16話 学園祭本番
陽が落ちかけて空がオレンジ色に染まっていた。今日は学園祭の一日目。
グラウンドにはそれぞれのクラスが作った神輿が並べられていた。一週間の準備期間を掛けただけあり、どれも意匠が凝ったものばかりで見ていて楽しいものだった。
生徒たちは神輿の前にクラスで集合してクラス写真を撮ったり、友達同士で集まって写真を撮ったりしていた。
そして街に繰り出す時間になった。三年生から順番に神輿を担いでグラウンドから出発した。
男子が神輿を担ぎ、女子はそれの後ろからついて行く形だ。
「あの神輿凄いよ! 綺麗ー!」
「めっちゃ豪華だな!」
「すごいクオリティ!」
各クラスの自信作の神輿は街の人を楽しませていた。暗くなると電飾が輝いて、より綺麗に見えた。
「よし! もっと盛り上げるよ!」
そう言うと舞は神輿の上に飛び乗った。舞は不安定な神輿の上でも堂々と立っていた。そして舞一人分の重さが増えた神輿を担ぐ男子たち。
男子たちは舞の重さが増えたところで動じなかった。ふらつくこともなく、しっかりと支えていた。
舞は扇子を広げて神輿の上で音頭を取った。
「わっしょい! わっしょい!」
舞につられて男子も声を張り上げた。女子たちも男子だけに負担をかけまいと声を出した。
舞は女神なだけあって神輿に慣れていた。率先して声を出すことで周りのクラスも声を出すようになった。
神輿の行列からは声が絶え間なく上がって盛り上がった。
「すごい、あの子めっちゃ可愛い!」
「盛り上げてていいね!」
「あの神輿は派手だねー!」
舞の姿に街の人も他のクラスも魅了されていた。
「もっと声上げろー! まだまだ盛り上げるよー!」
「おー!」
舞は心底楽しいのか、弾けるような笑顔で神輿の上で扇動を続けた。
そして神輿は折り返し地点の広い公園に着いた。そこでいったん休憩に入るのだ。神輿はかなり重いため、担いでいると肩が痛くなり体力も持っていかれる。
舞は公園に着くと神輿から降りた。
「ありがとうね! 重かった?」
「舞ちゃんは羽のように軽いから全然平気だったよ!」
「嬉しいこと言ってくれるね!」
舞は神輿を担いでいた男子たちとコミュニケーションを取っていた。苦労をねぎらうのも女神の仕事なのだ。
「神輿担いでるのカッコよかったよ!」
「本当!? 舞ちゃんのために頑張ったんだ!」
「そうなの? ありがとうー!」
舞に褒められた男子たちは一気に活力が漲った。絶世の美少女である舞に褒められて喜ばない男などいないのだ。
これで帰りの道も元気に神輿が担げそうだった。
そして舞は男子たちとのコミュニケーションを切り上げると火鷹のもとに向かった。
「火鷹、あたしの音頭どうだった?」
「最高だったよ。テンションが上がって、みんな楽しそうだった。さすが女神だな」
「いやー、それほどでもー」
舞は火鷹に褒められて笑顔を浮かべた。舞としても久々に女神らしいことが出来て気持ちが良かった。
神は性分として敬われて祀られたいものなのだ。今回神輿に乗ったことで、舞は満たされる感覚があった。
「帰りは火鷹も一緒に乗ろうよ! 楽しいよ!」
「俺が乗ったら重くてキツいだろうし、不満が出るだろうから遠慮しておく」
「むー、そっかー」
舞は不満そうに口を尖らせた。実際問題、火鷹が乗ったら重さもそうだが不公平感があって男子から不満が続出するだろう。
自分も乗せろ、一人だけサボってズルい、舞とイチャイチャして羨ましいなど、クラスにいらない不和が生まれる。
火鷹はそれは避けたかった。舞も納得はしてないが理解はしたようだった。
「なら今度一緒に神輿に乗ろうね! あたしが特注のを用意してあげる!」
「ありがとう、楽しみにしてる」
火鷹はよく考えずに了承した。しかし火鷹は一緒に神輿に乗るという行為の意味をわかっていなかった。
神輿に乗ることが出来るのは神だけなのだ。舞は暗に火鷹を神にして、一緒に祀られようと言っていたのだ。
だが火鷹はそんな舞の思惑には気付かない。約束を取り付けた舞は怪しげな笑みを浮かべていた。
そして休憩が終わり、再び神輿を担いで学校への道のりを歩き始めた。
男子は再び神輿を担いで、息を切らしていた。
「がんばれー!」
