第7話 旅立ち
数日後――
青い空が広がる。
学校がない日の朝。
二人はいつも通り、ビーの店の前で待ち合わせた。
普段と違って今朝は祖父母もいる。
シャイナがいつものように駆けてくる。
太陽色の髪と首に巻いた赤いスカーフが軽やかに揺れる。
そのままの勢いで、シャイナは片手を挙げた。
ビーも自然に手を挙げ、その手のひらを打ち合わせる。
「おはよ!」
「テンション高いな」
「え、だって楽しみじゃん」
「楽天的」
ビーは呆れたようにため息を吐いた。
祖母がニコニコ顔で挨拶する。
「おはよう、シャイナ君」
「おはよー!じいちゃんばあちゃん。
天気がよくて良かったね」
「そうじゃの、絶好のおつかい日和じゃ」
祖父ははっはっはっ!と声をあげて、機嫌よく笑う。
シャイナの視線がビーの荷物に向けられる。
普段より大きめなバッグを肩から斜めにかけていた。
「なんかビー荷物多くね?」
「……昨日じじいとばあちゃんが持たせた」
「そんなにいる?」
ビーは疲れたようにため息をつく。
「昨日用意してたら、ジジイが来て」
「うん」
「無駄にテンション高ぇし」
「うん」
「あれこれ持ってけって言い出して」
「うん」
「そこにばあちゃんもお守りとか渡してきて」
「あー……」
「断ったけど、際限なくて、なんとかここまで減らした」
「……おつかれ」
シャイナは苦笑いする。
「あと弁当も入ってる。ばあちゃんがお前の分もって」
「心配されてんな」
「……過度」
「でも、嬉しいんだろ」
ビーは目を瞬かせる。
朝日がまつげに落ちた。
「………少し。ジジイのは余計」
シャイナが堪え切れず、吹き出す。
ビーの口元も少し緩む。
「じゃあ、行くか」
「行こうぜ」
祖父母に見送られて、二人は歩き出した。
シャイナは隣でまだ後ろの二人に手を振っている。
その様子から、ビーは祖父母が自分たちの姿が見えなくなるまで見送るんだろうなと思った。
荷物の重みが少し肩に食い込む。
なんだか落ち着かず、自然とストラップを持つ手に力が入る。
目的の鉱山はここからではまだ見えず、その向こうの空には少し翳りがあった。
「なぁ、今日の昼メシ何入ってんの?」
「……今出発したとこだろ」
「楽しみがあれば、そこまで頑張れんじゃん」
「……唐揚げと卵焼きと」
「それオレ好きなやつ!」
ため息と共にビーの身体の力が少し抜ける。
隣を歩くシャイナは上機嫌に、お昼ご飯の弁当の内容を予想していた。
それを横目に見てから、ビーは正面に視線を向ける。
山の向こうに続く道に、朝の風が吹き抜けていった。
いつもの森の慣れた道。
普段駆け抜けている場所だ。
枯葉を踏みしめると、パキリと小気味の良い音がする。
爽やかな風が吹き抜け梢が揺れ、空の高いところで鳥が仲間を呼んでいた。
高低差はほとんどなく、木々の隙間からちらちらと湖が見える。
「ここら辺はいつも通りだなー」
「今朝も来た」
「今日も走ってんの!?」
「日課」
「今日ぐらい休めよな」
シャイナは両手を頭の後ろに組みながら、木の根を軽く飛び越える。
「あ、そだ。荷物重そうだから持つ」
「お前のは軽そうだな」
「んー、何がいるかわかんなかったから」
「少しは聞くか調べろよ」
ビーもシャイナの後に続いて、木の根に足をかけて飛び越えた。
「まぁ、水も食料も森にあるし、なんとかなるって。カバンの中の重いの出して」
「ん、じゃあこれ」
「ほい」
途中水を飲んだり、軽く果物を食べたり小休止しながら、二人は順調に歩みを進める。
山を登り始めた頃、知らない景色が見え始める。
「ここら辺ぐらいだな」
「昔ビーが遭難しかけたとこだ」
「してない」
「帰ってこれてなかったろ」
ビーは拗ねた子供のように小さく舌打ちする。
この辺りから向こうへは普段立ち入ることのない場所。
村からだいぶ離れているし、ここを進むと日が沈む前に村には戻れない。
二人の足は自然と前へと進む。
見慣れぬ景色とはいえ、小さい頃から遊んでいる森の中なのは変わらない。
旅人たちが踏みしめた道が続いている。
「そろそろ昼メシかなぁ」
「そうだな」
そう言ってビーが先行していた矢先――
「?」
何か違和感があった。
普段なら気にもならない、ほんのわずかな違い。
すぐに空気に溶けて、わからなくなった。
通り抜けた……?
直感的にそう思った。
「ビー?」
シャイナも同じ場所を過ぎる。
「ん? あれ?
今なんか空気か? 変じゃなかった?」
「お前もか」
顔を見合わせた後、元来た道を少し戻って、もう一度同じ場所を通る。
シャイナが首を傾げる。
「だめだ、わかんねぇ……」
「……」
ビーは気のせいだと簡単には片付けられなかった。
「――ーかぁ……だ――ーか」
シャイナが顔を上げる。
「ん?」
「どうした?」
「なんか声する、あっちかな」




