第11話:終わってみれば
ふぅ。よかった……。
あれからもう少しして。三階の観覧席から二回戦の相手、藤川女子高校との試合を見守っていた僕は、コートの上で勝利を喜ぶ喜世さん達を見ながら胸を撫でおろしていた。
どうも周囲の観客の話だと、この高校も都内で十本の指に入るくらいの高校で、去年もあと少しでインターハイに出場できるくらいだったらしいんだけど、結果だけで見れば、八王子実技相手よりも危なげない試合展開だった。
でも、実際の試合内容はより周囲の観客を驚かせるもの。
というのもこの試合、先輩をなるべく温存したっていうのもあるんだけど、喜世さんも最初の試合ほど動き回っていなかったからだ。
勿論、彼女の活躍がなかったわけじゃない。
だけど、一回戦の試合終盤でちょこちょことあった他の選手を使った攻めもそうだし、レシーブやブロックも誰かの代わりを喜世さんがするって展開をかなり減らして試合していたんだ。
ただ、それでも試合内容が危なげなかった理由は非常に単純。
それは他の選手の動きが俄然良くなっていたから。
素人目に見ても、この短期間で成長した──という言葉で片付けるにはあまりにも洗練された動きと連携。
多分でしかないけど、彼女達が練習してきた成果が出た、っていうのが正しいと思う。
もしかすると、一回戦目はやっぱり相手が相手だったのもあって気負っちゃって、本来の動きができなかったのかもしれない。
色々なことが噛み合って、強豪校を二連続で撃破した西葛橋。
でも、これで喜世さんも先輩との約束を果たせたわけだし、肩の荷も降りたんじゃないかな。
対戦校との挨拶を済ませた後、喜世さんが僕の方を見て手を振ってきた。
今回、二階席がうちの高校の応援席になっていたから、彼女の反応に下にいたファン達から「きゃーっ」ていう黄色い声があがる。そんな中に紛れて、僕も小さく手を振った。
ちなみに、喜世さんは二回戦が始まってからもちらちらと観覧席を目で追っていたんだけど、目ざとく僕を発見してた。
何となく目が合ったと思った瞬間、頬が緩んだのを見てそう察したんだけど、多分間違ってないと思う。
とはいえ勘違いしてたら恥ずかしいし、後で聞いてみようかな。
さて。今日の試合はこれでおしまい。まだお昼過ぎだし、時間には余裕がある。
バレー部はみんなで学校に戻ったりするし、僕もそろそろ行こうかな。
僕はひとり席を立ち上がると、そのまま観覧席を後にした。
なんとなく自分の高校の生徒と合うのが気まずい気がして、三階の廊下をぐるっと迂回して、反対側の観客席の方に回り込んでから下の階に降りていく。
この後どうしよう。そういえば、近くに新宿御苑っていう大きな公園があるみたいだけど、そこでも見てから帰ろうかな。
……あ。思い出した。
二階に降りた僕はふと思い出し廊下で足を止めると、スマホを手に取りイズコを立ち上げる。
あれからメッセージは増えてないけど、よくよく考えたらみんなに返事をするのを忘れてた。
あの時はメッセージを見て慌てて駆け出しちゃってたから仕方ないんだけど、何も返さなかったのは良くなかったかも。
とにかく今すぐ返事を──あれ?
そういえばあの時も思ったけど、みんなは試合を観に来てたのかな?
でも、ぱっと見た限り彼女達が観覧席にいたように見えなかったし、前に話を聞いた通り、もし来ていたら結構な人だかりができそうだよね。
そうなってたら、流石に僕も気づくだろうし。
うーん……もしかして、面条さんが動画なり撮影して、それをどこかで見てたとか? 一応観覧席から試合を撮影している人もいたから駄目ではなさそうだけど、肝心の面条さんも見た記憶はない。
まあ、こういう時は素直に聞いてみようかな?
改めてイズコを見たその瞬間、タイミングよくタイムラインに画像がアップされた。
これは……地図かな?
画像をタップしてみると、確かにこれは千駄ヶ谷駅付近の地図だ。
地図の中の一箇所──駅の北側、新宿御苑に隣接した路地みたいな所には、何かを示すピンが立っている。
『沙和:優くん、ここまで来れる?』
うーん……道としてはそこまで複雑じゃないし、駅からも近い。
これなら迷子にはならそうかな。
『うん。多分大丈夫だと思う』
『瑠音;では、そちらで落ち合いましょう』
『千麻:お待ちしておりますね』
『わかった』
と返してみたものの。未だ状況がはっきりわからないこの展開に、自然と首を傾げてしまう。
とにかく、まずは待ち合わせ場所に行ってみよう。みんなに会えば答えもわかるだろうし。
どこかすっきりしないまま、僕はそのまま一階まで降りた後、会場を後にしたんだ。
◆ ◇ ◆|
最近は晴れていると日差しもまあまあ暑くて、ちょっと額に汗が滲んでくる。
合間にある日陰を上手く使いながら、僕は道を曲がり目的の路地を進み始めた。
賑やかだった駅前と違い、人気のほとんどない道。
その先を随分行った先。曲がり角の手前に見えるのは、最近見慣れた黒い高級車。
多分あれが瑠音さんの家の車だと思うんだけど?
僕はそこに立つ三人の人影に気づいた。
お揃いの白いスーツに麦わら帽子のような形の白い帽子。
それぞれサングラスをした女性だけど……髪の色や長さが違う。沙和さんらしい金髪でも、千麻さんらしい藍色の髪でも、瑠音さんらしいピンクの髪でもない、どちらかといえば僕寄りの長い黒髪。
……そういえば。
遠くに立つ三人を見てふと思い出したんだけど、確か二回戦の時に、三階の向かい側の観覧席に、あそこに立っている服装の人達が数人一緒にいたっけ。
サングラスのままオペラグラスを持って試合を見たりしてたと思うんだけど、ただその時の人数は三人じゃなく六、七人いたような気がする。
もしかして、あれがみんなだったの?
でも、髪の毛が違うってことは、まさか今日のために染めたりしたとか?
とにかく頭に浮かんでしまう???。その答えを早く知りたくて、僕は少し早歩きで待ち合わせ場所まで歩いて行ったんだ。




