8話 風の神 ライランノミコト ★
ある放課後のこと、舞と火鷹はCDショップに寄ってから帰っていた。
「今日は風が強いな!」
「ねー、飛ばされちゃいそう!」
二人は大きな声で会話していた。暴風が耳元を過ぎる轟音で声が聞き取りづらいからだ。今日は暴風警報が出るほど風が強かった。
街路樹は大きくしなり、風を受ける体はよろめいていた。
これだけ風が強いと、小柄で体重の軽い舞は本当に飛ばされてしまいそうだった。すると一際強い風が吹いた。
それは舞の短いスカートを強く捲り上げた。
「きゃ!」
舞のスカートの奥にはピンクの煽情的なショーツがあった。火鷹はそれをバッチリと見てしまった。
舞はすぐにスカートを抑えたため、火鷹以外に舞のショーツを見た者はいなかった。
「ごめん、舞……」
火鷹は顔を赤くして謝った。本当はありがとうございます、とお礼を言いたいところだったが、それを言うと変態になってしまうため、火鷹は謝ったのだ。
「いいよ、別に。他の人ならともかく、火鷹に見られるのは悪い気はしないから」
「そ、そうか」
舞は火鷹に見られる分には恥ずかしさを感じていなかった。もともと羞恥心が薄い舞。この程度で動揺はしなかった。
「あ、そうだ!」
何かを閃いた舞は火鷹を人気のない路地に引っ張っていった。
「どうしたんだ?」
火鷹は急に路地に連れられて疑問を持った。路地は歩道から入ったところにあり、かなり注視しないと舞と火鷹の様子がわからなかった。
「はい、どうぞ!」
舞は自らスカートを捲って火鷹にショーツを見せつけた。ピンク色のショーツが火鷹の目に飛び込んだ。
「な、なにを!?」
火鷹は動揺して、また顔を赤くした。早く舞にスカートを下ろせと言うべきなのだが、火鷹の舞のショーツから目を離せなかった。
「火鷹がもっと見たいんじゃないかなって」
「そ、そんなことは……」
「あるでしょ?」
「はい……」
舞はその場で回ってお尻側も見せてきた。丸く艶のある、形のいい小尻だった。綺麗な尻に食い込むショーツはとても魅惑的だった。
「ほーら、もっと見て」
舞は挑発するように尻を振った。尻がプルプルと揺れる。
すると火鷹は舞に近寄った。そして舞に壁ドンをした。二人の距離は限りなくゼロに近くなった。火鷹の荒くなった呼吸が舞に聞こえた。
「へ?」
舞は目をパチクリとさせた。意表を突かれて唖然としたのだ。
「舞、それ以上はやめてくれ。もう我慢が出来そうにない……」
火鷹は眉を顰めて苦しそうな表情をしていた。
「う、うん。わかった……」
舞は大人しくスカートを元に戻した。
(ドキドキしたーっ! 火鷹に迫られるのって結構良い!)
舞は普段と違う火鷹に興奮していた。火鷹の方から距離を詰められると、火鷹の雄の部分が感じられるのだ。
(今日はこのへんにしとこう。さすがにこんなところでヤるのは嫌だしね……)
舞は火鷹の普段と違う男の一面が見られただけで満足だった。
「それじゃあ行こっか」
「舞、先に行っててくれ……」
「あー、わかった」
火鷹は少し前かがみになっていた。舞はクールタイムが必要なのを理解して、先に路地を出て待った。
そして少ししてから火鷹が出てきた。火鷹はその後、恥ずかしさから舞の顔を見られなかった。
※
翌日、火鷹は学校に登校すると舞に人気のない階段に連れていかれた。
「ねぇ、火鷹は何色が好き?」
「赤かな」
「やっぱり! そんな火鷹に良いもの見せてあげる!」
舞はスカートを捲ってショーツを見せつけてきた。舞は真っ赤なショーツを履いていた。布面積が狭く、俗に言う紐パンというものだった。
「な、見せるなって!?」
「火鷹はパンツ見るの好きそうだったから、喜んでくれると思って」
火鷹は目を手で覆っているが、その隙間から舞のショーツを見るのをやめられなかった。
「隠してくれ、頼む……」
「えー、もっと見て欲しいー」
舞はいつにも増して挑発的だった。また火鷹に壁ドンして迫って欲しいのだ。火鷹の雄を覚醒させようとしていた。
