第12話:普段と違う三人
「優くーん! やっほー!」
僕の姿を見て、服装に似合わず元気に手を振ったのは、間違いなく沙和さんだと思う。
きっと彼女の左側で何も言わず両手を組んで立っているのは瑠音さんで、右側で両手を足の前で合わせ立っているのは千麻さんかな。
ただ、ぱっと見やっぱり普段の三人と違いすぎて、なんかまだピンとこない。
「こんにちは」
「ごきげんよう」
僕が車の側まで来ると、残った二人も挨拶をしてくる。
声を聞いた限り、さっき予想した通りの並び順だ。
「こんにちは。三人とも応援に来てたの?」
「うん。そうだよー」
「それより、優汰様は会場に着くのが随分遅かったのね」
「あ、うん。ちょっと電車の乗り換えに失敗しちゃったり、困ってたお婆ちゃん助けてたら時間がかかっちゃって」
「人助けをして遅れる辺り、やはり優汰君はお優しいですね」
千麻さんがくすりと小さく笑ったけど、それでちょっと気恥ずかしくって、僕はその場で頭を掻く。
「でも、この間は応援には来ないって言ってたよね」
「そうね」
「だったらどうして?」
「きっかけは、やはりあなたでしょうか」
「え? 僕?」
「はい」
千麻さんの言葉に、僕は首を傾げた。
僕がきっかけって言うけど、自分で行きたいなと思ったから行こうって思っただけなんだけど。
そんな僕に対し、沙和さんがサングラスをずらしこっちを見た。
「ちっちーから、優くんが頑張って応援に行きたいーって聞いて、思っちゃったんだよねー」
「思ったって、どんな事を?」
「私達は、確かにTOP4と呼ばれるまでに人気になってしまったわ。だけれど、それを理由に古くからの友達への応援を渋ってよいのか。そう考えたのよ」
「でも、これまでだってちゃんと喜世さん達のことを考えて自粛していたんだし、無理をしなくてもよかったんじゃない?」
「そうだとは思います。ですが、本音を言えば、私達もまた優汰君同様、友達を応援したい気持ちはあったのです」
「でさー。優くんも行くっていうならー、あーし達も頑張ろってなったわけ」
言われてみれば、みんなは僕なんかよりずっと前から友達なんだ。
そんな相手が頑張るって時に、応援したいって気持ちがあるのは確かに自然だと思うし、それを我慢してきてたのもまた負い目だったのかも。
「それで、みんなと同じような格好の人を集めたの?」
「ええ。普段と違う格好にするだけじゃなく、より多くの人に紛れれば、私達が応援に来ていると考えにくいと考えたのよ」
「そ。木を隠すなら青森ってね!」
瑠音酸の説明に沙和さんがドヤ顔で補足したけど、それって……。
「沙和。それを言うなら、木を隠すなら森の中ですわ」
……だよね。
瑠音さんが呆れながらそう口にすると、沙和さんがてへへっと舌を出す。
せっかく大人びた服装をしてても、中身が変わるわけじゃない。
ただ、そんなギャップのせいで、普段とは違う可愛さがあるけど。
「とはいえ、今回の森は流石に目立ちすぎですけどね」
「し、仕方ないじゃないの。時間も限られていたのよ。あそこまで揃えただけでも褒めてほしいくらいよ」
「そーそー。『優汰様が行かれるというのに、私達が指を加えて見ているなどありえませんわ!』なんてやる気出してたもんねー」
……え?
口に手を当てにししっと笑う沙和さんを見て、はっとした瑠音さんが慌てて僕を見る。
「い、いえ。わ、私は別に、優汰様が応援する姿を拝見したかったわけではありませんのよ! ちゃんと喜世を応援したい。そんな思いで頑張りましたのよ!」
「だけどー。優くんの応援しているところも、見たかったっしょ?」
「そ、そんなもの当たり前ですわ! あの優汰様が息を切らしながらも喜世の名を呼んだあの瞬間、ここまで準備をし応援に来た甲斐があったと強く感じましたもの!」
え、えっと、瑠音さんは結局、僕目当てだったってこと?
目をキラキラさせ熱く語った内容に、喜世さんの活躍の話題なんて皆無。
ま、まあ、最近どこか塞ぎ込んでいたし、これで普段の瑠音さんらしさを垣間見れるなら、それはそれでいいけど……。
ちょっと複雑な気持ちで瑠音さんを見ていた僕に気づき、沙和さんと千麻さんが顔を見合わせるとくすくすっと笑う。
「まー、とりあえずそろそろ移動しよ? この格好もいいけどー、やっぱこれだと動きにくいし」
「そうですね。一度どこかで着替えて、それから祝勝会の準備でもしましょう」
「え? 祝勝会?」
「ええ。そこは移動しながらお話するわ」
良かった。ちゃんと喜世さんのことも考えてくれてたんだ。
なんて言い方をすると、ちょっと酷いかもしれないけど。さっきの反応だと喜世さんがおざなりに感じたから。
「優くーん。ちなみに今のあーし達、どーよ?」
と。沙和さんがその場でくるりと一回転すると、腕を伸ばし逆さまにピースを出しながら格好をアピールしてくる。
どうかと言われたら、やっぱり……。
「大人びた感じがして、これはこれで似合ってると思うよ。髪の色が違うから違和感はあるけど」
「そういえば、ウィッグをしたままでしたね」
「そうだったわね」
ウィッグ?
ちょっと聞き慣れない言葉に首を傾げる中、三人が帽子を取ると髪の毛が一緒に外れ、その下から三者三様の見慣れた色の髪の毛が現れた。
あ、あの髪はかつらだったんだ。ってことは、ウィッグもそういう意味かな。
でも、そこまで応援のために準備したなんて凄いなぁ。
帽子を被り直した三人を見ながら感心する。
「えへへー。でもー、こーいうあーし達も良かったりする?」
やっと沙和さんらしくなった彼女が、改めて質問してくる。
勿論良かったのは間違いないし、きっと他の生徒が見たら泣いて喜びそう。
ただ、実のところはこういうことかな。
「確かにその格好も良かったし新鮮だったけど。きっとみんなは可愛いしスタイルもいいから、何を着ても似合うと思うよ」
僕が笑顔で素直にそう口にすると、三人は急に顔を赤らめるともじもじとしだす。
「も、もー。優くんってば、そういう事すぐ言うー」
「ほ、本当ですわ。実は誰にでもそういうことを仰ってるんじゃなくって?」
「え? ううん。みんな以外にこんな話をする機会なんてほぼないし」
最近あったのなんて、岩良さんを褒めた時くらい。
だけど、彼女もちゃんと可愛いし魅力的だからこそ、僕は素直な感想を口にしただけだし、今だってそれは同じ。
「そ、そうですか。それだったら、嬉しいですけど……」
「そ、そーだねー。えへへっ。やっぱ優くんのそういうとこ、好きかも」
「ま、まあ、優汰様のお言葉ですもの。素直に受け止めておきますわ」
僕の言葉を聞いて、三人がはにかんでくれる。
……うん。やっぱり、可愛いよね。
彼女達の笑顔に内心ドキッとした僕もまた、日差しの暑さとは違う熱を感じ始めていた。




