15話 学園祭準備 ★
肝試しから数日、火鷹の心はようやく持ち直していた。夢魔によって夢の中で舞と夜露に迫られて、どちらかを選べなかったことがずっと重くのしかかっていたのだ。
最近は舞と夜露によそよそしい態度で接していた。目を合わせることが出来ず、話もどこか嚙み合わない。火鷹は好きな音楽の話題にもあまりノれていなかった。
それは夢魔にエロい夢を見せられてまともに顔を見られなかったという理由もあるが、自分がどっちつかずなことに悩んでいたのだ。
しかし数日経って、火鷹の中で悩みは小さくなっていった。
(二人との関係はいずれはっきりさせる。今はそのときじゃないし、悩んでも仕方ない)
火鷹はあまり悩みに固執しないタイプだった。そのため数日間苦しんだ優柔不断な自分にも、すぐに折り合いがついた。
顔を洗った火鷹は思考がスッキリしていた。
(こんなよそよそしく二人と過ごしてたら、すぐに愛想を尽かされる。いつも通りにいこう。舞と夜露と過ごして、ちゃんと選ぶんだ!)
火鷹は決意を固めた。そして登校した。
学校に着いた火鷹は先に来ていた舞に挨拶した。
「おはよう、舞」
「おはよう! 火鷹、元気になった?」
「あぁ」
「うん、良かった! 最近の火鷹は何か距離を感じてたから、いつもの火鷹になって嬉しい!」
舞は火鷹がいつも通りに戻って喜んでいた。
(やっぱり火鷹に悩んでいる姿なんて似合わない。凛々しい火鷹が一番カッコいいんだから!)
そしてホームルームが始まった。今日のホームルームは来週に迫った学園祭の出店内容を決める。
「やっぱり食べ物屋はやりたいよね!」
「俺、メイド喫茶がいいな!」
「それきっと他のクラスでもやるよ? 別のにしない?」
議論は白熱した。漫画で見たような出店をしたい者と、独自性を求める者で対立していた。なかなか良い落としどころが見つからなかった。
そんなとき、舞が一つの提案をした。
「踊り子喫茶なんてどう?」
「踊り子?」
クラスメイトは首をひねった。どんなものになるのか想像出来なかったからだ。
「あたしたちが踊ってお客さんを楽しませるの! ついでに男子が料理を出せばいいんじゃない? きっとたくさん人が来るよ!」
舞はクラスで出た意見の折衷案を出した。そこには舞の好きな『踊る』という要素も含まれていた。
「いいじゃん! 俺が客だったら絶対入っちゃうぜ!」
「俺らは料理に集中すればいいんだろ! 賛成!」
「可愛い衣装が見れるなら何でもいい!」
男子には概ね好評だった。しかしメインとなる女子からは不安が聞こえた。
「えー、ちょっと恥ずかしいかもー」
「踊れないから不安……」
「踊るときの衣装はどうするの? 作るの?」
女子の多くは舞のように上手く踊れない。それに踊り子なら衣装も重要で、それを作るのは大変そうだった。
不安がる女子を見て、舞は自信満々に答えた。
「みんな自信を持って! 踊るのは楽しいから! 踊りはあたしが教えるし、衣装も用意してあげる! 任せて!」
「大丈夫なのか、舞?」
「うん!」
火鷹の問いかけに舞は深く頷いた。
「舞ちゃんがそう言うなら、やってみたいかも」
「舞ちゃんの負担が多いけどいいの?」
「全然いいよ! 楽しめるなら頑張れるもん!」
クラスの意見が纏まってきた。舞のリーダーシップのおかげだった。
「他のクラスと差別化出来るし、いいかもね」
「あたし可愛い衣装着てみたい!」
「よし、じゃあうちのクラスの出し物は踊り子喫茶に決定!」
男子はもとより、女子も乗り気になってきていた。
こうして舞の意見が通り、クラスの出店内容が決まった。
「次は神輿の装飾のテーマ決めだな」
火鷹たちの高校の学園祭では一日目の夕方から夜にかけて、神輿を担いで街を練り歩くのだ。その神輿を自分たちで作って装飾するのだ。
「せっかくだから豪華にしたいよね!」
「電飾とかたくさん付けてさ、派手にしよう!」
「なんかいい案ある人いる?」
クラスで目指す方向性は一緒だったが、どれも具体性に欠けていた。あと一押しが必要だった。
そこでまた舞が一声を上げた。
「あたし派手な神輿の案あるよ! 見たことあるし作れると思う!」
「本当!? 舞ちゃん、頼りになるー!」
「図案はあたしが書くから、みんなは作るのお願いね!」
「わかった! 任せろ!」
