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無実の悪役令嬢、処刑まで三十日で真犯人を捕まえます  作者: 夜華カナタ


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第二十四話 証拠能力

残り七日。積み上げた証拠に、最後の壁が立ちはだかります。

 護符と闇商人の証言を得た翌日、セドリックが、険しい表情で離宮を訪れた。


「――厄介なことになった」


「何かあったのですか」


 フィリアは、その表情から、良くない報せだと察した。


「宰相府の一部が、集めた証拠の『証拠能力』に、異議を申し立ててきた」


「証拠能力、ですか」


「闇市場での取引によって得られた品と証言は、非合法な手段で入手されたものだ、と。正式な裁きの場で、そのような証拠を採用すべきではない、という主張だ」


 フィリアの拳が、震えた。


「――それでは、せっかく手に入れた証拠が、無意味になってしまいます」


「そう簡単に、通させはしない」


 セドリックの声には、確固たる意志があった。


「だが、相手も、あらゆる手を尽くしてくる。この異議申し立てを主導しているのが、誰か分かるか」


「――もしや」


「ヴィオラ卿と、以前から親交のある、宰相府の官僚だ。以前、鑑定式の前倒しを推し進めようとした一派と、同じ人脈だ」


 部屋の空気が、重く沈んだ。


「最初から、繋がっていた、ということですか」


 フィリアの声が、掠れた。


「――全てが、一本の線で結ばれていた」


「断定はまだできない。だが、その可能性は高い」


 セドリックは、拳を握りしめた。


「宰相府の中にも、お義母様に近い人間がいる、ということですか」


「少なくとも、一人や二人ではないだろう」


 セドリックは、苦い顔をした。


「ラングドン公爵家は、この国でも屈指の名家だ。長年かけて築いた人脈は、私が思っていた以上に、根深いところまで広がっている」


「そんな中で、殿下が私に味方することは、危険ではありませんか」


 フィリアは、思わず尋ねた。セドリックの立場を思えば、当然の懸念だった。


「危険は承知の上だ」


 セドリックは、迷いなく答えた。


「王太子としての立場を守るために、目の前の不正を見過ごすようでは――そもそも、王になる資格がない」


 ◇


「――対抗策は」


 マルクスが、静かに口を開いた。


「証拠の入手経路そのものは、確かに正規の手続きを経ていません。ですが、王家直属監査官である私が、正式な捜査の一環として認可した行動です。この点を、強く主張します」


「その主張が、通る見込みは」


「五分五分、というところでしょう」


 マルクスは、正直に答えた。


「宰相府の力は、決して小さくありません。ですが、王太子殿下が、公式に支持を表明してくだされば、状況は変わります」


「マルクス様ご自身にも、責任が及ぶのではありませんか」


 フィリアは、彼を見て尋ねた。


「独断で調査を認可したとなれば、あなたの立場も危うくなります」


「――構いません」


 マルクスは、僅かに間を置いてから答えた。


「私は、公正であることを、自分の役目としてきました。証拠を握り潰す側に立つくらいなら、この職を失う方が、まだましです」


 その言葉には、これまでにない強さがあった。フィリアは、彼の中にある、揺るがない一線を、初めて見た気がした。


 セドリックは、頷いた。


「私が、正式に、この証拠の正当性を保証する。王太子としての名において」


「――殿下」


「これ以上、迷わない、と言っただろう」


 セドリックは、フィリアを見た。


「お前が、これだけの証拠を、命懸けで集めてきた。それを、手続き論で握り潰させはしない」


 フィリアは、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


 ◇


 夜、フィリアはカインと共に、窓辺に立った。カインの腕には、まだ包帯が巻かれている。


「――どこまでも、しぶとい相手だ」


 カインが、低く言った。


「証拠を消し、証言者を排除し、それも駄目なら、手続きで潰そうとする」


「それだけ、追い詰められているということです」


 フィリアは、静かに言った。


「本当に潔白な人間なら、こんな手を使う必要はありません。あの手この手で証拠そのものを封じようとするのは――やましいことがある証拠です」


「そうだな」


 カインは、頷いた。


「あとは、鑑定式当日、この証拠能力の議論に、決着をつけるだけだ」


「殿下と、マルクス様が、力を尽くしてくださっています。私たちにできることは」


 フィリアは、拳を握りしめた。


「これまで集めた証拠を、鑑定式の場で、一片の隙もなく提示できるよう、準備しておくことです」


 カインは、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「殿下も、マルクス殿も、自分の立場を賭けて動いてくれている。皆、あんた一人のために、それだけの危険を背負っている」


「――分かっています」


 フィリアの声が、僅かに震えた。


「だからこそ、絶対に、無駄にはできません」


「無駄にはならない」


 カインは、フィリアの肩に、そっと手を置いた。


「あんたは、この三十日近く、一度も諦めなかった。断罪された夜、探偵にでもなってやると啖呵を切ったあんたを、俺は、ずっと見てきた」


 フィリアは、その言葉に、目頭が熱くなるのを感じた。


「――こんな時に、そんなことを言わないでください」


「本当のことだ」


 カインは、静かに続けた。


「これだけの人間が動いているのは、あんたが、それだけのものを、周りに示してきたからだ」


 窓の外で、月が静かに輝いていた。


「残り、七日」


 フィリアは、静かに呟いた。


(ここまで来た。あと少し)


(何があっても、真実に辿り着く)


「一つだけ、聞いてもいいか」


 カインが、不意に尋ねた。


「もし、証拠能力の異議が通ってしまったら――あんたは、どうするつもりだ」


 フィリアは、しばらく黙り込んだ後、静かに答えた。


「その時は、証拠ではなく、言葉で戦います。鑑定式の場で、私自身の口から、全てを語ります。誰にも遮らせずに」


 その声には、恐怖ではなく、静かな覚悟だけがあった。

第二十四話「証拠能力」をお読みいただき、ありがとうございます。


証拠を集めるだけでは終わらない、「その証拠を、いかにして正式な場で通用させるか」という、政治的な壁を描いた回にしました。証拠を消す、証言者を排除する、それでも駄目なら手続き論で潰す――犯人側の手口が、追い詰められるほど過激になっていく様子を意識しています。


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