第13話:真剣な彼女
あれから車に乗って移動した先は、前に一度来た瑠音さんの別宅だった。
みんなが普段着に着替えている間、僕は以前と同じように窓際に立ち、眼下に広がる街並みを眺めていた。
前来た時は夜景だった。
それはそれですごく綺麗だったけど、こうやって晴れ間に見る景色も凄く綺麗だ。
前に見えた東京スカイツリーだけじゃない。その近くに見える古いお寺は多分浅草寺で、もう少し左の方にあるのは秋葉原かだと思う。
ドローンでも使わないと見られなさそうなくらい、遠くを見渡せる景色。
こういうのって写真に収めておきたくなるけど、スマホだとちょっと物足りなく写ったり、ズームしても荒く写っちゃったりして残念な気持ちになるんだよね。
……あ。そうか。
そういう時に、あのデジカメを使えばいいのか。
今日だって持って来てたら、少しは喜世さんの凄い所を撮れたかもしれない。
まずは使い方を覚えてからだけど。今度からカメラを持ち歩いてみようかな。
「おっまたー!」
「お待たせしました」
と。僕の背後から元気な沙和さんと落ち着いた千麻さんの声がした。
そういえば、前は瑠音さんが凄いドレスアップして出てきたけど、流石にそこまでのことは……。
もしもの時の心構えをして、僕がゆっくり振り返ると──そこにいたのは、前に見た私服と同じ感じの、イメージに合った服装の二人だった。
金髪をいつものようにポニーテールにした沙和さんの服装は、キャミソールの肩紐が見えるくらい肩を大きく出し、太ももくらいまで裾のある白地に黒の英文字の文章をあしらっただぼっとしたトレーナー。
一応下はデニム生地のショートパンツっぽいけど、褐色の肌をこれだけ健康的に見せるファッションはやっぱり彼女らしさを感じる。
一方、藍色の長い髪を普段通り後ろに流した千麻さんも、ベージュのシャツに黄色と白のチェック柄の長いスカート。
同じ模様のリボンを襟に付けているけど、ほjと清楚な印象をしっかり感じさせる。
さっきまでと違い、ちゃんと普段通りの眼鏡もしているし、この方がやっぱり落ち着いてみられる。
「わー。やっぱここからの眺めってヤバいよねー」
僕の脇まで小走りでやってきた沙和さんが、キョロキョロと窓の外を眺めながら感嘆の声をあげる。
「やっぱり凄いよね。沙和さん達はよくここに来るの?」
「はい。四人で何か話をする時は、瑠音が大体ここに連れてくるんですよ」
「へー。でも、景色もいいし、みんなだけで話すのにも良さそうだね」
「うん! 夜なんてもーっとロマンチックだしー。今度優くんとも一緒に来てみたいかも!」
「そうだね。この間見た時もすごく綺麗だったし、みんなで見られたらいいよね」
「……え?」
僕の言葉を聞いて、千麻さんが不思議そうな顔をする。
あれ? 僕、変なこと言ったかな?
「優汰君は、夜ここに来たことがあるんですか?」
「え? そうだけど……」
……あ。しまった!
そこまで口にして、僕は失態に気づいた。
あの日、貴堂君の話で瑠音さんにここに連れてきてもらった話、誰にもしてなかったじゃないか!
「えーっ!? 優くんるとっちと二人っきりで夜景見たのー!? うらやまー!」
「い、いつの間に瑠音とそのような時間を!?」
ど、どうしよう!?
なんて答えればいいんだろう?
流石に貴堂君の話はできないでしょ? だ、だとしたら──。
「あら。別に、お弁当箱を受け取った流れで、食事に誘っただけよ。悪い?」
僕が困惑していると、落ち着いた瑠音さんの声が耳に届く。
声の方を見ると、赤いワンピースを着た彼女が颯爽と歩いてくるのが見えた。
「わ、悪いっていうかー。こういう場所で優くんと一緒なのがうらやまーっていうかー──」
「あら。貴女だって優汰様の家に二人っきりで一泊する気満々だったじゃない。そっちのほうが余程羨ましいと思うけれど」
「そ、それはもー終わった話じゃーん。おかげでみんなで泊まれたんだしー? なんなら二人は優くんと一緒に寝られたっしょ?」
「だったら、こちらが何しようと詮索しないでちょうだい。どうせ千麻もきっと、二人きりの時いい思いをしてるのでしょう?」
「え? あ、その……まあ……」
凄く落ち着きを払った瑠音さんの言葉に、沙和さんも千麻さんもタジタジになってる。
お陰で助かったけど、普段なら沙和さんの切り返しを聞いて瑠音さんが動揺しそうなイメージがあるんだよね。
車に乗る前に感じてた、ある意味瑠音さんらしい反応から一変。どこか真剣味のある感じは、どこか違和感を感じる。
とはいえ、なんか僕の失態のせいでみんなの空気が悪くなるのは嫌だな。
「それより、喜世さんの祝勝会ってどんな準備をするの? 僕達で料理を作ったりとか?」
車の移動中は喜世さんの活躍についての話題で終わっちゃって、結局聞けなかった祝勝会のこと。
それを尋ねてみると、瑠音さんはゆっくりと首を振った。
「あれ? 準備はしないの?」
「そこは私のお抱えのシェフに任せるから気にしないでちょうだい」
「じゃー、あーし達はそれまでどうするの?」
沙和さんが首を傾げると、瑠音さんが一度目を伏せると小さなため息を漏らす。
……この感じ、やっぱり最近の変な時と同じ気がする。
直感的にそう感じた僕の予想通り。
「悪いのだけど、少し話に付き合ってもらえないかしら?」
真剣な目をした瑠音さんが、僕達にそう言ったんだ。