しかし火鷹は見るのを何とか我慢して、ショーツから目を逸らした。
「むー……」
舞は仕方なくスカートを戻した。
それから舞は毎日、履いているショーツを火鷹に見せつけた。色とりどりのショーツは煽情的で、さらにどんどん布面積が狭くなっていた。
火鷹もそれには気付いていた。どんどん過激になっていく舞の下着を見せつける行為に、火鷹は耐えるのが限界だった。
「なぁ、学校でその、パンツを見せてくるのをやめてくれないか?」
「えー、背徳的で興奮するのにー」
「その、我慢が大変なんだ……」
舞は視線を下げて火鷹の下半身を見た。そしてニヤリと笑った。それはとても蠱惑的な表情だった。
「あたしが責任を持って処理してあげようか?」
火鷹はお願いします、という言葉が喉まで出かかった。しかしそれを男の意地で何とかギリギリで留めた。
そんなお願いをする自分があまりにも情けないと思ったからだ。
「だ、大丈夫だ……」
「そっかー」
それから舞は火鷹にショーツを見せるのをやめた。あまり火鷹を困らせるのは舞の本意
ではないからだ。
少し残念だったが、火鷹の可愛らしい反応を楽しめたので、舞は満足していた。
※
ある日の土曜日、朝に舞から火鷹に連絡があった。
『前に行った神社に来れる? 今から』
『行ける』
『いちおう動きやすい服装で来て』
『おーけ』
火鷹は部屋着からスポーツウェアに着替えて家を出た。
今日も暴風警報が出ていた。家の扉は風で押し戻されてなかなか開かなかった。四方から吹き荒れる風で、火鷹の髪はボサボサになっていた。
そして神社の前、長い階段に着くとそこには舞が待っていた。舞はバンドのTシャツにショートパンツを履き、さらに黒いタイツを履いていた。
「悪い、待たせた」
「ううん、大丈夫」
「それで何かあったのか?」
「そうなの。また神が問題を起こしているらしいの」
「またか。今度は誰が?」
「昇りながら話すね」
二人は苔むした階段を昇り出した。強風のせいで声が聞き取りづらく、二人は大きな声で話した。
「あのね、風の神の様子がおかしいらしいの」
「そのせいでこんなに暴風なのか」
「そういうこと!」
二回目ともなると火鷹の理解も早かった。前回のアマカゲヒメの件で、神の心身に異常があると人間界でも何かが起こると学んだのだ。
「人間界に来てから様子がおかしくなったらしい。きっとアマカゲヒメみたいにしょうもない理由だと思うけど」
「俺も手伝えそうだったら、手伝うよ」
「ありがと、火鷹!」
階段を昇り切ると、そこはさらに強い風が吹いていた。まるで台風のようで、神社の周りの木が折れそうなほどにしなっていた。
強い風が直撃すると火鷹はふらつき、舞はふわっと浮きそうになった。
火鷹は舞が飛ばされないように、手をギュッと握った。舞はその手を握り返して神社の本殿に向かった。
そして本殿の扉を開けると、そこには一人の大男がいた。身長が二メートルはありそうで、縦にも横にもデカくて、体は分厚かった。
「だ、誰だ!?」
大男は錯乱したような声でこちらを警戒していた。
「ライランノミコト! あたし! ヨウランヒメだよ! 落ち着いて!」
「うぅ!? わからない、むしゃくしゃする! あぁー!?」
ライランノミコトと呼ばれた大男は正気ではなかった。ライランノミコトは近くにあった高坏と酒瓶を風で操って飛ばしてきた。
すんでのところでそれを避ける舞と火鷹。
「あぶな!? もう、落ち着いてよ!」
ライランノミコトには声が届いておらず、暴れて手が付けられなかった。
「荒っぽいけど、ちょっと痛めつけるしかないかな!」
舞はライランノミコトを落ち着かせるために、実力行使に出ることにした。舞は光の粒子に包まれて神の装束に変身した。
「火鷹! 危ないから離れてて!」
「わかった! 舞も気を付けて!」
「うん!」
舞は踊るように動きながらライランノミコトに近づいていく。吹き荒れる暴風の抜け道を通って近づいているのだ。
