12話 気配
授業が終わり放課後になると、舞は火鷹に声を掛けた。
「火鷹、ちょっと付き合ってよ」
「おーけ」
舞と火鷹は一緒に遊びに出掛けた。放課後デートだ。
「どこに行くんだ?」
「着いてからのお楽しみ!」
舞は火鷹の手を取って先導した。舞と火鷹の手は自然に繋がれた。
二人は街中に出た。そこで舞が火鷹を連れて来たのはランジェリーショップだった。
「おい舞、まさかここに入るのか?」
「うん、もちろん!」
「俺は待ってるから、一人で行ってきてくれ……」
「だーめ! 一緒に行くよ! 火鷹に可愛いのを選んで欲しいの!」
「マジか……」
「ほら! 来て!」
舞は火鷹を引っ張るが、さすがに火鷹も抵抗する。地面に根を張ったようにその場を動かなかった。
「む? 火鷹も可愛い下着好きでしょ? 一緒に選ぶのも楽しいって!」
「さすがにここに男の俺が入るのはマズいって!」
「大丈夫だって! 意外と彼氏連れもいるから!」
「無理だって!」
いつまでも説得出来ない火鷹にしびれを切らした舞は神の力を使った。舞の手の周りに光の粒子が漂った。
すると舞の力が急に増した。
「うおっ!?」
神の膂力に引っ張られた火鷹は簡単に連れていかれた。驚く火鷹を無視して、舞はランジェリーショップに火鷹を連れ込んだ。
「いらっしゃいませ!」
女性の店員は笑顔で二人を迎える。舞は火鷹の手を引いて店の奥に行く。幸い店の中には二人の他に客はいなかった。
舞は真剣に下着を見ているが、火鷹は恥ずかしそうに下を向いていた。どこに目をやっても下着ばかりで、恥ずかしくて溜まらないのだ。
「これ! めっちゃ可愛くない? どう、火鷹?」
舞は紫のレースのたくさん付いたショーツを火鷹に見せた。
「い、いいんじゃないか?」
火鷹はチラッとだけ見て、適当に返事をした。
「もう、ちゃんと見て! これを履いてるあたしを想像して!」
「想像って……」
火鷹は舞が、持っている紫のショーツを履いている姿を想像した。舞の可愛らしさに少しの大人っぽさを足していて、とても素敵に思えた。
さらに最近さんざん見せつけられた舞の綺麗な小尻を思い出していた。張りのある形のいい尻に食い込む姿は、想像だけでもかなり魅力的だった。
火鷹は顔を赤くした。
「似合うと思う?」
舞は上目遣いで火鷹に尋ねた。潤んだ瞳が近づき、舞の可愛らしさが増していた。
「似合うと、思う」
「ありがと!」
舞はショーツを元の場所に戻した。
「いったん保留ね」
舞はさらに別の下着を手に取った。
「このスポブラも良い感じじゃない? 火鷹はこういうの好き?」
次に舞は黒のスポーツブラを見せてきた。先ほどのショーツよりは刺激が少ないものだったので、火鷹は冷静に見ることが出来た。
「いいんじゃないか、健康的で」
「なら、これは買おうかなー」
舞はカゴにスポーツブラとセットのショーツを入れた。
「あ、そういえば、最近おっぱいが少しキツいんだよねー」
「そ、そうなのか……」
「胸大きくなってきたのかな?」
舞は控えめな胸を寄せた。火鷹は思わず舞の胸元を注視してしまった。舞の胸は直接見たことがあり、鮮明に思い出すことが出来た。
舞は火鷹が自分の胸に意識が集中していることに気付いて、ニヤッと笑った。舞はさらに攻め続ける。
「すいませーん! サイズ測ってもらっていいですか?」
「はい、ただいま参ります!」
舞は店員を呼んで試着室に入り、バストサイズを測ってもらった。
舞はトップが大きくなっていて、アンダーはそのままだった。
「やった! 火鷹、あたしおっぱい大きくなってたよ!」
舞は試着室の前で待つ火鷹に喜びを伝えた。
「そ、そうか、良かったな……」
火鷹は舞の胸が大きくなったと聞いてそれを想像してしまった。舞の形のいい控えめな胸と、その頂点のピンク色。
火鷹は頭を振って邪念を消し飛ばした。
そして舞はサイズを測り終えると誇らしげな顔で出てきた。
「火鷹への愛が溢れて、おっぱいも大きくなってた。火鷹も嬉しいでしょ?」
「そ、そうだな」
火鷹は照れながらも正直に答えた。そんな火鷹に舞は満足気だった。これからもっと胸を大きくして、もっと火鷹を誘惑するのだ。
夜露ほどとは言わないが、胸はあればあるだけ良かった。
そして舞は会計をした。
「素敵な彼氏さんですね」
「へへぇ、そうですよねー」
舞は火鷹を褒められて嬉しそうにした。口角を上げて、可愛らしさを全開にした笑みを浮かべた。
舞は火鷹を連れて店を出た。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
店員は舞と火鷹に頭を下げる。そのとき舞は誰にも気付かれないぐらいの一瞬、店員を睨んでいた。
(この人、やっぱり。この気配は……)
舞は怪訝な表情を浮かべたが、すぐに愛嬌のある顔に戻った。
そして火鷹の隣を歩き出した。
※
「次はここ!」
舞は火鷹を連れて色々なテナントの入った小さいビルに入った。階段を昇って目的の階に着くと、そこはコスプレ衣装を売る店だった。
「コスプレ好きなのか?」
「火鷹の好きな衣装を探そうと思って! 良いのあったら火鷹の前でだけ着てあげる!」
舞と火鷹が店に入ると、そこには多種多様で個性的な衣装が並んでいた。キャラクターのコスプレ衣装から、メイドなどのテーマのある衣装もあった。