「あと少しだよー!」
女子は疲れている男子を応援する。男子は最後の力を振り絞って根性で神輿を運びきった。
神輿をグラウンドの元の場所に置くと、男子は大きく息を吐いた。
「ふー、疲れたー!」
「肩、めっちゃ痛いわ!」
「声も枯れたー」
神輿を担いでいた男子は疲労困憊だった。グラウンドの土の上に寝そべるものもいた。それだけ疲れているのだ。
しかしまだイベントは続く。学園祭の一日目はイベントがたくさんあるのだ。
グラウンドに戻ってくると、すっかり暗くなっていた。月明りが照らすため周りを見ることは出来た。
また神輿に付いている電飾のおかげで、その周りは明るかった。
そしてすべてのクラスが戻ってきたことを確認してから、生徒会長が労いの言葉を掛けた。
その後、生徒会長は松明を持って、グラウンドの真ん中にある井桁型に積み上げられたキャンプファイヤーに火をつけた。
キャンプファイヤーは勢いよく燃えて、グラウンドを明るく照らした。
「いいね。こういうの見てると高天原を思い出すなー」
「高天原でもキャンプファイヤーをするのか?」
「お焚き上げとかがしょっちゅうあるからね」
「そうなのか。きっと綺麗なんだろうな」
舞は高天原のことを思い出して、少し懐かしそうにした。
「舞は人間界に降りてきて、寂しくなったりしないのか?」
「たまにね。でも火鷹がいるから全然へっちゃら! むしろこっちの方が楽しいよ! 火鷹のおかげ!」
「それは良かった」
舞は満開の、とびきりの笑顔を火鷹に向けた。火鷹はその笑顔を見て照れていた。
「あ、火鷹、顔赤くなってる!」
「火のせいだ」
「絶対違うってー」
舞は火鷹の脇腹を指でツンツンと突いた。火鷹は赤くなった顔を隠すために舞の方を向かなかった。
そして炎が落ち着いてくると、学校のスピーカーから音楽が流れ始めた。フォークダンスの時間になったのだ。
それぞれのクラスで、神輿を囲むように丸く並んで隣の人と手を繋いで踊り始めた。
舞は当然火鷹と手を繋いだ。
舞は軽やかなステップで踊ってみせた。火鷹は慣れないながらも舞に合わせて踊った。とても楽しそうで、微笑ましい光景だった。
その様子を対極の位置から夜露は眺めていた。アームカバーに隠れた右腕の痣が痛んだ気がした。
※
日が明けて学園祭の二日目。快晴だった。今日は一般のお客も来るため、みんな気合が入っていた。
「よーし! 荒稼ぎして豪華な打ち上げを食いに行くぞー!」
火鷹のクラスは気合十分だった。そこに踊り子の衣装を着た女子が入ってきた。男子たちはどよめいた。
「おぉー! すげぇ! 本物みたい!」
「めっちゃ可愛いじゃん!」
販売担当の男子たちは踊り子衣装を着た女子たちに目が釘付けだった。普段一緒にいるクラスメイトだが、とても新鮮に映って好きになってしまいそうだった。
衣装を見た男子から好評で女子も嬉しくなった。
踊り子の衣装は二種類。アラビアンはベールのたくさん付いたもの。そして和風な、着物をベースにしたもの。
「舞ちゃん、本当にこんな凄い衣装着ていいの? 高かったんじゃないの?」
「そうだよ! 普通のコスプレとはレベルが違うよ! ヤバいよ!」
舞が用意した衣装を着た女子は、そのクオリティに驚愕していた。かなり高級なものでるあることは、着てみればすぐにわかった。
店売りのものとは一線を画すレベルのものだった。生地の触り心地も極上で、動きやすくフィットしていて、まるでオーダーメイド。
「大丈夫! あたしの知り合いに頼んだら嬉しそうに承諾してくれたから!」
舞の知り合い、つまり神ということだ。舞が頼ったのは裁縫の神だ。生地は高天原の物で、文字通り神業で作られた衣装なのだ。
ちなみに裁縫の神は、普段作らない衣装を作ることが出来てとても嬉しそうだった。しかも多くの人の目に触れて、可愛い女子が着ると知り、腕によりをかけて作っていた。
「絶対汚さないように気を付けなくちゃ……」
女子たちはちょっとビビっていた。
「そんな固くなってちゃ楽しく踊れないよ! リラックスして!」
舞の言葉に女子たちは少しだけ気を緩ませた。
「よーし! 楽しく踊っていこう!」
そして学園祭の二日目が始まった。
