第17話:出ない答え
あの後、僕達は予定通り喜世さんの祝勝会と称して、瑠音さんが用意してくれた豪華な昼食を食べた。
この間ここで食べたようなフランス料理のような豪華な食事。
前菜のサラダやメインのローストビーフ。デザートのケーキまで本当に美味しかったけれど、それを食べながら盛り上がる僕達には、どこかぎこちなさがあったように思う。
それでも、今日の喜世さんの試合での凄さを褒め、活躍を賞賛し、みんなで過ごす時間はやっぱり僕にとっては貴重で嬉しいもの。
実際、頑張った喜世さんも笑顔で色々裏話なんかも話してくれたし、それは楽しい時間だった。
まあ、彼女の笑顔の裏には一番の目的っぽかったスタビのドリンクがあったのは間違いないけど。
その後、僕達は別宅で瑠音さんと別れ、面条さんが運転する車に乗り家路に着いた。
先に沙和さんと千麻さんを家に送り、後は喜世さんと僕だけになったんだけど。
「な。少し話もあるし、寄り道してもいいか?」
そんな提案をした喜世さんに頷き、面条さんに送ってもらった先は、葛橋臨海公園だった。
◆ ◇ ◆
東京湾に面した葛橋臨海公園。
全国でも有数の大きさを誇る観覧車や、マグロが泳ぐ珍しい水族園なんかもあるかなり広い敷地を持つ公園は、休日ともナルト多くの人で賑わう場所。
ただ、夕暮れ時が近づくと、流石に人も減って落ち着いた雰囲気の場所になる。
そんな公園の歩道を、僕と喜世さんは並んで歩いていた。
「はーっ。やっぱここを歩くのは気持ちいいな」
「そうだね」
腕を上げ大きく伸びをしながら歩く喜世さんは結局ジャージのまま。
この方が動きやすいからって理由だったけど、確かにそれはよくわかるし、こういう姿も似合ってると思う。
ちなみに、結構開けたこの場所は景色もまた凄い。
南には遠くにレインボーブリッジが。東には東京ネズミーリゾートが見える開けた海沿い。普段は海風が強い日も多いんだけど、今日は珍しく風はそれほどじゃなくって絶好の散歩日和だ。
「……しっかし。瑠音も大変だよな」
歩きながら、喜世さんがそう話を振ってくる。
ちょっと内容が重いと感じたのもあったのか。帰りの車でも誰も彼女の話に触れずにいたんだけど。多分喜世さんのことだし、当事者の一人になった僕のことを心配して話を切り出してきたんだと思う。
「そうだね。高校二年で婚約者なんて、なんか現実味もないし」
「だよなあ。こういう時、金持ちのお嬢様ってのは不自由なのかもな」
両腕を頭の後ろに回した喜世さんには、笑顔らしい笑顔もない。
じっと歩道の先を遠い目で見つめ歩いていた彼女は、ふとこっちに顔を向けた。
「ちなみに、お前は大丈夫か?」
「大丈夫って、何が?」
「何がじゃねえって。さっき自分でも心配してたろ。恋人を演じられるか不安だって」
「そういう意味なら、正直ずっと不安かな。やっと少し友達関係がわかってきたくらいなのに、恋人関係がどんなものか想像もつかないし」
正直これが今の僕の本音。
特別な友達でも触れ合いが随分多いって感じてるけど、恋人になっちゃったらどこまでのことをするのかなんて想像もつかないし、好きって気持ちがどんなふうに行動に出ちゃうかもさっぱりわからないんだよね。
「そういやお前、前に誰かを好きになったことはないって言ってたよな?」
「う、うん」
言った。
みんながTOP4だって知ったあの時に。
「それは今も変わらないのか?」
「うん。変わってないと思う」
「そうか……」
その答えを聞いて、喜世さんが顔を上げ遠くを見る。
「ちなみに、お前は瑠音の提案をどう思う?」
「提案って、恋人と偽るって件?」
「ああ。変な話だけど、お前があいつを好きで付き合いたいってなら、話は丸く収まっちまうかもしれねえなって思ったんだけどよ」
「そ、それは悪いよ。僕は特別と言ったって結局友達だし、瑠音さんだってきっと、自分で好きな人を見つけた上でお付き合いしたいと思うよ」
「好きな人と付き合いたい……か。ま、そうだよな」
言葉では納得したような事を言ってるけど、なんとなく表情は真逆の顔をしているような気がする。
喜世さん、どうしたんだろう?
気になってその事を尋ねようと思ったけど、その前に彼女が口を開いた。
「あいつは説明してこなかったけどよ。お前と瑠音はいつまで恋人を演じることになるんだろうな?」
「うーん、どうなんだろう? ただ、お父さんに話をしてすぐに別れるってわけにもいかなそうだよね」
「まあな。かといって、あいつがちゃんとした恋人と付き合うまでずっとそのまま、ってわけにもいかねえだろ」
「そうなんだよね。その前に破談したことにしちゃったら、千麻さんが言ってた通り、元の状況に戻っちゃうだけだし」
そこなんだよね。
上手く解決する方法、何かないのかな? うーん……。
「なあ、優汰」
僕が顎に手を当て考え込んでいると、喜世さんが僕の名前を呼んだ。
声に釣られ顔を上げると、彼女はすごく真剣な顔をしてる。
「俺がこんなこと言うのもなんだけどよ。お前が、瑠音をなんとかしてやりたいってなら、どんな選択をしても構わねえと思う。ただ、その……なんとかしてやりたいっていう気持ちだけは、忘れないでいてくれないか?」
「なんとかしてやりたいって気持ち……」
「ああ」
僕が何気なく復唱した言葉に、喜世さんが強く頷く。
「お前が瑠音の力になりたいって思う気持ち。それがあればきっと、瑠音だって安心もするだろ。それこそ、その……お前が、あいつの婚約者としてずっと過ごすって選択をしたって、きっとあいつも後悔はしねえと思うし……」
真剣な喜世さんの表情を見て、僕は思う。
確かに、僕がどんな選択肢を取るにしても、ちゃんと瑠音さんの事を思って行動しないと彼女に悪いよね。
でも、こういう話をきちっと言葉にしてくれる喜世さんはやっぱり凄いし、本当に頼りになる。
「……やっぱり、喜世さんって凄いよね」
「凄い? 俺が?」
僕が口にした言葉を聞いて、彼女はきょとんとする。
「うん。今回の助っ人の話もそうだったけど。ちゃんと誰かのことを考えて手助けしたり、気を遣ったりするのって、本当に凄いし、頼りになるなって」
「はっ。そういうのはお前の事を言うんだよ。優汰」
僕の言葉を聞いて、喜世さんがにっこり笑うと、歩道の端に寄り足を止めた。
僕もそれに並ぶと、ちらりとこっちを見た彼女は、そのまま視線を夕焼け色に染まり出した海に向けると、そのままゆっくりと話し出した。