舞は神輿の制作も引き受けると言った。かなり忙しくなるが、舞はそれが楽しみだった。
「出店も神輿も決まったな! それじゃあみんな、頑張っていこう!」
「おー!」
そして学園祭の準備が始まった。
※
火鷹たちの高校では学園祭の準備期間は一切の授業がなくなり、一日中準備に充てられる。そのため教室の装飾も神輿もかなり豪華で気合の入ったものになり、街の名物になっていた。
町を巡る神輿は木の土台だけが用意されていて、そこから自分たちで木材を切って針金を巡らせて形を作っていくのだ。
そして最後に色とりどりのビニールや電飾を付けて神輿は完成になる。
火鷹は神輿の制作係になった。体育館に運ばれた土台に、舞の書いた図案をもとに木材をくっつけていた。
夜露は教室の装飾係になった。踊り子喫茶に合った妖艶な装飾を施していくのだ。さらに提供する料理の材料費や値段も決めていた。
舞は全体の統括のために走り回って指示を出していた。神輿の形の修正、装飾の意見、衣装のためにサイズを測っていた。
舞は大忙しだった。しかし辛そうな表情は一切見せず、むしろ常に笑顔でみんなに元気を分けていた。
そして準備はどんどん進んで行った。神輿も教室の装飾も形になってきていた。
ある日の午後、陽射しが照り付けてうだるような暑さになっていた。みんな暑さから大量の汗をかき、飲み物をがぶ飲みしていた。
火鷹はライブハウスで貰えるドリンクホルダーにペットボトルを付けて、腰から提げて作業していた。
「暑いな……」
火鷹の作業する体育館は扉を開けているが、かなりの熱気が籠っていた。大きな扇風機も回っているが熱気が吹き付けるだけだった。
作業する人も多いしみんな忙しく動き回っているため、熱が発生するのだ。みんな汗をタオルで拭きながら作業していた。
「火鷹、道具取りに倉庫行ってくれないか?」
「おーけ」
火鷹は校舎の裏手にある倉庫に向かった。そんな火鷹を後からこっそり追う者がいた。
その人物は火鷹が倉庫で物を探していると、倉庫に入って扉を閉めた。
「ん?」
火鷹が物音に気付いて振り返ると、そこには舞がいた。
「舞か、どうかしたか?」
「最近忙しくて火鷹と一緒にいられなかったから、ちょっと寂しくて……。倉庫に行くのが見えたからついて来ちゃった!」
「そ、そうか」
火鷹は何でもない風を装ったが、内心は舞の可愛らしい仕草に胸を打たれていた。舞の一挙手一投足は男子にとって劇薬なのだ。
「何探してるの?」
「トンカチとのこぎり、あと軍手」
「あたしも手伝うよ」
「ありがとう、舞」
舞は火鷹を手伝い始めた。舞は半袖のTシャツを肩まで捲って、ノースリーブになっていた。そのため腕を上げるたびに舞の綺麗な腋が丸見えだった。
火鷹は舞のセクシーな姿に目を奪われていた。それに気づいた舞はニヤッと妖艶な笑みを浮かべた。
「あれー、火鷹どうしたのー? そんなにあたしの腋が気になるのー?」
「い、いや……」
「正直に言えば、もっと見せてあげる」
舞は火鷹を挑発して、腋を見せつけるセクシーポーズをとった。火鷹はもっと見たいという衝動を我慢して、舞の腋から目を逸らした。
「そ、それより、道具見つかったから、そろそろ戻るぞ」
火鷹は倉庫の扉に手を掛けた。
「あれ?」
しかし扉は開かなかった。鍵がかかっているのだ。どれだけ力を込めても開く気配がなかった。
「鍵がかけられてる……」
「どうしてだろうねー?」
「まさか、舞、何か企んでるのか?」
「いやいや、そんなまさかー」
舞はわざとらしくすっとぼけた。実は舞は友達に頼んで、わざと倉庫に鍵をかけて貰ったのだ。理由は単純、火鷹と二人きりになりたかったからだ。
「どうせ出られないんだし、ゆっくりイチャイチャしようよー」
舞は後ろから火鷹に抱き着いた。火照った舞の体温が感じられて、火鷹の鼓動は早くなった。
「で、でも早く戻らないと、みんな心配するぞ?」
「大丈夫だって、少しくらい」
舞は火鷹の匂いを嗅いだ。汗と制汗剤の匂いがした。
(この匂いの火鷹も好き)
舞に匂いを嗅がれた火鷹は恥ずかしがった。
「おい、舞、汗臭いから、あんまり嗅がない方が……」
「あたしは全然大丈夫だよ。むしろ興奮する!」
舞は火鷹の体を撫で回した。
すると舞はぶるっと震えた。
(やば、水飲み過ぎたのかも……!)
