第14話:真面目な話の前に
「え?」
瑠音さんの申し出に、僕は沙和さん達と顔を見合わせる。
別に話したいことがあるのなら、聞くのは何らやぶさかじゃない。ただ、祝勝会をするって時にする顔じゃないのだけが、ちょっと気になっただけ。
「私は別に、構いませんが……」
千麻さんが神妙な顔でそう言った後、沙和さんの顔色を窺う。
すると、沙和さんは瑠音さんの雰囲気なんて関係ないと言わんばかりに、いつものような眩しい笑顔を見せた。
「うん。いいよ。じゃーあー、スタビのアイスロイミラテで手を打っちゃおっかなー」
……え? スタビのアイスロイミラテ?
急に飛び出してきた言葉に、僕はまた首を傾げていた。
スタビっていうのは、有名な喫茶店チェーン『スタービック』のことだけど、ロイミラテっていうのはメニューのひとつなのかな?
あそこはコーヒーのお店みたいだったし、今まで行ったことがないからわからないんだよね。
でも、こんな真面目な雰囲気の中で、奢りの話?
予想外だった答えに首を傾げていると、同じ気持ちだったのか。瑠音さんの表情が緩み、呆れ顔になる。
「そういうと思ったわ。貴女はロイミラテで。千麻はストロベリーフラペオレでいいわよね?」
「はい。私はそれで大丈夫ですが」
「やっりー! やっぱるとっちって、話がわかるー!」
好きな飲み物にありつけるから、か。
にっこにこになった沙和さんの笑顔に違和感はあるけど、これって彼女なりに瑠音さんの緊張を解そうとしたのかな?
「優汰様は何になさいますの?」
「え? ぼ、僕はいいよ。ごちそうになってばかりじゃ悪いし」
「気にしないでちょうだい。みんなにとってもいつもの事ですし、何より優汰様はまだお金に困っているのだから」
「ゔ……」
そ、それを言われると、正直ぐうの音も出ない。
バツの悪そうな顔をした僕を見て、瑠音さんがくすりと笑う。
「優汰様は本当に本心を隠さないわね。その分、私が迷惑をかけることもあるのだから。今は素直に厚意を受け取ってもらえないかしら?」
「ま、まあ。ただ……」
「あら。まだ何かございますの?」
瑠音さんの問いかけに、僕はちょっと困った顔をする。
「え、えっと。実は僕、スタビって行ったことなくって」
「マ!? スタビの飲み物めっちゃ美味しいよ?」
「そ、そうかもしれないけど。僕は紅茶やお茶が好きなんだけど、スタビは珈琲店っぽかったし。あのキラキラな空間に、一人で入るのもちょっと勇気がなくって……」
そう。僕は未だにスタビに入ったこともなければ、飲み物を飲んだこともなかった。
だから、さっきメニューの名前を聞いてもぴんとこなかったんだよね。
「確かに、一人であの中に入るのは勇気がいりますね。私も皆さんと行く時でもなければ狙って入りませんし」
顎に手を当てながら、千麻さんがそう共感してくれる。
よかった。TOP4でも当たり前ってわけじゃないんだ。
彼女の言葉にほっとしていると、沙和さんがこう言ってきた。
「言われてみればそうだよねー。じゃ、これからみんなで行ってみる?」
「え? これから?」
「そ。このマンションの三階に住人専用のスタビがあるんだよねー。流石に今日は喜世待ちだからテイクアウトにするけど、メニュー見ながら注文したほうがイメージ湧くっしょ?」
「たしかにそうね。ちなみに珈琲店ではあるけれど、紅茶やお茶を使ったメニューも色々あるわよ」
それだったら確かに困らなそうだし、みんながいれば迷った時にオススメとかも聞けそうだよね。
「じゃあ、一緒に行ってもらってもいいかな?」
「もちっ! 優くんの好き、探してこ!」
