11、転生チートは素晴らしいが、年齢ばかりはどうにもならない
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今回は主人公視点です。
どうもクラウスです。自分の前世を自覚してから1ヶ月が経ちました。
という事で、取り敢えず一言言わせてほしい。
この世界は素晴らしい。本っ当に素晴らしい。
未来の事を考えると相も変わらずお先真っ暗だし、ほぼ毎日素知らぬ顔をしてあの屑親父と顔を突き合わせなければいけないし、日本食が懐かし過ぎてホームシックになりそうではあるけれど、ここにはそれを凌ぐ宝箱がある。
すなわち、図書室である。
絶対量が多いが為に相対的にたくさんになる小説。一応は常識を仕入れる為とはいえ、流石は乙女ゲーの世界と言える、美しい地理資料集。そして最たるものが、歴史書だ。
時期や場所、戦の性質等、本当に様々なものがあり、長さや内容の豊富さは心の底から称賛に値する。どれも興味深く、面白いため、ハズレというものが一つとしてない。
流石はファンタジー。乙女ゲー特有のご都合主義だが、こんなご都合には感謝が尽きそうにない。
今日も今日とて、どうしても続きが気になる本を取りに、気がついたら図書館に足が向いていた。図書館に続く廊下で、はっと正気に戻ったのはご愛嬌の範疇だろうか。
普通ならばこんな時間帯に二歳児が屋敷の中とはいえ出歩くは非常識以外の何物でもないだろう。
しかし、私は皇太子だ。しかも、駄々をこねると暴走するという前科をついこの間まで量産していた人間である。
だから、護衛の騎士も、こっそり後をつけるくらいしかしていないようだ。
……前世で二回くらいストーカーにあったことがあるから、ついてくる系の気配には敏感なのだ。
まあ、ついてくるのが騎士さんなら安心だけど。
さてさてそろそろ着く頃だ。
私に与えられた部屋と図書館がもう少し近ければと思わずにはいられない。二歳児の身体では、皇宮の広大さは苛立ちの原因以外の何物にもなりえない。
「これはハラルド殿、夜警お疲れ様です」
図書館の前に立つ、顔馴染みの騎士に挨拶する。立場自体はこちらの方が上だが、武力その他は桁が違うレベルだろう。味方がいるに越したことはない。母上の件もあるし、何より屑親父に何をされるかわからない今、近衛騎士の人望は欲しくてならない物なのである。
ハラルドは鮮やかな赤毛と深緑の目というクリスマスカラーの色彩を持っており、かなり印象に残る見た目をしている。
「僭越ながら、そろそろお休みになられた方がよろしいかと」
おまけに私のような子供の話にもちゃんと応じてくれるという好青年。ユーモアのセンスも持ち合わせるイケメンだ。
「ええ、わかってはいるのですが」
この応酬も、お決まりの文句のようなものである。
「また、続編をお探しに?」
「はい。これの続きが気になってしまって…」
読み終わり、持参した本を掲げて見せる。
今読んでいるのは「ジュエリー帝国戦争史」の俗に旧版と呼ばれる書物である。すっごい読みごたえがある長編で、しかも中身が濃くて臨場感があって、表現技法が飽きが来なくって、さらに歴史の勉強にもなって…。他にも挙げればキリがないほど好みドストライクである。
先に新版の方を読んだのだが、そちらはこれの簡易版といった風情で、面白さは段違いにこちらの方が上だ。
一度だけ、ハラルドにも薦めた事があるが、「難しすぎますので」と辞退されてしまった。なんでもこの旧版は、「古代語」とやらで書かれているらしい。
……通常使われるらしい「標準語」と同じく見ただけで頭に入ってくるから気付けなかったよ。
転生チート、恐るべし。
図書館に入り、本を新しい物と交換する。次の刊が一番上の棚に入っていたので困っていると、無言でハラルドが取ってくれた。あー、イケメンだ。原作のクラウスよりイケメンだ。おい製作班、何でクラウスをこんな感じのイケメン設定にしてくれなかったんだよ!
「それでは、引き続き夜勤、頑張って下さい」
「お休みなさいませ」
ハラルドと別れ、部屋に帰る。早く戻って続きが読みたくて仕方がない。
………結局部屋に帰って読もうとはしたものの、一冊目の最後辺りで寝落ちしてしまった。
子供って、体力ないんだなぁ…。
「おはようございます。殿下、朝ですよ」
ぼんやりとしているうちに、ジュリアがてきぱきと着替えさせてくれる。そして着替えが終わると、目覚まし用のティータイムだ。
「今日は新しいレディ・グレイがありますが、如何いたしますか?」
「じゃあそれでお願いします」
ジュリアが淹れてくれる紅茶は芸術品と言ってもいい程、他の者が淹れたそれとは薫りにも味にも差がある。
「ねえジュリア、これ、母上の所にも行ってるかな?」
「いえ、これは今朝方皇宮に持ち込まれた物で、それもこっそり、顔見知りの料理人から直接渡されたので、ここにあるだけになりますが」
味見用に送られた物があまりにも素晴らしかったので、早く私に試してほしいと特別にくれたのだという。
「これだけあれば、あと二人分は淹れられますか?」
「はい。十分だと思います。皇后陛下への贈り物に?」
「では、ラッピングを御願いしても?」
「畏まりました」
朝食まではまだ時間がある。用意ができたという呼び出しまで、昨夜の続きを読もうと本を開いたところで。
「殿下、失礼します」
「どうぞ」
ノックの音と共に、私の読書タイムは終わりを告げた。




