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JKなのに乙女ゲーの皇子様に転生しました  作者: 涼瑚
第一章、転生先の環境改善
10/20

10、深夜のドタバタの中で、近衛兵は皇帝と皇太子を比較する

ブックマーク&評価、ありがとうございます!


今回は新キャラ目線です。


若干改稿しました。

 夜勤というものは苦手だ。

 昼間の出仕に比べ、侵入者ーまあ滅多にいないがーの可能性は上がるため、警戒度もそれに伴い増加する一方、時間的に仲間以外の人間にほとんど会うことのない仕事である。ともすれば、欠伸が漏れそうになる。

 誇り高きジュエリー皇宮近衛騎士団員として、あってはならぬ事だとはわかってはいるが、自身が「魔術騎士」という自身の努力の結果だけで選ばれた人間で無い事も、さらにその感情に拍車をかける。


 俺はハラルド。ハラルド・フォン・アレキサンドライトだ。実家であるアレキサンドライト男爵家に代々伝わる情報伝達系の魔力を認められ、近衛騎士団に配属された。


 ジュエリーの騎士は、大まかに二種類に分ける事ができる。

 一方は腕っぷしを認められ、身分云々に関わらず「近衛騎士」の称号を与えられた、「武術騎士」。

 もう一方は、努力ではなく、血統と素質でのみ得ることのできる「魔力」を理由に称号を与えられる、「魔術騎士」。

 そして、魔術騎士の中で、戦闘に直接的に役立つ能力を持つ者は極々少数派なのである。

 その為、魔術騎士は「使い道を工夫すれば使えるが、扱いにくい存在」という印象を持たれ、ともすれば武術騎士に比べて軽視され勝ちである。

 現に、今俺が配属されているのも図書室近辺の警護する重要性がつい最近まで比較的低めであった場所である。…つい1ヶ月前、少しだけ重要度が上がったが。


「これはハラルド殿、夜警お疲れ様です」

 一人でいると止まらなくなる考え事を塞き止めた、不意にかけられる子供特有の高い声の主が、その原因だ。

 日付が変わるかどうかというほどの時間に起きており、仮にも騎士の称号に見合う訓練(魔術騎士の義務である)を受けた自分に気付かれずに近づくことができるその声の主は、クラウス・フォン・ダイヤモンド皇太子殿下だ。1ヶ月程前、高熱を出されたのがきっかけ(だと考えられている)で、それはそれは勤勉かつ優秀な才能を開花なさったらしい。以来、時折真夜中に図書館に本を借りに来る。


 真夜中まで読書を続けるのはどうかと思うが。

「僭越ながら、そろそろお休みになられた方がよろしいかと」

「ええ、わかってはいるのですが」

 この応酬も、お決まりの文句のようなものである。

「また、続編をお探しに?」

「はい。これの続きが気になってしまって…」

 苦笑ぎみに掲げられたそれの表紙には、「ジュエリー帝国戦争史 第九十六巻」とある。ジュエリー帝国の成り立ちから、およそ百年前程ー大戦争が終わった辺りーまでの歴史が書かれている、超長編だ。しかも通常用いられる、数十年前に特に重要な箇所を厳選、抜粋し、現代語(に近い言語)に直された新版(簡易バージョン)(これも相当難しい)ではなく、「普通に読んだら一読するのに何十年以上はかかる」とさえ言われる、古代語で書かれた全七百五十巻にも及ぶ旧版(超難解バージョン)である。

 新版が大きな戦いや、戦死者数などしか載せていないのに対し、旧版は地方の小競り合いや戦闘に参加した兵士の証言等も記載されている。そのため、分量が大幅に増え、臨場感(グロテスクな生々しさ)は比べ物にならない程。もう別々の書物と言われた方がよっぽどうなずける。


 ……どう考えても二歳児の読み物ではない。

 だが、帝国で第二の地位をもつ御本人(皇太子殿下)が望んでいるのだ。止める方が無茶というもの。

「それでは、引き続き夜勤、頑張って下さい」

「お休みなさいませ」

 ほくほくと幸せそうな顔で、難解書物をかかえて帰っていく殿下。もう見慣れてしまった後ろ姿を見送り、俺は一人、苦笑する。

 たぶん恐らくああいう人を、「選ばれし人間」というのだろう。


 殿下を見送ってからさらに時間が経ち、もうすぐ交代だと思い始めた頃。

「おい、大変だ!」

「何です? 賊でも入り込みました?」

 皇帝の寝所の方角から響く、直属の上司である近衛騎士団長の声に応じる。

「ハラルドか。いや、賊ではない。《金剛の獅子が逃げ出した》」

「なッ?!」

 暗号化され、告げられた言葉に、俺は驚愕を隠せなかった。

「とにかく、《獅子》を確保する事が先決だ。《カナール》で、すぐさま全近衛兵と情報を共有しろ。それと正門担当の奴から一人、治安保持部隊に伝達に行かせろ。今の時刻なら見回りから戻って来ているだろう。…ああ、最初に会ったのがお前でよかった」

「了解しました!」

 頭の中に今日の夜勤の面々を浮かべ、心の中で伝達事項を叫ぶ。

〈こちら、アレキサンドライト中佐。団長よりの伝言を伝達す。《金剛の獅子が逃げ出した》。繰り返す。《金剛の獅子が逃げ出した》。各員速やかに《獅子》の確保に向かえ。尚、正門担当から一人、治安保持部隊詰所に伝達に向かうように〉


 これが、運河(カナール)と呼ばれる俺の魔術だ。範囲も制限されるし、余り多くの情報は伝えられない為、戦場ではあまり使えないが、今回のように暗号化された物ならば充分。

 …まあ、滅多に使うことはないが。


 《金剛の獅子》というのは、ジュエリー皇帝の隠喩だ。絶対君主制というものはある意味でくじのような存在で、当代の皇帝は所謂「はずれ」として彼を知る人間の間では有名であった。

 皇帝というものは、主に「賢帝」「凡帝」「愚帝」のどれかで認識される。つまりはとても人気があるか、まあまああるか、全く無いかの違いである。

「賢帝」の治世に巡り会えれば素晴らしい。帝国はより住みやすく、活気のある国になり、明るい時代になる。

「凡帝」の治世でも、マニュアル通りに動いてくれれば大丈夫。薬にはならなくてもいい。毒にならなければ充分である。

「愚帝」の治世は自らの運命を嘆くしかない。残念ながら一臣民の分際で皇帝をすげ替えることは不可能に等しい。例え可能になったとして、その後の皇帝が愚帝でない保証は無い。


 つまるところ、「賢帝」「凡帝」 の元であれば、自分達は与えられた仕事のみを完遂すれば良いのだ。文官は書類をこなし、武官は己が腕を磨き、有事に備える。近衛兵は自分の持ち場を守るだけで済むし、治安保持部隊は担当地区の見廻りや犯罪者の取り締まりをしていればよい。

 間違っても崇敬し、守る対象である皇帝陛下の確保に尽力しなければならないような事にはなるまい。


 今上帝、カールハインツ三世は政務に興味を示されず、我々の隙を見て皇宮から逃げ出す、素晴らしい(手のかかる)君主であらせられる。

 そして、かのお方に何かあった場合、政治中枢その他(うえ)から叱られるのは俺たちなのである。

 ああ、割に合わないこと甚だしい。

 せめて、あと二十年、いや十年遅く生まれていたら、あの皇太子殿下の治世を甘受できたんだろうな…。ああ、本当に割に合わない。


 皇太子殿下は皇后陛下に似たんだろうな…。

 団長に続いて走り出しつつ、俺は現実逃避気味にそんなことを考えた。

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