11話 ライブデート
ある日の学校、朝から唸る女子生徒がいた。横には夜露がいて、その女子の話を聞いていた。女子生徒は夜露の友達だ。
「あんのクソ男っ! 別れようなんてっ! 本当にありえないっ! 私のどこがダメだって言うの!?」
口調を荒げて憤慨する夜露の友達。元カレのことを思い出しては怒りに震えていた。
「私はあいつのために尽くしたのに! 何が重すぎるよ! それに見合うだけの愛を私に返すのが男の甲斐性ってもんでしょ!」
夜露の友達は机をダンダンと叩いて怒りを露にしていた。周りのクラスメイトはその様子を怖がって距離を取っていた。
夜露だけは一緒にいてあげた。
夜露の友達は元カレにかなり重めの愛を抱いていた。初めて出来た彼氏だったため、強く依存してしまったのだ。
毎日授業の合間に連絡して、放課後になったらデート、夜になったらおやすみの電話。自分より先に眠ることは許さなかった。
さらに夜露の友達は、彼氏からの連絡が遅れると怒って返事を催促した。また他の女子の連絡先も消させていた。他の女子に現を抜かして欲しくなかったからだ。
元カレはゲームが趣味で、男友達と一緒に夜中までゲームをすることがあった。しかし夜露の友達はそれも禁止した。
自分との電話の時間が減るからだ。またもっと自分に依存して欲しいからだ。
元カレには自分以外と関わって欲しくなかった。彼の世界には自分だけがいればいいと思っていたのだ。
元カレは最初は愛の重い彼女に付き合っていた。ほとんどの時間を彼女との時間に費やして、友達付き合いも減らしていた。
しかしそんな生活は長くは続けられなかった。ついに元カレは緊縛生活に疲れて別れを切り出した。
「俺は友達も大切だし、クラスの女子とも連絡が出来ないのは浮くからキツい。趣味のゲームも出来ないのは生きるのが辛くなる。だから君といるのは無理だ。別れよう」
「はぁ!? たかがゲームでしょ!? 私との時間の方が楽しいでしょ!? 私さえいればいいでしょ! 私はこんなにあんたのことが好きなのに!」
夜露の友達は別れることが受け入れらなかった。そのため自分のいいところをアピールして、必死に引き留めようとした。
「もっと一緒にいる時間を増やすし、お弁当も作ってあげる! それに興味あるならエッチもしてあげる! だから、ね? 別れるなんて言わないで……」
「そうじゃないんだ……。ごめん。もう一緒にいるのは無理なんだ」
「そんな……!?」
「今までありがとう。これからは別々に過ごしていこう。じゃあ」
こうして夜露の友達は彼氏と別れたのだった。
別れた直後は驚きと悲しみに押し潰されて、復縁のことしか考えられなかった。連絡を送り続けて、謝り続けた。
しかし連絡をブロックされて返事も来なくなった。夜露の友達は泣いて泣いて、泣きはらした。学校も休んで一日中元カレの写真を眺めていた。
そしてしばらく経った。すると悲しみは薄れていき、怒りが心の中を支配した。
(何で私がこんなに悲しまなくちゃいけないの!? あいつが私を振るなんて、絶対におかしいでしょ!?)
涙に濡れた枕を見つめると、元カレの顔が浮かんできた。夜露の友達はその枕をタコ殴りにした。
(私はこんなにいい女なのに! 絶対許さない! 振ったことを後悔させてやる!)