「火鷹は好きな恰好とかある?」
「特に思い浮かばないなー、あんまり気にしたことなかった」
「裸の方が好きってこと?」
「そういうことじゃない!」
「でもあたしの裸は好きでしょ?」
「うっ」
火鷹は否定出来なかった。もし舞と付き合うことになって、舞の裸を好き放題眺めていいなら、火鷹は何時間でも眺めているだろう。
火鷹をからかって満足した舞はコスプレ衣装を見始めた。
「見てこれ! なんのキャラだろ? 可愛い!」
「これとか露出度多すぎ! エロっ!」
「ナースとかはどうですか、患者さん?」
舞は色んな衣装を合わせて楽しんでいた。その都度、火鷹の反応を伺い好みを探ろうとしていた。
「どれも似合ってて可愛いよ」
「嬉しい!」
火鷹の言葉に舞は嬉しくなった。
そして店の奥にはコスプレの装飾に使う物が置いてあった。仮面やヘッドドレスなど。その中に禍々しい紋様の入った仮面があった。
「何かに似てるなー」
「どうかしたか、舞?」
「いや、何でもない」
舞は仮面の紋様を見たことがある気がした。しかし記憶の中から引き出せずにモヤモヤした。
そして舞は店の中で店員と話している女性を見た。仲が良さそうで常連なのが伺えた。
(あの店員と客からも。何か変な感じ……)
舞は話している二人から、ランジェリーショップの店員と同じ気配を感じ取っていた。舞は気付かれないように注視したが、共通点を見つけることは出来なかった。
「ま、いっか。火鷹、行こ」
「おう」
舞は怪訝に思いながら店を後にした。
※
しかし変な気配を持つ人は連鎖した。次に行ったコスメショップでリップやアイラインを見ているときも、本屋で漫画を見ているときも周りに変な気配を纏った人がたくさんいた。
(何でこんなうじゃうじゃいるの?)
舞は気持ち悪さを感じていた。そこかしこからする気配に充てられて気分が滅入っていた。
「舞、大丈夫か? 疲れたのか?」
火鷹は舞の変化を察して心配した。
「うん、ちょっとね」
「ならそこのカフェにでも行こう。ちょっと休憩」
「うん」
舞と火鷹はカフェに入った。初めて入る店だった。中にはそこそこ人がいて繁盛していた。
(うっ、ここも? マジで?)
舞はカフェの中でも気配を感じた。それも先ほどよりも大勢の人から気配を感じていた。
(でも火鷹に気を遣わせちゃいけない。ここはさっさと店を出よう……)
二人はとりあえずオレンジジュースを頼んだ。運ばれてきたオレンジジュースを一口飲んだ。
そんな舞に他の客の会話が耳に入ってきた。
「絶対幸せになれますよ。私たちが協力しますよ」
「最近疲れていませんか? 報われないと感じていませんか?」
「病気も怖いし、政治も良くないじゃないですか。私たちはそんな人を助けているんです」
他の客の会話から、宗教勧誘をしていることがわかった。変な気配のする人は全員勧誘する側だった。
(もしかして今までの人たちも、この宗教に入ってたってこと?)
舞は感じる気配が神のものだと気づいた。宗教勧誘する人に本物の神の気配がしていた。
(でも人間に力を貸す物好きな神なんているの? それもこんなにたくさんの人に?)
神は気まぐれだ。そして高天原での仕事もあり暇ではない。いちいち人間の呼びかけに応えている暇はない。
(でも神の気配するなぁ。誰かをたまたま呼び出せたの?)
舞の疑問は止まらなかった。
(ちょっと探ってみるか……)
舞は神通力を使って神の気配がする人の思考を読んだ。
『神様に助けてもらえる! この人も救ってあげなきゃ!』
『$%@#様の恩恵は私たちを助けてくれる!』
舞の神通力にノイズが走った。神の名前が聞き取れなかった。
(何で? 誰かが思考に防御まで掛けてるの? 怪しい……)
舞は口を一文字に結んで眉を顰めた。そんな舞の異変に気付いた火鷹が舞に声を掛けた。
「舞、大丈夫か?」
「うえ!? う、うん大丈夫!」
「何か調子悪そうだし、今日はもう帰ろう」
「そうだね。ありがとう、火鷹」
舞は神通力を使うのをやめた。面倒事に首を突っ込むより、目の前の火鷹の方が大事だからだ。
舞は火鷹に心配を掛けたくなかった。
舞はオレンジジュースを飲み干すと、代金を払ってさっさとカフェを後にした。
残った客はまだ熱心に宗教勧誘を続けていた。
「センラノミコト様を信じれば、きっと救われますよ」
それは夜露で怪しげな儀式をしていた者たちが崇める神の名前だった。
※
翌日、学校に来た舞は夜露の様子をうかがっていた。
(夜露からも同じ神の気配がする。夜露は怪しい宗教に入ってるの?)
舞は悩んだ。信仰は自由だが、神の気配がするのは怪しいからだ。神が人間を使って何かしようとしている可能性がある。
(しかも夜露からは二つ目の気配も感じる。もしかして神に魅入られてるの?)
舞は意を決して夜露に近づいた。
「ねぇ夜露、ちょっといい?」
「いいよ。どうしたの、舞さん?」
「夜露って、その、霊的なものとか、神とか信じてるタイプ?」
「いや、そんなことはないけど……」
「本当に?」
「本当だよ。朝の占いくらいかな、信じてるのは」
「そっか。ごめんね、変なこと聞いて」
「大丈夫だよ」
それだけを聞き出して、舞は世間話に切り替えた。
(隠してるわけではなさそう。ならどうして神の気配がするの?)
舞の疑問は尽きず、余計に気になってしまった。