舞は急な尿意に襲われたのだ。
「も、もう戻ろっか……」
しかし扉は固く閉ざされていた。舞の友達は気を遣って、三十分は近寄らないようにしていた。
舞も火鷹もスマホを置いてきてしまったため、外と連絡が取れずに完全に閉じ込められてしまった。
(ど、どうしよう……っ!)
舞の尿意は強まっていた。急にモジモジとする舞を心配する火鷹。
「舞、大丈夫か?」
「ちょ、ちょっとヤバいかも……」
「体調が悪いのか?」
「い、いや、違くて、その、おしっこが漏れそう……っ!」
「え!? マジか!?」
火鷹は何とか無理やり扉を開けられないか試した。しかし扉はびくともしなかった。ドンドンと叩いて外の人に気付いてもらおうともしたが、反応はなかった。
「ほ、火鷹、あんまりドンドンしないで……。お腹に響いて、ヤバい……」
「悪い……」
そして十分近く経ったがまだ扉は開かなかった。
「舞、あとどれくらい耐えれそう?」
「もう、限界、動けないくらい……」
「くそ、最終手段だったんだけど、やるしかないか」
「な、何を?」
火鷹はドリンクホルダーに付けていたペットボトルを飲み干した。そしてそれを舞に渡した。
「舞、これにしてくれ」
「え!? これに!? ここで!?」
よく色仕掛けをする舞でも、好きな人の前でおしっこをするのはかなり恥ずかしかった。
「じゃないと服も濡れて、大変なことになるぞ」
「そ、そうだけど……」
「背に腹は代えられない」
「わ、わかった。ただ、あっち向いてて……」
舞は空のペットボトルを持って倉庫の奥まで行った。なるべく火鷹から離れたかったのだ。
そして舞は短パンとショーツを下げて屈んだ。火鷹は音を聞かないように耳を塞いでいた。
すると勢いよく水の出る音がした。それは耳を塞いでいても火鷹にかすかに聞こえていた。
そしてたっぷり二分ほどしてから、舞が火鷹の肩を叩いた。
「出し終わった……」
「そうか」
舞は満杯のペットボトルを持っていた。火鷹はそれを決して見ないようにした。
そして十分後、倉庫の扉が開いた。
「あ、舞ちゃんと火鷹くん、ここにいたんだ! ごめんね、間違ってカギ閉めちゃってた!」
「う、うん、別にいいよ……」
舞にはいつもの元気がなく、火鷹も口数が少なかった。どちらも恥ずかしそうに顔を赤くしていて、モジモジとしていた。
(これは二人の関係、進展しちゃった!?)
事後のような空気感の二人に、舞の友達は興奮していた。
(これは後で舞ちゃんに何があったか聞かないと!)
そして舞と火鷹は特に言葉は交わさずに持ち場に戻った。
舞は翌日にはもとのテンションで火鷹に接してきた。まるで昨日のことなどなかったかのようだった。
しかし火鷹は申し訳なさから舞のことを直視出来なかった。
ただ舞も恥ずかしさを押し殺しているだけだった。なるべくいつも通り過ごして、昨日のことを忘れたいのだ。
そしてそんな日々を過ごしていると、ついに神輿も教室の装飾も完成した。
学園祭は明日に迫っていた。