そして気持ちを切り替えた夜露の友達は学校に登校したのだ。登校して夜露の顔を見て、元カレの愚痴を吐き出した。
「うぅーっ! 愛が重すぎるって何!? 愛なんてあればあるほどいいでしょ!?」
「大丈夫だよ、きっといい出会いがまたあるよ」
夜露は友達を慰める。しかしまだまだ未練がある友達の心は不安定だった。
「次の出会いもいいけど、私には彼じゃないとダメだったの! 忘れられないよー!」
机に突っ伏す友達は涙の洪水を起こしていた。怒りと悲しみは交互に押し寄せてきて、元カレへの想いを再燃させていた。
初めての彼氏と初めての失恋は夜露の友達の心に深い傷を付けていた。
そしてたっぷりと喚いた夜露の友達はようやく落ち着いた。
「はぁー、今週末のチケット無駄になっちゃった……」
夜露の友達は今週末のデートを楽しみにしていた。デートのたびに増えていく二人だけの思い出を重ねたかったのだ。
「夜露、代わりに行ってくれない? 値引きするから」
「何のチケット?」
「このバンド知ってる? 最近人気上がってきてるんだ。興味ない?」
夜露はそのバンドのことを知っていた。なぜなら火鷹が注目していると言っていたからだ。火鷹の好きなものを好きになりたい夜露は、そのバンドの情報も頭に入れていた。
「私は行くテンションじゃなくなったから、火鷹くんと行ってきなよ」
「いいの?」
「うん。私の屍を越えて夜露の糧にしてくれー」
夜露は友達からチケットを譲り受けた。
「夜露は火鷹くんを逃がしちゃダメだよ。舞ちゃんは手強い相手だけど、負けちゃダメ。私、夜露のこと応援してるから!」
「ありがとうね。私、頑張る!」
クラスでは舞と夜露が火鷹のことを好きなのは周知の事実だった。クラスメイトはどっちが火鷹と付き合うかを予想するほどだった。
クラスメイトは舞と夜露のことを応援していた。どちらも良い子で魅力的なので幸せになって欲しいのだ。
男子は学校一の美少女たちに好かれる火鷹に並々ならぬ嫉妬を覚えていたが、火鷹が良い奴なのでしょうがなく見逃していた。
女子は日々見ることが出来るイチャイチャに心を躍らせて、恋する乙女の頑張りに勇気を貰っていた。
舞と夜露と火鷹の関係は、クラスの一大エンターテイメントなのだ。
そして友達に背中を押された夜露は舞がいなくなったタイミングで火鷹に近づいた。
「火鷹くん、ちょっといい?」
「どうした、夜露」
「今週末さ、一緒にライブに行かない? このバンドのこと気になってたよね?」
「おぉ! そのバンドか! 行きたい!」
「よかった。なら一緒に、二人で行こうね」
「あぁ、わかった!」
火鷹は気になっていたバンドのライブに行けるため、夜露の誘いを快諾した。夜露は無事にライブデートの約束を取り付けることが出来た。
それを見ていた夜露の友達は心の中でエールを送っていた。
(頑張れー! 夜露!)
※
週末の土曜日、ライブハウス前の入場列に夜露と火鷹は並んでいた。モッシュも起こる激しいライブなので二人は軽装で参加した。
火鷹はバンドのTシャツにハーフパンツ、夜露も同じような恰好で腕にアームカバーをしていた。
火鷹はライブが楽しみ過ぎて浮足立っていた。今にも駆け出しそうなほどテンションが高まっていた。
「楽しみだね」
「あぁ! 結構気になってたからライブに来られてめっちゃ嬉しい!」
ウキウキする火鷹を見て夜露は笑みを浮かべた。火鷹を喜ばせられて嬉しいのだ。
二人は事前の物販でグッズのタオルとラバーバンドを買っており、準備万端だった。
そして入場の列が動き出した。二人は飲み物を受け取ってからライブハウスに入った。中は満員で、二人はライブハウスの真ん中くらいにいた。
「夜露、大丈夫か? ステージ見えるか?」
スタンディングのライブのため、前に背の高い人がいるとステージが見えなくなってしまうのだ。火鷹はそれを気遣った。
「大丈夫だよ。でもはぐれたら嫌だから、手を繋いでもいい?」
「あ、あぁ、おーけ」
夜露はチャンスだと思い、火鷹に積極的にアピールした。火鷹は恥ずかしがったが、断らなかった。