風が弱いところやライランノミコトに向かって吹いていく風に乗って、舞は的確に近づいていく。
「ごめんね!」
そして距離を詰めた舞は飛び跳ねると、ライランノミコトにハイキックを食らわせた。
頭を蹴られたライランノミコトは少しふらつく程度だった。
「うがぁー!?」
ライランノミコトは痛みを感じて怒った。舞の足を掴むとそのまま投げ飛ばした。
「やばっ!?」
舞は壁に激突するのを覚悟した。しかしそれを火鷹が受け止めた。火鷹は全速力で走って舞と壁の間に入った。
しかし勢いは投げ飛ばされた勢いは殺し切れず、火鷹は背中を強打した。
「舞! 大丈夫か!?」
「火鷹こそ! 大丈夫!?」
「何とか。あいつはどうする? 風がより強くなってるぞ!」
「もう一発、渾身のを叩き込む!」
舞は立ち上がるともう一度踊り出した。すると光の粒子が舞の周りを飛び始めた。先ほどよりも力強い踊りだった。
そして舞はまた風の抜け道を通ってライランノミコトに近づく。
「覚悟してよ!」
舞は床を思いっきり蹴って肉迫する。
「いい加減、大人しくして!」
舞は渾身の蹴りを放つ。それは踊って貯めた光の粒子により強化された蹴りだった。
舞はライランノミコトの股間を蹴り上げた。
「うぐっ!?」
ライランノミコトは小さく呻くと、股間を抑えてその場に倒れ込んだ。火鷹も痛みを想像して顔を顰めた。
ライランノミコトは気を失ったのか、風が徐々に弱まってきた。そして風は止み、本殿の中は無風になった。
「終わったのか?」
「一応ね」
舞は肩で息をしていた。今の戦闘でかなり疲れたのだ。火鷹はふらつく舞を支えた。
「ありがとう、火鷹……」
二人は気絶したライランノミコトに近づいた。うつ伏せで倒れるライランノミコトを何とか仰向けにした。
大男なので二人がかりでも大変だった。
そして舞がライランノミコトの容体を見た。
「何か、邪気を感じる……」
「邪気?」
「うん、他の神の仕業かもしれない……」
舞は着物の袖から一つの小瓶を取り出した。
「これがいいかも」
「それは何だ?」
「これは剥ぎの妙薬って言って、邪気とかそういうものを弾き出すもの。たぶんこれを飲ませれば正気に戻るはず」
舞は剝ぎの妙薬をライランノミコトに飲ませた。するとライランノミコトは咽たように咳をした。
そして何かを吐き出した。それは白い塊だった。
「何だ、団子か?」
「これが原因みたい。毒でも入ってたのかな?」
火鷹はティッシュでその団子を片付けた。そして舞はライランノミコトの頬を叩いた。
「ほら、起きて!」
「んん……、はっ!」
ライランノミコトの意識は一気に覚醒した。
「な、何が……?」
「良かった、正気みたい」
「お前は、ヨウランヒメではないか! 俺は何をしていた?」
舞はライランノミコトに事の顛末を聞かせた。
「迷惑を掛けたようだな。本当にすまない……」
ライランノミコトは床に着きそうなほど深く頭を下げた。
「いいって、困ったときは助け合いでしょ」
「何か詫びたいが、今は手持ちが何もない。いずれ何かの形で礼をしよう」
そしてライランノミコトは火鷹の方を見た。
「火鷹と言ったな。その団子を渡してくれ。持ち帰って調べてみる」
火鷹はティッシュにくるまれた団子を渡した。
すると本殿の中に光の柱が現れた。
「ヨウランヒメ、火鷹、お前たちのおかげで助かった。それではいずれまた」
ライランノミコトは光の柱の中に入ると、そのまま光の柱と共に消えていった。
「ふぅ、疲れたー」
緊張が解けた舞はその場に座り込んだ。そして舞の変身も解けて普段着に戻っていた。
火鷹は慌てて舞に駆け寄る。
「舞、大丈夫か?」
「ちょっと疲れただけ。でも少しだけ甘えさせて」
火鷹は舞の隣に座った。すると舞は火鷹に寄りかかった。
「何で神様が毒団子なんて食べたんだろう?」
「お供え物だと思ったんじゃないかな。神って結構図々しいところがあるから」
二人の疑問は尽きなかったが、今は二人きりの静かな時間を堪能した。
二人の間を初夏の暖かい風がふわりと通っていった。




