第4話:コレクション
「優汰。客間の布団はこっちに干せばいいか?」
「うん。それでお願い」
「わかった」
あれから時間も過ぎて、もう一時間もするとお昼という頃。
僕はパジャマ姿の喜世さんに手伝ってもらいながら、ベランダの手摺に布団を干していた。
空は雲一つない快晴。
風も穏やかで絶好の布団干し日和。ちなみに裏ではさっき洗濯機が丁度回り終わった音が聞こえたから、沙和さんが洗面所でハンガーに干している頃だと思う。
僕のすぐ後ろにある窓越しに聞こえるのは、リビングで掃除機をかけている音。
そっちは瑠音さんが一生懸命頑張ってくれているし、千麻さんはキッチン回りの掃除を担当してくれている。
◆ ◇ ◆
こんな賑やかな状況になるきっかけは少し前に遡る。
九時過ぎになって、やっと起きてきた沙和さんと瑠音さん。
喜世さんはあの後僕達と先に朝食を済ませていたから、沙和さん達が朝ご飯を済ませるのを待っていたんだけど。お昼過ぎには喜世さんが学校にいかないといけないし、それまでの時間に勉強を詰め込むのも可哀想ってことで、午前中はみんなでゆっくりすることに決まった……はずだったんだけど。
時間的に余裕があるからって、僕がみんなに、
──「ちょっと洗濯とかしててもいいかな? みんなはゆっくりしてくれればいいし」
なんて口にしたのが運の尽き。
──「じゃーあー、家に泊めてもらったお礼にー、みんなで家事を手伝っちゃおー!」
沙和さんのそんな提案にみんなが賛同し、どうせだったら部屋の掃除なんかもしようって話になって今に至る。
◆ ◇ ◆
「喜世さんごめんね。この後部活の手伝いなのに」
「構わねえって。家でもよく布団干してるし、準備運動にもってこいだ」
僕が自分の部屋の布団を布団ばさみで固定しながら、隣で布団を干す準備をしている喜世さんに声をかけると、彼女は普段通りの快活な笑顔を向けてきた。
喜世さんの反応って、本当に裏のない真っ直ぐな感じがあって安心するな。
僕も釣られて笑顔を見せていると。
「優くーん! いい物見せてあげよっかー?」
と、寝室側の入口から、ひょこっと沙和さんが顔を出した。
え? いい物?
「えっと、何?」
「にしし。じゃーん!」
こっちの問いかけに目を細め、意味深な笑みを浮かべた彼女が、その物を持ってパジャマのままベランダに姿を──ええええっ!?
それを見た瞬間、僕の目は彼女の口にしたいい物に目が釘付けになった。
「はっ!? お、お前、それ!」
目を丸くし言葉を失った喜世さんに臆することなく、沙和さんは笑顔のまま片手でピンチのついたハンガーに干された物を高々と掲げた。
「そっ。TOP4ランジェリーコレクションでーっす!」
確かに、そこに干されていたのは色とりどり……って言い方が正しいかわからない、みんなの下着だった。
た、確かにどうせだし彼女達の服なんかも洗濯していいかって聞かれたし、それにOKも出した。
でも、こんなに堂々と下着類を見せられるなんて思ってなくて、完全に虚を突かれた僕はどう反応すればいいかわからない。
「えっとねー、この黒いのがあーしでー、赤のネグリジェはるとっち。こっちの白いのがちっちーでー、こっちのはきよっちのだよ」
沙和さんは屈託のない笑顔で丁寧に説明してくれてるけど……こ、これって直視していい物なの?
一気に恥ずかしさがこみ上げた僕は顔を真っ赤にしたまま、ただ呆然と下着をみつめていた。
沙和さんが付けていたであろう黒の下着は、昨日の風呂上がりに洗面所で見たセクシーな感じのブラジャーとパンティ。
瑠音さんの赤のネグリジェは、レース生地っぽい薄手のワンピースみたいなのと、それと柄が合わせられたちょっとお高そうな印象のパンティなんだけど、まさかパジャマの下にあんなのを着てたなんて思わなかった。
千麻さんが着ていたらしい白のブラジャーとパンティは、デザインはやシンプルだけど、その分清楚さを感じる。
喜世さんのって言ってたグレーの下着はみんなのと生地から違う感じで、どこかスポーティーな感じに見える。
……で、でも、みんなパジャマの下に、こんな下着を着てたんだ──。
「ゆ、優汰! 何ガン見してんだよ!」
……はっ!
「ご、ごめん!」
思わずその場で二人に背を向ける。
確かに、いくらなんでもじっと見ちゃってるのはよくなかった。
喜世さんだって僕に見られるのは嫌だったろうし。
「沙和! お前もお前だ! そういうのを露骨に見せてんじゃねえって!」
「まーまー。ちなみにー、優くんはボクサーパンツだったよ?」
え? ……あ、そうだった!
洗濯をお願いしたら、僕の下着だって見られるに決まってるじゃないか!
「はっ!? マジかよ!?」
「ほらー。るとっちのネグリジェの後ろ。こんな感じ」
「……マ、マジじゃねえか……」
沙和さんの楽しげな声の後、驚きを隠せない喜世さんの声がしたけど、もしかして二人は今、僕の下着を見てるってこと!?
「あ、あの! 僕の下着なんか見てもいいことないでしょ!?」
僕が背を向けたまま二人にそう伝えたんだけど。
「ま、これでお互い様っしょ? 別に減るようなもんじゃないしー、あーしは興味あったからいいけど」
「ま、まあ、俺も兄弟のを見慣れてるからな。こ、この程度、どうってことねえよ。マジで」
そ、そうか。それならいいかな──いや、よくない!
ま、まあ、僕のを見られちゃってるのは最悪仕方ないしいいけど、みんなノを見ちゃうのは別。
なんかこのままここにいて、また下着を見ちゃうのは絶対よくない。うん。よくない。
「こ、こっちの布団干し終わったから、先に戻るね」
僕は下を向いたまま振り返ると、下着や沙和さん達の顔を見ることなく、そのまま足早に寝室の方に飛び込み。
「もー。見たいならー、もっと見ていいのにー」
沙和さんはちょっと色っぽい言い方でそんな甘い誘惑を口にしたけど、流石にそんなわけにもいかない。
もしかして、沙和さんはこうやって僕をからかって、反応を楽しみたかったのかな? だとしたら、きっと思う壺だったに違いないけど……。
正直、こういうことに全く慣れていないからこそ、正直気恥ずかしさはマックス。
だけど、このまま瑠音さんや千麻さんと顔を合わせるのも恥ずかしい。
……よし。深呼吸深呼吸。
僕は気を紛らわせるべく部屋の真ん中で大きく深呼吸をした後、その場で軽くラジオ体操の動きをいくつかして気を紛らわせようと思ったんだけど。
それでも少しの間、見せられた下着が頭にこびりついて中々離れなかった。




