第26話:その先の関係
……これで、終わった……の、かな。
僕は未だ視線をそらすことなく、呆然とディスプレイを見つめていた。
既に画面にいない、或人さんとお父さん達。部屋の明るさも入ってきた時と同じ。
或人さんは、ちゃんと瑠音さんの自由にさせるって言ったんだ。流石に大丈夫だと思うんだけど、さっきまでの緊張と、予想外すぎる展開が続いたせいで、未だ現実味がない。
ただひとつ言えることは、今回上手く説得できたのは、何故か両親が或人さんと知り合いだったからなのと、沙和さん達がいてくれたから。
きっと自分だけじゃ、どうにもならなかったと思う。
……そうだ。
みんなにお礼を言わないと。僕が沙和さん達に向き直ろうとした時。
「……神が、還られましたわね」
瑠音さんがしみじみとそう呟いた。
……あ、またそんな事言ってる。うちの両親はそんな凄い人じゃないのに。
「瑠音さ──」
「ほんと。ヤバかったよな。特に優汰の親父さん」
「はい。或人様とあそこまで自然に話される方、初めて見ました」
「……え? そうなの?」
喜世さんと千麻さんまでそんな事を口にしたけど、そんなにヤバい人だったの?
思わず千麻さんの方を見ると、彼女だけじゃなく沙和さんや喜世さんもうんうんと頷いてる。
「本当ですわ。お父様があそこまでの笑顔を見せる相手なんて、私の財閥内でもほとんどおりませんわ」
「え? 嘘!?」
「ほんとだよー。あーし達、るとっちの実家とかでおじさんを見るけど、いつも側にいる執事長の神田さんにも笑ったの見たことないしー。多分、瑠璃さん相手くらいじゃない? 笑うのって」
「ですわね。優汰様のお父様は一体何者なのかしら……」
瑠音さんを見ると、顎に手を当て本気で悩んでる。
あの状況、そんなに凄いことだったんだ。
お父さんはいつもあんな感じだし、僕からすると普段通りなんだけど。
「でも、そういう意味じゃ優汰もやばかったぜ」
「え? 僕も?」
喜世さんの言葉に、思わず首を傾げる。
「そうですわね。普段のお父様であれば、あそこまで言われればすぐさま話を切り上げ、聞く耳など持ちませんわ」
「そ、それは多分、瑠音さんの話だったから聞いてくれただけじゃないかな?」
「いいえ。私の話であるなど関係ございませんわ。以前、私に求婚してきたとある会社の御曹司など、軽く話を聞いた程度でほぼ門前払い。なんならその後、彼の一族が誰一人として我が家の敷地をまたげなくなったくらいですもの。お父様にしっかりと話を聞かせ笑顔にし、私達の思いを受け入れさせた優汰様は、それはもう神の子に恥じないだけの結果を残しましたわ」
「ほんとほんと。まーじ凄かったもんねー。あーし達も、最初っから話をしようと思ったら、そうはいかなかったしー」
そ、そうだったんだ。
確かに裏にお父さん達がいたってのはあったとはいえ、一歩間違えばお父さんと或人さんの仲すら引き裂く可能性があったのかも……って、あれ?
「でも、さっきの沙和さん達だって堂々と色々と言ってたよね?」
そう。突然部屋に現れてから、みんな或人さんに色々言ってたよね。
あれって大丈夫だったのかな?
僕が沙和さん達を見ると、彼女達はちょっと困った顔をする。
「ま、まあ、正直俺達も勇気がいったぜ。な? 千麻」
「はい。沙和が部屋を飛び出して、勝手に話しだした時にはどうしようかとヒヤヒヤしていましたし」
「しゃ、しゃーないじゃーん。正直あーしも怖かったけどー、優くんが困ってるの見た瞬間、いてもたってもいられなくなっちゃったしー」
指をつんつんと合わせながら、沙和さんが気まずそうにこっちを見てる。
でも、本当にあれがなかったら、僕はその先どうすればいいのかわからなかった。
「でも、沙和さんがああやって行動してくれたから、きっと或人さんもみんなの思いを知ってくれたと思うし。本当に助かったよ。ありがとう」
僕が笑顔を向けると、それを見た彼女がぱぁーっと釣られて笑顔になった後、両腕を組み自慢げな顔になる。
「もち! るとっちと優くんのためだもん。これからだってー、何かあったらちゃーんと駆けつけるね!」
「ありがとう。僕も沙和さんやみんなに何かあったら、できる限り力になるからね」
「うん!」
にっこにこになった沙和さん。
こうやって話してると、やっと終わったって実感する。
はぁ……よかった……。
僕がほっとしていると、喜世さんがこんな事を言ってきた。
「そういやよ。これで俺達、公認になった、ってことでいいのか?」
え? 公認……って、どういうことだろう?
みんなは急に顔を赤らめもじもじとし始めたけど……。
「た、多分、そうではないでしょうか。素敵なお嬢さんとお母様も仰られましたし」
「お父様も優汰様に、私達を大事にするようにと仰っていたものね」
あー。そういうことか。
確かにお父さんやお母さんがそんなこと言ってたもんね。
「多分いいんじゃないかな。僕達が友達だったことを喜んでたし」
「そ、そっかー。優くんのパパチとママチの公認かー……」
「偶然とはいえ、ご両親をご紹介いただけたなんて、光栄ですね」
「そうですわね。これでひとつ上の関係になったとしても、きっとお二人も喜んでくださるわ」
「だ、だといいけどよ」
そうか。これでひとつ上の関係になってもいいんだ。
……って?
「え、えっと。ひとつ上の関係って、何?」
突然耳にした言葉に僕が首を傾げると、それを口にした瑠音さんが顔を真っ赤にした。
「そ、それは、その。と、特別な友達以上の……そ、そう! 親友などですわ!」
「親友……」
ああ、確かにそんな言葉もあったよね。
でも、正直どこまで関係性を深めたら親友になれるとかなんて、全然分からないけど。
いつかTOP4にとって、僕がそんな存在になれたら嬉しいよね。
「そっか。僕もそう呼んでもらえるよう、もっと頑張らないとね。きっとお父さん達も喜ぶと思うし」
僕がそう決意を口にした瞬間、四人はちょっと驚いた後、どこか呆れ顔で小さく笑う。
あれ? 僕、何か変だった?
「ま、優汰なら大丈夫だろ。な?」
「はい。優汰君は既に親友に近しい存在。だからこそ、特別なんですから」
「そーそー。だからー、これからもみんなでたーくさん、アオハルしよ?」
「そうね。これで私の肩の荷も降りたことだし。これからも変わらず……いいえ。いい意味で変わりながら、仲良くしていきましょう?」
「うん。そうだね。これからもよろしくね」
「もち!」
「任せろって」
「よろしくてよ」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
……うん。そうだよね。
よりみんなと親しくなって、青春できるようにこの先も頑張らなきゃ。
にこりと微笑み返してくるみんなを見ながら、僕は改めて自分で動き出そうと決意したんだ。




