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無実の悪役令嬢、処刑まで三十日で真犯人を捕まえます  作者: 夜華カナタ


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第十二話 元同僚の証言

残り十九日。カインが、旧友を訪ねます。

 翌朝、カインはマルクスに事情を説明し、王都の外れにある近衛の詰所へ向かう許可を得た。


「元同僚に、旧交を温めに行くだけだ、とは言わせません」


 マルクスは、書類に目を通しながら言った。


「今回は、正式な聞き込みとして扱います。私も同行します」


「――邪魔になるかもしれないぞ」


 カインが、珍しく苦い顔をした。


「昔の同僚が相手だ。監査官が横にいたら、口が重くなる人間もいる」


「では、離れた場所で待機します。あなたが話を聞き出せなければ、正式な手続きで召喚することも考えます」


 結局、その形で折り合いがついた。


 ◇


 詰所の裏手、訓練場の隅で、カインは目当ての男を見つけた。


「――トマス」


「カイン?珍しいな、お前がここに来るなんて」


 トマスと呼ばれた男は、剣の手入れをしていた手を止め、驚いたように顔を上げた。がっしりとした体格の、人懐こそうな笑みを浮かべる男だった。


「離宮勤めになってから、顔を出さなくなったと思ったら――何かあったのか」


「一つ、聞きたいことがある」


「相変わらず、単刀直入だな。何だ」


「灰色がかった銀髪の男を知らないか。昔、訓練で一緒だったことがある奴だ」


 トマスの表情が、僅かに強張った。


「――ルカのことか」


「本人を知っているのか」


「知っているというか……昔、同じ隊にいた。だが、二年ほど前に近衛を辞めてる」


 トマスは、声を落とした。


「辞めた後、どこかの貴族家に仕えるようになったと聞いた。詳しいことは分からないが、羽振りは良さそうだった。街で偶然見かけた時、いい身なりをしていたからな」


「その貴族家の名前は」


「――そこまでは、聞いていない」


 トマスは、視線を逸らした。カインは、その仕草を見逃さなかった。


「トマス。何か知っているな」


「……お前、何を調べてる」


「言えない。だが、重要なことだ」


 トマスは、しばらく黙っていたが、やがて周囲を見回して、声を潜めた。


「一度だけ、街で偶然会った時に聞いた話がある。今の主人のところでは、『表に出せない仕事』をしていると、笑いながら言っていた」


「表に出せない仕事、とは」


「使いっ走りだよ。物を運んだり、人に会いに行ったり――口が堅いことが、重宝されているようだった」


 カインの背筋に、緊張が走った。


「その主人が、誰の家か。本当に、心当たりは無いのか」


「――一つだけ、覚えていることがある」


 トマスは、周囲をもう一度確かめてから続けた。


「その時、ルカが着けていた外套に、紋章の刺繍があった。薔薇と、剣を組み合わせたような意匠だった」


 カインの脳裏に、記憶が閃いた。


(薔薇と剣――)


(ラングドン公爵家の紋章の、意匠の一部だ)


 完全に一致するわけではない。だが、酷似していた。


「――確かか」


「一瞬見ただけだから、断言はできない。だが、印象には残っている」


 カインは、深く息を吐いた。


「その外套は、仕立ての良いものだったか。それとも、使い古した安物か」


「悪くない仕立てだった。仕える先で、それなりに信用されているんだろうと思った覚えがある」


 カインは、その言葉を頭に刻んだ。単なる下働きではなく、ある程度の裁量を任された立場――それが、この事件の実行役としての「ルカ」の輪郭を、少しずつ形にしていく。


「助かった。この話は、誰にも話さないでくれ」


「お前がそう言うなら」


 トマスは、少し心配そうにカインを見た。


「危ないことに首を突っ込んでるんじゃないだろうな」


「――さあ、な」


「昔から、お前はそうだ。危ないことほど、一人で抱え込む」


 トマスは、剣を鞘に納めながら、ふと真顔になった。


「離宮の一件、噂には聞いてる。フィリア様の警護に付いてるんだろう。……お前が守るって決めたなら、それでいいんだろうな」


 カインは、一瞬だけ言葉に詰まった。


「――守る、というのとは、少し違う」


「違わないだろう、その顔は」


 トマスは、笑って肩を叩いた。カインは、それには答えず、詰所を後にした。


 ◇


「――ラングドン家の紋章に、似ていた」


 報告を聞いたフィリアの声は、震えていた。


「完全に一致するわけじゃない。だが」


「でも、無視できる話ではありません」


 フィリアは、拳を握りしめた。


 マルクスは、腕を組んで沈黙していたが、やがて口を開いた。


「――正直に申し上げます。私も、そろそろ疑いの目を、あなたの家の内側に向けるべきだと考え始めていました」


「マルクス様も」


「証拠が積み重なっています。工房への内々の注文、金袋の紋章、そして今回の証言。全てが、同じ方向を指し示している」


 フィリアは、深く息を吸った。


(父。異母弟。そして――継母)


 考えたくない可能性が、少しずつ、輪郭を持ち始めていた。


「屋敷の中で、誰が信用でき、誰ができないのか――これから先は、その線引きも必要になります」


 マルクスは、そう言って、フィリアを見た。


「難しい注文だとは、分かっています。それでも、あなた自身の目で、見極めなければならない場面が来るでしょう」


「――覚悟しています」


 フィリアは、静かに答えた。


「残り、十九日」


 カインが、静かに言った。


「家の中を、調べる必要がある」


「――ええ」


 フィリアは、頷いた。だが、その声には、これまでにない重さがあった。


(家族を疑うということが、こんなにも、心を締め付けるものだとは)


「一つだけ、聞いてもいいですか」


 フィリアは、カインを見た。


「もし――本当に、身内の誰かが黒幕だったら。私は、その人を、どう裁けばいいのでしょう」


 カインは、すぐには答えなかった。


「今、答えを出す必要はない。その時が来たら、一緒に考える」


「一緒に、ですか」


「ああ」


 カインは、短く頷いた。


「あんた一人に、背負わせはしない」


 フィリアは、その言葉に、小さく息を呑んだ。

第十二話「元同僚の証言」をお読みいただき、ありがとうございます。


「ルカ」の手がかりが、ついにラングドン家の紋章に酷似する意匠と繋がりました。まだ確定ではありませんが、フィリア自身が「家族を疑う」という重い局面に差し掛かってきています。次回以降、いよいよ家の内側への調査が本格化します。


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