第24話:サプライズ×サプライズ
え? この声って?
僕が思わずドアの方を見ると、そこに立っていたのは真剣な顔をした一人の美少女だった。
金髪のポニーテールに褐色の肌。最近見慣れたやや着崩した制服姿。
この姿にさっきの声。間違いない。
「沙和!?」
僕より前に名前を呼んだ瑠音さんの声に反応し、視線をそっちに向けた彼女は無言で小さく頷く。
「ったく。沙和。動くにしても唐突すぎだろって」
「本当ですよ。まったく。声がけの一つもせず飛び出すなんて……」
その後ろから姿を見せた二人もまた、僕にとって見慣れた相手。
喜世さんと千麻さんだ。
二人は沙和さんを見ながら呆れ顔をしているけど。
「ちっちーときよっちが遅いだけじゃん」
彼女はさらっと、そんな一言で片付けた。
でも、なんでみんながここに!?
戸惑いが強すぎてその場で呆然としていると。
『君達は……』
「おじさん。どもでーす!」
或人さんからも驚きの声を漏らす中、部屋に入り僕に並んだ沙和さんは、びしっと腕を伸ばし逆ピースをしながら、普段通りの笑顔で軽く挨拶を交わす。
「ご無沙汰しております」
「勝手に押しかけてすいません」
彼女の後ろに並んだ千麻さんと喜世さんは丁寧に会釈する。
『君達が何の用だね』
ディスプレイ越しの或人さんが、そう尋ねると。
「あれー? おじさん知らないの? 『優くんのピンチにTOP4あり』。有名な言葉だよ?」
「……そんな事言ったことあったか?」
「いえ。初耳ですね」
僕も初耳だけど……。
後ろでこそこそと話す喜世さんと千麻さんと同じ気持ちになっていたけど、沙和さんは彼女達を意に介すことなく、両腕を組み話を始めた。
「でもさー。おじさんって酷いよねー」
『俺が酷いだと?』
「うん。優くんの人柄の良さを見抜けてないしー。優くんがあーし達のことで嘘を吐いてるなんて疑っちゃってさー。そんな事を言われたらさー。るとっちだって傷つくじゃん、ね?」
「え? え、ええ」
突然話題を振られ、僕を挟んで反対に立っていた瑠音さんは戸惑いながら返事する。
正直、今なんでこんなことになってるのか。僕以上に困惑しているに違いない。
「いーい? おじさん。あーし達はるとっちとこれからも友達でいたいわけ。もち、恋をしたら応援もしたいしー、せっかくあーし達と友だちになった優くんとも、もっと仲良くしたいんだよねー。でもー、るとっちに急に婚約者ができたりしたら、そうもいかないじゃん?」
『いつか人の関係など変わるもの。遅かれ早かれそのような時は来る──』
「けど、今じゃなくたってよくなーい?」
いつになく堂々とした沙和さんは、ふくれっ面をしながらじっと或人さんを見つめた。
「あーし達はるとっちの幼馴染。そして、最近になってそこに優くんっていう、とーっても素敵で、めーっちゃ優しい友達ができたわけ。あーし達はまだ恋人いないしー。優くんはいじめのせいでこれまで学校生活楽しめてなかった。だからー、あーし達みんなで、これからもーっとアオハルしよーって話してたんだよ? そこにおじさんがわがまま言って割って入るの、あーしは許せないわけ」
「瑠音の事情を知った後、。私は先日優汰君にこんな話をしました。『できれば私はもう少し、みんなとの関係が今のまま続いてくれたら』と。先程、優汰君は私達の言葉を代弁してくれましたが、今こうやって瑠音のために必死に或人様を説得されていたのも、彼の優しさなのです」
千麻さんが一歩前に出て沙和さんに並ぶと、普段の彼女らしい落ち着きを見せながらそう離してくれる。