火鷹たちのクラスは店番として女子が廊下にいた。もちろん踊り子の衣装を着ていた。
その衣装を見た生徒や一般のお客は目を奪われていた。
「その衣装すごい可愛いですね! 写真撮ってもいいですか!」
「どうぞー」
女子たちはかなり注目を浴びていて、そのおかげで教室にはたくさんのお客が入った。
「中では焼きそばを食べられて、踊りも見れますよ!」
「この衣装で踊るんですか?」
「そうですよー。可愛いのでぜひ見ていってくださいねー」
教室の中はお客でいっぱいだった。綺麗な衣装で可愛い子が踊るとあって、みんな期待していた。
そして教壇側の小さなスペースで、女子による踊りが始まった。舞の直々の指導のおかげで踊りにはキレがあり、衣装の妖艶さが際立っていた。
音楽は流行りのアイドルの曲をスピーカーで流していた。
踊りが終わると教室は溢れんばかりの拍手で満たされた。
「おい、あのクラス凄いらしいぞ!」
「なんか踊り子がたくさんいるんだって!」
「衣装可愛すぎ! あたしも着てみたいなー!」
評判が広がっていき、教室の前の廊下には大行列が出来ていた。どのクラスよりも人を集めていて、焼きそばや飲み物は飛ぶように売れていた。
そして一番の稼ぎ時の昼、ステージには舞と夜露がいた。二人は和風な踊り子衣装を着ていた。
髪もしっかりと結っていて、気合が入っていた。
「夜露、いける?」
「うん、大丈夫だよ」
二人の踊りが始まった。先ほどの楽しそうな踊りとは違い、神楽のように型のある踊りだった。可愛い踊りというよりは、カッコいい系の踊りだった。
ところどころで舞のアレンジが効いており、見ている人を飽きさせなかった。つむじから足先まで、指の先から先まで振付がされており、見る者を魅了していた。
「すげぇ綺麗……」
「可愛すぎる……」
「これ学祭で見ていいクオリティなのか? もっと金払わないと見れないだろ……」
二人の踊りはお客だけでなく、売り子の男子も目が離せなくなっていた。焼きそばを作る手が止まって、少し焦げていた。
そして二人の踊りが終わった。少し息を切らしながら、見てくれた人に頭を下げる舞と夜露。
教室は割れんばかりの歓声に包まれた。
夜露は四方八方から来る称賛の声に驚いていた。一方で舞は当然と言わんばかりに胸を張って自信満々にしていた。
「やったね、夜露」
「うん!」
二人はハイタッチをして、教室からはけていった。
※
着替えのために更衣室に来た舞と夜露。
「いやー、楽しかったね!」
「舞さんのおかげだよ。ありがとうね」
「どういたしまして!」
二人は衣装を脱いで下着だけになった。しかし夜露はアームカバーを付けたままだった。舞はそれが気になった。
「夜露ってずっとアームカバーしてるよね? 怪我でもしてるの?」
「うん、ちょっと痣があって。心配させたくないから隠してるんだ」
「痣ならあたし治せるかも!」
「本当?」
「うん、いい薬持ってるんだ! 一回どんな感じか見せてもらえる?」
夜露は人前でアームカバーを外すのは初めてだった。そこには大きな痣があった。
「は?」
「舞さん? どうしたの?」
痣を見た舞は固まった。口をポカーンと開けて微動だにしなかった。
かと思うと、舞は突如強い力で夜露の右腕を掴んだ。
「ど、どうしたの?」
「これ、どうやってついたの?」
いつもの舞とは違う、真剣な声色で夜露は怖かった。
「わかんないの。朝起きたら突然ついてて……」
「今日、学祭が終わったらすぐに家に帰って! なるべく早く薬は用意するから! 家で待ってて!」
舞は鬼気迫る表情だった。
「う、うん、わかった……」
舞の剣幕に圧される夜露。
「そんなにこの痣良くないの?」
「うん、かなりヤバい……」
夜露は不安そうな表情をした。
「でも大丈夫、あたしが必ず治すから」
そして二人は更衣室を後にした。
「あたしはちょっと連絡するところがあるから、先に戻ってて」
舞は人気のないところを探して歩いた。
(なんで、センラの呪印が夜露に付いてるの!?)
舞は今まで夜露から感じていた気配の元がセンラノミコトであることを知った。
センラノミコト、それはかつて高天原で暴れて、今は封印されている嫉妬を司る悪神であった。




