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3話 御子息保坂とマドンナ天音

 『マドンナ』

 それはつまり、"嫉妬の対象"である。見ている分には良いが、やる分には最悪だ。


「保坂くんに近づくな、ブス!」

「ちょっとちやほやされてるからって調子に乗るなよ、ブス!」

「え〜っと……ブス!」


 ブスブスうるさいんだよ、新種の豚か貴様ら。あと、セリフくらい考えておけ素人が!


 さて、今はご存知の通り任務の真っ只中である。

 今回はこうだ。

【緊急要請】

 世界ID:C5813974

 必要とされる人物像:学園のマドンナ

 要件:入学してから卒業するまでに、御曹司【保坂洋輔】と結ばれる


 ちなみに、ここは所謂有名企業の御子息様とか御令嬢様ばかりの金持ちが集まるクソみたいな学園だ。

 どいつもこいつも他人を蹴落とすことしか考えていない。


 しかし、私は嫌いではない。

 そういう奴らが生き残るのだ。何事も。


 そして、保坂洋輔はかなりの男前らしい。らしいというのは、私には基準がわからないからだ。

 それでいて将来有望。まあ女共が好きそうな奴だ。


 一応私も女なのだが。



 さて、どうしたものか。保坂洋輔に近づこうとすれば、この『保坂様ファンクラブ』とやらに目をつけられ、このような仕打ちを受ける羽目になるのだ。

 私の制服はびしょびしょだ。


 ……まずいな。

 なにがまずいって、まだ私は保坂洋輔と一度も話したことがない。卒業までに何とかなるのか?


「君たち、何してるんだい?」


 お?


「保坂様……!」

「こ、これは、別に……」

「え〜っと……」


「君たちみたいな女性は『最悪』だな。消えろ」


 よくやった保坂。女達が泣きながら去っていったぞ。そして、自ら私の元に来てくれた。

 行く手間が省けてラッキーだな。褒めてやる。

「あ、あの……」


「大丈夫かい?」


 ほお、また随分と爽やかな笑顔だな。……腹黒そうだなこいつ。


「ありがとう、ございます……」

「どういたしまして。僕は保坂。天音さん、だよね? 君のことは前から知っていたよ。特待生なんだろう?」


 ここだけはマドンナでよかった。認知度が違うのだよ、認知度が。


 よし、これで第一段階は完了だ。あとはこいつに取り入って結ばれれば、それで(しま)いだ。





 ああもう!

 邪魔をするな『保坂様ファンクラブ』!

 なぜ女というものはここまで陰湿なのだろうか。

 沼地から来たのか貴様ら。


「わ、私はそんな……」

 気弱なキャラも疲れるなクソ。なぎ倒してやれよこんな泥土(でいど)みたいな奴ら。

 まあ仕方ない、そんな時はこれだ。


「助けてっ……保坂くんっ……」


 目薬を常備しておいて良かった。


 ヒーローというものはいつだってヒーローだ。だから、ここにおいては私の救世主でなくてはならない。


「天音さんっ!」


 グッドボーイ保坂。





「あのね、保坂くん。私……」

「待って。僕に言わせて」


 よしこい、保坂。お前が告白し、私がそれを受ければ任務完了だ。


 さあ、早く。ハリー、ハ……このセリフは流石にまずいな。


「僕、海外に留学することになったんだ。だから、待っていてほしい。

 帰ってきたら、君に伝えたいことがある。だから、今は何も言わないで」


「えっ?」


 変に格好つけるなクソ野郎が!




 家に帰ってすぐさまポータルに連絡を取る。

「イレギュラー発生。保坂は卒業までに帰ってこない。告白は禁止された。どうすればいい」


【ついて行け】


「……了解した」





「私、あなたと離れ離れになるなんて耐えられない! だから私も行くわ、あなたと共に!」

「天音さん……」

 こうなったらもうノリで言ってやる。

「わたし、保坂くんのことがっ……んっ!?」


 ほお、キスか。中々粋なことをする。

 でも壁に私を押し付けるな。痛いだろうが!

