことにならなそうだし。今回が千麻さんへの初めてのプレゼントなのもあるから、きちっと自分で何か選びたいんだ」
……もう。優汰君はどこまで私の事を考えてくれるんでしょうか。
思わず目が潤みそうになるのを、私は眼鏡を直すことでごまかします。
「優くんってば、やっぱそういうとこサイコーじゃーん! ね? あーしの誕生日の時も、本気で悩んでくれる?」
「あ、うん。そのつもりだけど。そうだ」
手にしていたハンバーガーを一度お皿に戻した優汰君が、私達を一瞥します。
「あの。みんなの誕生日って聞いてもいい?」
「もち! あーしは十一月十五日だよ」
「俺は十月二十日」
「私は十二月二十六日ですわ」
「ありがとう。千麻さん以外、みんな秋以降なんだね」
「そうなんだよねー。ちっちーいいなー。もう優くんに祝ってもらえるとかさー」
両手を頭の後ろに回し、心底羨ましそうな声を出す沙和。
「ふふっ。その分、楽しみを取っておけますよ」
「そりゃそーだけどー。ほんと、うっらやっましー」
まあ、その気持はわかります。
私だって、来週が楽しみで仕方ありませんし。
「そういや優汰。お前の誕生日は?」
「あ、うん。八月二十四日」
「お。優くんは夏休みなんだ。その時期ってー、実家に帰ってるとかあったりするー?」
沙和の言葉を聞いて、優汰君が苦笑いをします。
「正直、あんまり実家には戻りたくなくって。ここ数年戻ってないんだ」
「ご両親とあれだけ仲が良さそうなのにですか?」
「うん。まあその……実家に、あんまり良い思い出もないし」
「あ……」
私達はその瞬間、場が凍りついたように感じました。
先程、或人様とのやりとりで中学時代の話を聞いたばかりだったのに……。
同じ気持ちだった喜世、沙和、瑠音もまた気まずそうな顔をしています。
「ちなみに、夏休みは両親が東京観光も兼ねて遊びに来てくれたりするけど、その時期からはずれてるから、多分大丈夫だと思う」
と。そんな空気をかき消すように、優汰君が微笑みながらそう話を続けてくれます。
「そういえば、沙和さん達って今日どこにいたの? あんなに絶妙なタイミングで登場するなんて思ってなくって、本当にびっくりしちゃったんだけど」
優汰君、気を遣ってくれてますね……。
話を逸らしてくれる彼の優しさに感謝しつつ、私もその話題に乗ることにしました。
「はい。実は沙和が面条さんに相談して、こっそり別の部屋からモニタリングさせてもらったんですよ」
「え? 面条がそれを受け入れたというの?」
「そ、そーそー。話をしたらさー『きっと皆様がお嬢様の力となることもありましょう』なーんて、格好良く言ってさー」
「面条……」
普段の面条さんであれば、きっと瑠音の指示がなければ余計なことなどしないでしょう。
それを知っているからこそ、彼女ははっきりと驚きを顔にします。
残念ながら、今この部屋には面条さんはいらっしゃいませんが、二人が顔を合わせた時、どんな反応をするかは気になりますね。
「ほーんと。あいつはいい執事だよな」
「……そうね。自分勝手に動くなどとは思いませんでしたけど」
喜世さんの言葉に、言葉とは裏腹に優しく微笑む瑠音。
それを見て、沙和が目を細めにやりとしました。
「なんて言っちゃってー。本当は嬉しいんでしょ? 自分のために行動してくれたんだーって」
「う、うるいさいわね。執事たるもの、そのような行動は当たり前でしょう?」
沙和にいじられふてくされた瑠音を見て、優汰君も私達も思わず笑ってしまいました。
「でも、お陰でこれからも今まで通りに過ごせるんだし、千麻さんの誕生日も変わらず祝ってあげられるんだから。感謝しないとね」
「そうですわね。後で私からお礼を伝えておきますわ」
「うん。お願いね」
こんな時でも優汰君は優しさを忘れない。
本当に素敵な方ですね……。
今までと違う、彼のいる誕生日はどのようなものになるんでしょうか。
そして、彼からどのような誕生日プレゼントをいただけるのか。
私はみんなと楽しい時間を過ごしながら、早くも週明けの自分の誕生日が待ち遠しくて仕方なくなったのでした。