「そうね。優汰様がどのような味が好みか知れるのは楽しいもの」
「そうですね。では、行きましょうか」
「おっけー! じゃ、れっつごー!」
元気な沙和さんの号令に合わせ、僕達はそのまま一度部屋を出て、スタビに向かったんだ。
◆ ◇ ◆
あの後、僕達四人はマンション内のスタビに行き各々に注文をした。
瑠音さんはキャラメルフラペオレっていう、見た目にかなり甘そうな飲み物を注文してた。
僕は色々と迷ったけど、丁度期間限定で和紅茶フラペラテとかいうのがあったから、試しにこれを頼んでみた。
ちなみに、さすがはマンション住人専用ってだけあって、店内を見たらセレブっぽい人も結構多くて、妙に落ち着いた空間が広がっていた。
「スタビっていつもこんな感じ?」
出来上がりを待つ間にみんなにそう聞いてみたんだけど。
「流石にここまで落ち着いている店は少ないですね」
「だよねー。立地にもよるけどー、葛橋駅前のスタビは学生とか多くて賑やかだよねー」
「ですね。最近総合レクリエーション公園にスタビができましたが、こちらは家族連れも多いですしね」
と、みんながそう教えてくれた。
流石にこの空気だと一人じゃ入りにくいかなって思ったけど、そうじゃないならもう少し入りやすいかも。近くにお店があるなら、味が好みだったら通ってみてもいいかも。
そうこうしているうちに、店員さんがお持ち帰りの準備をしてくれて、僕達は再びマンションに戻ることにした。
ちなみに荷物は流石に僕にもたせてほしいってお願いしてOKをもらったんだけど。
「優くんって気遣い百点満点じゃーん。みんなもこういうとこ、好きっしょ?」
「そ、そうですね。私も、優汰様の優しい所はその、す、好きですよ」
「わ、私は、優汰様のすべてが、こ、好みですけれど」
なんて少し恥ずかしそうに言われた時には、流石に気恥ずかしくなって苦笑いをするしかなかった。
◆ ◇ ◆
部屋に戻った僕達は、窓際に設置されたて丸テーブルを囲うように置かれた五脚の椅子に腰を下ろした。
僕がストローを使って透明なカップに入っている和紅茶フラペラテを口に含む。
フラッペらしくシャーベット状の氷が一緒に口に入ってくるけど、これは甘すぎないし飲みやすい。少し暑い今日なんかには丁度いいかも。
「優くーん。味はどーお?」
テーブルに肘をかけ、興味津々といった顔でこっちを覗き込んでくる沙和さん。
「うん。凄く美味しいね。これって飲みやすいし好みかも」
「そっか! じゃーあー、これからも飲みに行こ? 期間限定のって一ヶ月くらいでなくなっちゃうしー。やっぱ定番の中で好みのあると、通いやすいしねー」
「そうだね。ちょこちょこ行って好みの物探してみるよ」
「その時は私達も誘ってくださいね」
「そーそー。あーし達も、優くんと色々楽しみたいし!」
沙和さんと千麻さんの笑顔に、僕も自然と笑顔になる。
そんな中、同じくキャラメルフラペオレを口にしていた瑠音さんが顔を上げると、真面目な顔で僕の方を見た。
「さて。それじゃ、本題に入らせてもらうわね」
本題って、一体なんだろう。
ここ数日の瑠音さんの異変。そにの理由がわかるのかな。
僕がゴクリとつばを飲み込んでいると、沙和さんと千麻さんからも笑顔が消える。
「るとっちー。そんな顔しちゃって、一体どんな話する気ー?」
「ええ。話はふたつあるわ」
「ふたつ、ですか」
「ええ。厳密には今日、話すことがひとつ増えたのだけど」
今日ひとつ増えたって、一体何だろう?
僕と沙和さん、千麻さんがまた顔を見合わせると、瑠音さんが僕の顔を見てこう言ったんだ。
「どちらも、優汰様に関わる事よ」