 ん? ああ、これが壁ドンってやつか。威圧感がハンパないな。これの何が良いのだ?


「愛してるよ、天音さん」

「ほ、保坂くん……!」


 よし、これでミッションコンプリートだ。


【任務完了を確認、直ちに帰還せよ】


 さて、消えるか。悲恋になってしまうが仕方ない。これは"そういうもの"なのだ。許せ、保坂。





 三年ぶりのポータルか。相変わらずだな。

 学園生活なんてあっという間だったな、本当に。よくその間にいろいろと詰め込めるものだ。

 私には理解できん。


 さて……ああまた前髪が目にかかりそうだな。切らねば。


 その前に、客観的詳細を見ないと。この仕事で唯一の楽しみだ。

 『世界ID』で、検索検索〜♪


【御子息保坂とマドンナ天音】

 保坂洋輔は『保坂財閥』の御曹司である。彼の通う学園は、所謂金持ち学校。将来有望な彼らの周りにはいつも取り巻きが一杯だ。彼は思った、『どいつもこいつも媚ばかり売りやがって』。入学してから、彼の人間不信に拍車がかかる一方であった。

 そう、天音に出会うまでは。

 天音はどこかの財閥の令嬢ではないというのに、可憐で、清楚で、そんな彼女に保坂は一目惚れをした。天音は学年に一人しかいない特待生で、学園唯一の庶民らしい。

 美しくて謙虚。天音は男子の心を鷲掴みしていた。マドンナとは、彼女のことである。しかし、そんな天音はやはり女子の嫉妬の対象であった。

 保坂は思った。『これは、彼女と仲良くなれる最大のチャンスだ』と。

 案の定、保坂が積極的に話しかければ、彼女は『保坂様ファンクラブ』に呼び出され、いじめを受けていた。彼はその現場に颯爽と現れ、彼女を救った。

 それがきっかけとなり、保坂と天音は彼の思惑通り仲良くなれたのである。毎日を共に過ごし、喜び、悲しみ、怒り、そしていつしか天音も保坂に恋をした。

 そんな中、保坂は父親から留学を勧められる。本当は行きたくなかったが、それは御曹司として断るわけにはいかない。将来のためならば、仕方がないことなのだ。例え、彼女と離れ離れになってしまうことになろうとも……。

 保坂が天音にそれを伝えると、彼女は焦って告白をしようとする。しかし彼はそれを遮り、そしてこう言った。『帰ってきたら僕から伝える』と。

 数日後、天音へは彼との別れに耐えられず、自らも一緒についていくという決断をする。我慢できずにまた告白をしようとする天音の唇を、保坂が塞いだ。これから二人は共に留学し、そして帰ってきた暁には、結婚をする約束までしたのであった。

 しかし、悲劇は起こってしまった。天音が姿を消したのである。忽然と。保坂はすぐさま学園に問い合わせたが、天音という人物は卒業前に退学し、連絡が取れないという。

 これは、保坂の夢物語だったのだろうか?

 はたまた、彼女の身に何かが起きたのだろうか?

 保坂の天音を探す旅が、今始まる。

 涙なしには語れない、ラブ・ストーリー。ここに誕生。




「連載打ち切り漫画か!」


 にしても、やはり保坂は腹黒かったな。読み通りだ。


 お気付きの通り、私はどの世界でも最後は必ず姿を消す。

 後のストーリーは残された者達で作られてゆくのだ。

 これが物語の冒頭となるのか、はたまた語られぬ過去となるのかはわからない。

 私はただのピンチヒッター、一種のスパイス。テコ入れとでもいうのだろうか。


 だからその後のことは知らん。精々頑張れ、保坂。


 さあ、次はどんな世界だ?

「ん? 『悪役令嬢』? 今流行りだな、確かに。大丈夫だろうか……。


 私は容赦はしないぞ」


 私は期待に胸を膨らませながら、『OK』ボタンを押下した。

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