18、窮余の一策なんてものはそうそう転がっていたりはしない
やっとアクション回が書けました!
ブックマーク&評価、ありがとうございます!
「さて、それじゃあ戦闘開始といこうか。先に降伏した方が敗けだ」
もの凄く様になるクラッキングをしつつ、同じく様になる怖い笑顔を浮かべたロイがこちらに近寄ってくる。
そして、一切の予備動作無しに、私の頭を横向きにはたいた。
「……ぐっ!」
板の間に全身を打ち付け、一瞬意識が飛ぶ。何とか起き上がろうともがくも、苦労の甲斐なく右足首を掴まれて振り回され、壁に激突する。
そのまま無様に壁を滑り落ち、うつ伏せ状態で上から襟を掴まれて一瞬だけ首がしまる。直後、浮遊感が全身を襲い、落下している、と気付いた時には背中から部屋の真ん中の床に叩きつけられていた。間髪入れずに私の胴体の上に跨がる形でロイにマウントを取られる。そのまま首を絞められ、顔が、殊に目の奥が強く熱を帯びて行く。
首の骨は折らず、しかし確実に血流を止める程度に加減された力。
これは死ぬ。その未来しか見えない。
既に散々痛め付けられて職務放棄をした身体にはいくら司令を出しても言うことを聞いて貰えない。
走馬灯、であるのだろう「かなで」と「クラウス」の二人分の記憶が次々に浮かんでは消えていく。
はあ、前世の時はこんなことなかったのにな。やっぱりじわじわ殺されるのと一瞬で死ぬのとでは訳が違うようだ。
原因は完全に謎なのだが、周りの様子が文字通り手に取るように頭に投影される。
ロイを挟んだ向こう側……我々の真上に当たる天井には壊れかけたシャンデリア。
私の足側の壁には先ほど潜った扉があって。
その右側に、先導してくれた覆面男と屑親父が立っている。
廃屋の外にはいつ戦闘が始まってもおかしくないように身構えた騎士達。
路地をいくつか抜けた先の大通りの人々。
何でこんなものが《見える》のだろう。
ただ《見える》だけでは意味がないのに。
例えばあのシャンデリアが落ちて来れば、ロイの自由を奪うことができるかもしれない。
でもそうなれば彼に押さえつけられている私も無事ではすまないだろう。
何か、彼の意識を反らす方法は無いだろうか。
例えば、片目を潰すとか。
そう思ったその瞬間、目の奥に閃光が走り。
霞んで、ほとんど使い物にならなくなった網膜に、目の前の男の左目に赤紫色の光が走るのが映り。
「ぐあああぁぁぁぁぁァッ!」
直後、ロイが鼓膜が破けそうな程の叫びを上げ、仰け反った。左目を押さえる両手の隙間から、赤い血が流れ落ちる。
その隙に脱力した身体を叱咤して床を転がり、ロイの体の下から逃れる。
これで何とかシャンデリアが落ちたときの危険区域から抜け出せた。
ここでシャンデリアが落ちたら最高なのに。
「ガシャンッ」
間を置かずに墜落するシャンデリア。上を見ると天井に固定していた紐らしきものがぶらぶらと揺れている。
え?何、これ。
こうなったらいいのにな、と願ったことが、本当に起きた。
マジで何なんだこれ。
超能力? それとも魔法? いや、奇跡の類いか?
……まさか偶然は無いだろう。
何なの? 結構怖いんだけど?
「ヴ、ぁ、貴様、何、を、」
っと、危ない危ない。シャンデリアの下敷きになってたロイに腕を掴まれそうになっていた。
慌てて体を起こして尻餅の体制のままずり下がる。
でも、このままではシャンデリアをどかしてこちらに彼が来てしまうかもしれない。とどめを刺した方がいいだろう。
まずは、確実に動きを封じるべき。天井を落とすとか?
「ガラガラッ」
「グアァァァァッ」
あ、天井崩落した。しかも綺麗にロイの上の部分だけ。何この能力めっちゃ便利やん。よし、これでもう動けないかな?
あとは……ああ丁度いいところに程よく割れた木切れが落ちてきた。まだめまいがして立ち上がるのはできないが、ぺたんと座ったまま上半身を起こす程度ならば十分。
諸々の重さで潰れかけているロイに尖っている方の切っ先を向け、血の味がする唇を開く。
「降伏しますか? それとも眼球ごと脳味噌を貫かれる痛みを味わいますか?」
「ヴ、がァッ」
何て言ってるんだろう。
「……痛みで声がでないのなら行動で示して下さい。降伏するならば一切の動きを止める。まだ抗う気があるのなら何らかの動作をしてくださいますか?」
どさり、と加重物から逃れようとしていた四肢が床に投げ出されるのを確認し、構えていた木切れを放り出す。
「……降伏、ですか。これで勝者は私ですね。エルナ嬢、でしたっけ? の解放をお願いします」
顔を上げ、そう口にすると、戸口に立っていた覆面男は無言で部屋から出ていき、すぐに一人の女性を連れて表れた。屑親父の顔からして、彼女がその「エルナ」で間違いなさそうだ。
「ハイル! 何で、ここに」
「ロイからは何も聞いていないのか?」
「……ええ。今朝何も知らされずにここに連れて来られたの。まさか貴方がいるだなんて。ねえ、何があったの?」
「やっとロイから君を解放する事ができたんだ。さあ一緒に帰ろう」
「本当に? ありがとう、ハイル! 愛しているわ!」
おーい、エルナさん、そいつなーんにもやってませんよ? ロイにぼこぼこにされたのもそのロイを返り討ちにしたのも全部私ですよ?
……何が悲しくて目の前で父親(特に何もしてない)とその愛人(そもそもの元凶)が繰り広げる茶番を観賞しなきゃならんのか。
そもそも(元)女の勘で分かるが、エルナは屑親父を愛している訳じゃない。その証拠に嬉しい、嬉しいと喜ぶばかりで一向に交換条件の話題や怪我の心配などに移ろうとしないし、屑親父に抱きついて自分の顔が屑親父から見えなくなった瞬間、にやりとどす黒い笑みを浮かべている。
こんなやつらの為に私はこんなぼろぼろになったのか。さっきの周りが《見える》能力はどうやら自身の身体にも適用可能なようで、それによると肋骨は二本は折れててさらに三本ヒビがはいっているし、左手首が挫けてて右の二の腕と脛の骨もポッキリ行っている。骨関係で一番酷そうなのは左足で、折れた骨のせいで神経を損傷している。これ、障害とか残らないよね?
はぁ、早く帰りたい。
……そんな事を考えつつ、私の意識はゆっくりと混濁していった。