そして夜露と火鷹は手を繋いだ。手は少し汗ばんでいて、そのせいで手のひらがピッタリと密着した。
夜露はさらに恋人のように指を絡めた。火鷹は一瞬驚いたが平静を装った。
そして手を繋いだまま少し経つと、照明が暗くなりライブが始まった。
※
「最高だったな! めっちゃ上がる曲ばっかりで、ずっと踊りっぱなしだった! CDも絶対に集める!」
火鷹は周りの目も気にせずに大きな声で、夜露に感想を語っていた。火鷹はライブが終わってからずっとこの調子だった。
かき鳴らされたバンドのサウンドを全身に浴びて、火鷹はテンションが最高潮になっていた。
歪んだギターに地を這うようなベース、手数の多いドラム、そして少しハスキーなボーカルの歌声。
すべてがカッコいいロックンロールを作り上げていた。
「火鷹くん、すごい嬉しそう」
「あんなカッコいいとは知らなかったから、衝撃を受けた! すごいライブ映えするバンドだったな! 夜露はどうだった? 楽しめたか?」
「うん! すっごく楽しかった!」
「良かった! また来ような!」
火鷹はすっかりこのバンドにハマっていた。自分のお気に入りのミックスリストに、今日聞いた曲を全て加えようと思うほどだった。
そんな火鷹の熱量を一心に浴びられて夜露は幸せだった。また火鷹が幸せそうで夜露は嬉しかった。
自分と一緒に同じ体験をして、楽しんでもらえて夜露は満足していた。
そして二人は手を繋いだまま電車に乗って家路に就いた。火鷹はずっと喋りっぱなしで、夜露はそんな火鷹を見つめて笑みを浮かべていた。
週が明けて月曜日の学校。普段なら憂鬱な時間のはずだが、火鷹はライブの熱がまだ収まっておらず、ハイテンションで登校した。
そして火鷹は男友達にライブで見たバンドの良さを熱弁していた。
「とにかくベースがカッコよくてさ、ソロとか腹に響く低音で最高だった! ドラムも一人で叩いてるとは思えなかった。あぁ、もう一回行きたい!」
「今、サブスクで聞いてみてるけど、結構良い感じだな」
「ライブで聞くともっと良いぞ! 一回行ってみてくれ!」
「おっけおっけ」
火鷹に圧されて曲を聞いた友達は、そのバンドの良さに気付いた。火鷹の音楽のおススメには基本ハズレはないが、こんなにも推してきたのは初めてだった。
そのため期待して聞いてみたが、期待以上だった。
火鷹はバンドの布教に精を出していた。クラスメイトにとにかく話し掛けて、バンドの良さ、ライブでのカッコよさを語っていた。
すると教室に夜露が入って来た。火鷹は夜露を見ると、嬉しそうな顔をして駆け寄った。
「夜露、おはよう!」
「おはよう、火鷹くん」
「これ、土曜に行ったライブのバンドのCD! 買ったから貸す! 歌詞カードとかデザインいいからぜひ見てくれ!」
「ありがとう!」
夜露は火鷹からCDを受け取った。そして少しだけ残念そうな顔をした。
「また家に借りに行こうと思ってたのに……」
それを聞いた火鷹は、以前に夜露が家に来たときのことを思い出した。夜露の胸を揉んでしまい、そして押し倒された。火鷹は顔を赤くした。
「返すときは火鷹くんの家に持っていくね」
「いや、学校で渡してくれれば……」
「家に持っていくね」
「あ、あぁ、おーけ……」
夜露は有無を言わせぬ空気を纏っていた。そのため火鷹は断れなかった。
火鷹は夜露をまた家に上げたら迫られると思った。火鷹としてはエロいことは嬉しい。夜露に好意を示されることも。
しかし火鷹は変なところで硬派なため、付き合うまでエロいことはするべきではないという考えを持っていた。
だが夜露はそんな火鷹の思いを知らないため、積極的に色仕掛けをしてくる。火鷹は耐えられる自信がなかった。
夜露は火鷹のことを蛇のような、獲物を狙う鋭い目で見ていた。
そこに遅れて舞も登校してきた。
「おはようー!」
舞は火鷹を見つけるとすぐに駆け寄ろうとした。しかし夜露と話しているのを見て止まった。
(何か、怪しい空気感……。何かあった?)
舞は夜露から怪しい気配を感じ取った。それが女の勘によるものか、神の力によるものかはわからなかった。




