第二話 帰らない墓
村人達の後を追い。
徳蔵は墓地へ向かった。
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日はほとんど沈みかけている。
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西の空だけが赤い。
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まるで血の色だった。
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墓地は村外れの小高い丘にある。
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普段なら静かな場所。
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だが今は違った。
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人々が集まり。
怒号と悲鳴が飛び交っている。
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「嘘だろ……」
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「またか……」
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「三度目だぞ……」
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誰もが青ざめていた。
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徳蔵が近づくと。
村人達は道を開けた。
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「侍様」
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「見てください」
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そこには。
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三つの墓穴があった。
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掘り返された形跡はない。
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土も荒れていない。
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棺も壊されていない。
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だが。
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中身だけが消えていた。
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徳蔵は膝をつく。
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棺を調べる。
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外傷なし。
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こじ開けられた跡もない。
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獣の仕業でもない。
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人間の仕業でもない。
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棺の蓋は内側から押されたように少しずれていた。
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その瞬間。
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徳蔵の背筋を冷たいものが走る。
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「まさか……」
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父の日記。
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庄吉の記録の一文。
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> 死者ではない
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> だが生者でもない
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徳蔵はその意味を理解できなかった。
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だが今。
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少しだけ分かる気がした。
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村長が近づいてくる。
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五十を過ぎた男だった。
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顔には疲労が刻まれている。
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「侍様」
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「もう六人目です」
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「六人?」
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「今年に入って」
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「墓から消えた者が六人」
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徳蔵は驚く。
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飢饉による死者ではない。
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死後に消えているのだ。
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村長はさらに続ける。
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「最初は墓荒らしと思いました」
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「ですが違いました」
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「何が違う」
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村長は唇を震わせた。
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「戻ってきたんです」
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沈黙。
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周囲の空気が凍る。
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誰も口を開かない。
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その言葉を聞くだけで怖いのだ。
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徳蔵は冷静に尋ねる。
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「戻ってきた者は今どこにいる」
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村長は首を横に振った。
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「消えました」
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「消えた?」
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「はい」
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「三日ほど村を歩き回り」
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「突然消えるんです」
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徳蔵の理解を超えていた。
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死人が帰る。
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そしてまた消える。
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そんな話があるだろうか。
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その時。
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人混みの奥から声が聞こえた。
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「見たんだ」
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若い男だった。
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顔色が悪い。
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「何を見た」
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徳蔵が尋ねる。
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男は震えながら答えた。
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「兄貴を」
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「死んだ兄貴を」
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周囲がざわつく。
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「夜中だった」
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「家の前に立ってた」
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男の呼吸が荒くなる。
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「兄貴だった」
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「顔も声も兄貴だった」
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徳蔵は黙って聞く。
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男はさらに続ける。
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「でも」
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「何かがおかしかった」
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「何が」
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男は目を見開いた。
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「兄貴は」
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「母親の顔を見ても分からなかった」
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徳蔵は息を止める。
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老婆と同じだ。
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記憶。
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何かが欠けている。
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その時。
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空が暗くなった。
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夜だった。
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村人達の顔に恐怖が走る。
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まるで合図のように。
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皆が帰り始めた。
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「帰れ!」
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「夜になるぞ!」
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「早く!」
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徳蔵は不思議に思う。
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何故ここまで怯える。
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すると村長が言った。
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「侍様」
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「夜は出歩かないでください」
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「何故だ」
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村長は答えなかった。
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代わりに。
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墓地の奥を指差した。
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徳蔵はそちらを見る。
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何もない。
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いや。
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違う。
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闇の中に。
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誰か立っている。
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人影。
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遠すぎて顔は見えない。
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だが確実にこちらを見ている。
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徳蔵は目を細めた。
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村人達は震えている。
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「あれは誰だ」
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誰も答えない。
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ただ恐怖だけがあった。
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その時。
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影が一歩前へ出た。
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月明かりが顔を照らす。
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徳蔵の表情が固まる。
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死人だった。
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数日前に埋葬された男。
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村長から話を聞いていた。
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間違いない。
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だが。
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男は普通に立っている。
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腐敗もない。
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傷もない。
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生きている人間そのものだった。
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しかし。
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その目だけが違った。
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虚ろだった。
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何も映していない。
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男はゆっくりと口を開く。
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「……」
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声にならない。
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何かを言おうとしている。
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そして。
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次の瞬間。
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男の顔が歪んだ。
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苦しそうに。
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まるで思い出そうとしているように。
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「わ……」
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徳蔵は耳を澄ませる。
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「わた……」
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言葉が続かない。
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頭を抱える。
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苦しみ始める。
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そして突然。
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絶叫した。
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「思い出せないッ!!」
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村中に響く叫び。
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村人達が悲鳴を上げる。
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徳蔵は刀に手を掛けた。
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だが抜かなかった。
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敵意がない。
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男は苦しんでいる。
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それが分かった。
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「私は誰だ!!」
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「誰なんだ!!」
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男は叫ぶ。
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涙を流しながら。
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「何故思い出せない!!」
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その姿は恐ろしい。
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だが同時に。
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哀れだった。
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その時。
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男の背後の闇が揺れた。
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徳蔵は気付く。
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誰かいる。
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もう一人。
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いや。
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二人。
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三人。
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四人。
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闇の中に。
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複数の人影が立っている。
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全員。
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死人だった。
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墓から消えた者達。
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彼らが。
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こちらを見ていた。
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まるで。
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何かに導かれるように。
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そして。
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そのさらに奥。
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山の方角。
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亀の瀬の奥地。
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父が命を落とした場所。
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そこから。
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何かが呼んでいるような気がした。
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徳蔵は直感する。
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これは始まりだ。
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父が追った怪異は終わっていない。
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むしろ。
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十年前より大きくなっている。
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そして。
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その夜。
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徳蔵は初めて知ることになる。
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死人達が向かう先を。
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第二章 第二話
「帰らない墓」 終
第三話「死人の行列」へ続く。