「或人さん。こいつは自分で言ってた通り、中学校で無視され続けて、ずっと友達がいなかったんです。俺達と友達になる時だって、うまくやれるかってずっと不安を抱えてて。それでも友達のためにって、色々思いやってくれたり、一生懸命応援してくれる奴なんです。瑠音だってそう思ったからこそ、恋人役を優汰に頼んだし、こいつも一旦は受け入れたんです」
『だが、優汰は嘘を吐いた』
「そのとおりです」
喜世さんもまた沙和さんと僕の間に立つと、こっちに顔を向けてくる。
「優汰。お前、さっき瑠音に嘘を吐いてもらったっていってたけどよ。お前からすりゃ恋人であることが嘘だっただろ?」
「う、うん」
「瑠音のお願いを一度は聞いておきながら、何で嘘を突き通さなかったんだ? 或人さんと話したかった以外にも、理由があんじゃねえか?」
……喜世さんは、本当に僕のことをよくわかってる。
真剣な顔でこう切り出されたら、本当の理由を言わないとだよね。
僕は背筋を正すと、或人さんに向き直った。
「僕は……僕が恋人だって嘘を吐いたら、きっと信頼されないって思ったんです」
『では、何故娘に嘘を吐いてもらったなどと言った?』
「その……瑠音さんが自分の意志で嘘を吐いたと知ったら、お父さんに怒られるんじゃないかなって思って」
そう。
僕があんな風に嘘を吐いたのも、その上で恋人じゃないと真実を告げたのも、こんな理由だった。
「優汰様……」
どこから嬉しそうな声で僕の名前を呟く瑠音さん。
彼女を見ると、目を潤ませ泣きそうな顔をしてる。
「ごめんね。驚かせちゃって」
「いいえ。私は貴方様にここまでお気遣いいただけただけで……とても嬉しゅうございます」
僕が苦笑いすると、彼女は首を横に振ると指で目尻の涙を拭微笑んでくる。
「おじさん。優くんはー、あーし達のことで嘘なんて吐いてないし、おじさん以上にるとっちのことを考えてくれてる。これでわかったっしょ?」
「確かに、瑠音は将来麗杜家の跡取りとなる。だからこその心づもりもあるかと思います。ですが、どうかもう少し、瑠音を信じ自由にさせていただけませんか?」
「俺からもお願いします。或人さんが本気で瑠音のことを思ってるってなら、こいつを信じて好きにさせてやってください。瑠音なら或人さんのお眼鏡に叶う相手、ちゃんと選ぶはずなんで」
「お願いしまーす!」
三者三様にディスプレイに向け頭を下げると、それを見た瑠音さんがぎゅっと唇を噛むと、或人さんに向き直る。
「お父様。本来このような話は、私から口にせねばいけなかったこと。優汰様も、沙和、喜世、千麻も、不甲斐ない私のために尽力してくださっただけ。何も悪くございません。……私がお父様の決断に意見するなど許されるものではありませんが、どうか。どうかこの件だけは、私の自由にさせていただけませんか? お願い致します!」
深々と頭を下げる瑠音さんをしばらくじっと見ていた或人さんが、ふっと優しい笑顔を見せ目を細める。
と、その瞬間。
『う、ううう……』
何処かから、急に誰かの嗚咽が聞こえてきた。
え? 誰だろう?
周囲を見たって僕達しかいないし誰も泣いてない。ってことは、或人さん……は、泣いてないよね?
僕達が思わず顔を見合わせていると、突然こんな会話が耳に届いた。
『ああ……優汰に、こんな素敵なお友達ができたなんて……』
『母さん。いくらなんでもこんな所で泣くもんじゃないって』
……へ?
泣いているであろう声の主は、間違いなく僕の名前を呼んだ。
それだけじゃない。最近ご無沙汰ではあるけれど、僕はこの二人の声を聴き間違うはずなんてない。
でも、どうして? 本当にそこにいるの!?
僕が目を丸くしたのを見て、或人さんがにやりと笑う。
そして、あの人はカメラの外の方を見てこう言ったんだ。
『お前が言っていた通り、優しい息子だな。麟太郎』




