↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無実の悪役令嬢、処刑まで三十日で真犯人を捕まえます  作者: 夜華カナタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/30

第二十三話 国境の町にて

残り八日。カインが、危険な取引の場に足を踏み入れます。

 国境近くの町は、王都とはまるで違う空気を纏っていた。


 人の往来は多いが、どこか猥雑で、法の目が届きにくい雰囲気が漂っている。カインは、近衛の身分を隠し、旅の商人という体で、闇市場の噂を頼りに、目当ての店を探し歩いた。


 最初のうちは、成果らしい成果もなく時間だけが過ぎた。声をかけた相手の大半は、探りを入れただけで口を閉ざした。護符が本当にこの町にあるのか、確証すらない中での賭けだった。


 日が暮れかけた頃、ようやく、それらしき場所に辿り着いた。表通りからは見えない、路地裏の古びた酒場。その奥に、目的の商人がいるという。


「――珍しい客だな」


 薄暗い部屋の奥、フードを目深に被った男が、カインを値踏みするように見た。


「効き目の強い、精神系の魔道具を探している」


 カインは、事前に用意していた偽の依頼を、淡々と口にした。


「借金取りから、逃げたい。証言を、都合よく歪めさせたい――そういう品だ」


 商人は、しばらく沈黙した後、口の端を歪めた。


「――高くつくぞ」


「金なら、ある」


 カインは、懐から金貨の入った袋を取り出した。事前に、マルクスが用意した資金だった。


 商人は、その重みを確かめてから、奥の棚から一つの小箱を取り出した。


「共鳴を乱す護符だ。使い方は、簡単だ。身につけているだけで、魔法による真偽判定の精度を、大きく落とせる」


 カインの胸が、大きく跳ねた。


(――これだ)


「――この品、最近、他にも売ったことがあるか」


 カインは、慎重に切り出した。


「守秘義務というものがあってな」


 商人は、笑った。


「だが、そうだな。似たような品を、一月ほど前、貴族らしい身なりの使いに売ったことはある。詳しいことは、話せないが」


「その使いの特徴は」


 商人は、突然、疑わしそうにカインを見た。


「――お前、何を探ってる」


 空気が、一瞬にして張り詰めた。


 カインは、内心の緊張を押し殺しながら、平静を装った。


「同業者の噂を集めているだけだ。同じ品を、他の誰かに先に使われて、効果が薄れているなら困る」


「――そういうことか」


 商人は、僅かに警戒を緩めたが、それでも完全には消えなかった。


「その使いは、左手に、何か布を巻いていなかったか」


 カインは、記憶に賭けて、鎌をかけた。


 商人の目が、僅かに見開かれた。


「――よく知っているな。確かに、そんな男だった。痩せ型で、指が異様に長い」


(ルカだ。間違いない)


 カインの背筋に、確信が走った。だが、それを表には出さず、平然とした顔を保った。


 ◇


 その時だった。店の外で、複数の足音が響いた。


「――踏み込みだ!」


 商人が、鋭く叫んだ。


「お前、まさか、裏切ったのか!」


「違う!」


 カインは、咄嗟に否定したが、商人は既に剣を抜いていた。


(マルクス殿が、裏で正規の捜査部隊を動かしていたのか)


 カインの脳裏に、瞬時にその可能性が過った。詳細は知らされていなかったが、有り得ないことではない。


 商人の一撃を、カインは辛うじて剣で受け止めた。鋭い痛みが、腕に走る。浅く、切られたようだった。


「――くそ!」


 商人は、混乱に乗じて、裏口から逃げ出そうとした。カインは、その動きを読み、素早く追いすがる。


 路地裏での短い攻防の末、カインは、商人を取り押さえることに成功した。踏み込んできたのは、マルクスが手配した、王家の捜査部隊だった。


「――カイン殿、無事ですか」


 部隊を率いていたのは、マルクス本人だった。


「怪我をしているようですが」


「かすり傷だ」


 カインは、腕を押さえながら、荒く息を吐いた。


「――護符と、証言は」


「確保しました。商人本人も、身柄を拘束します」


 マルクスは、静かに頷いた。


「あなたが、囮になって商人を引き寄せてくれたおかげです」


「もう一つ、収穫がある」


 カインは、腕の痛みを堪えながら言った。


「護符を売った使いの特徴を、聞き出した。左手に布を巻いた、痩せ型の男。――ルカで、間違いない」


 マルクスの表情が、初めて大きく動いた。


「――これで、護符の入手経路と、ルカの人物像、両方が確定します」


 カインは、深く息を吐いた。


(これで――決定的な証拠が、揃った)


 ◇


 その足で離宮に戻ったカインを、フィリアは涙を堪えながら迎えた。


「――怪我をしたと聞きました」


「かすり傷だ、たいしたことはない」


 カインは、包帯の巻かれた腕を見せながら言った。


「それより、成果があった。護符と、商人の証言、両方を確保した。それに、ルカの人物像も、また一つ裏付けが取れた」


「――ありがとうございます」


 フィリアの声が、震えた。


「無事に、帰ってきてくれて」


「約束しただろう」


 カインは、静かに微笑んだ。フィリアは、その笑顔を見て、これまで張り詰めていたものが、一気に緩むのを感じた。思わず、彼の腕に触れそうになって、慌てて手を引っ込める。


「――痛みますか」


「これぐらい、なんてことはない」


 カインは、そう言ってから、フィリアの様子に気づいたのか、少し表情を和らげた。


「そんな顔をするな。ちゃんと、帰ってきただろう」


「――ええ」


 フィリアは、小さく笑った。


「残り、八日」


 カインが、静かに言った。


「証拠は、揃った。あとは、鑑定式当日、これを全て公にする」


「本当に、これで終わらせられるでしょうか」


 フィリアは、思わず本音を漏らした。


「終わらせる」


 カインは、迷いなく答えた。


「あんたが、ここまで諦めずに来たんだ。俺たちも、最後まで付き合う」


 フィリアは、深く頷いた。窓の外、夕焼けが、離宮を茜色に染めていた。決着の日が、確実に近づいていた。

第二十三話「国境の町にて」をお読みいただき、ありがとうございます。


 カインが危険を冒して手に入れた護符と証言が、いよいよクライマックスに向けての最後のピースになります。彼の無事を願うフィリアの想いも、丁寧に描きたかった場面です。残り八日、いよいよ物語は最終局面へ向かいます。


 面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価でも応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。