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エクリプス ―月蝕の二人―  作者: 灰色 ウサギ
第2章 想い出人の郷
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第41話 リタホームの不穏(1)

今回は41話・42話の更新です。

 朝食を終えると、それぞれ分かれて行動することになった。

 コウたちは情報収集へ向かうそうだ。


「坊たちは、お子様らしゅう適当に遊んどき。町中では暴れんようにな」


 出かけ際に小馬鹿にしたような顔で言い残していった。

 カチンときた。

 言い返そうとしたところで、シャイナに視線で制された。

 仕方ない。睨むだけにしておいた。


「薬草の方はコウさんたちにお任せして、僕たちは別の情報を集めましょうか」


 マーがそう提案した。


「森で何か変わったことがなかったか、町の人に聞いてみましょうか。わざわざ尋ねなくても、噂ぐらいは耳に入るかもしれません。火事の現場も気になります。先日の霧と関係があるかもしれませんし。あと使ってしまった携帯食料なども買い足しておきましょうか」


 シオンを肩に乗せて歩くと、また変に注目を浴びるかもしれないので、マーに小さめの肩掛けカバンを借りた。その中にすっぽりとおさまったシオンは、一緒に出かけられるのがうれしいのか、ちょこんと顔を出して、耳や鼻を動かして辺りを見渡していた。


 宿屋を出て、改めて外を見る。

 現実なのに、現実じゃない気がする。

 白亜の幹にほんのり薄茶の木目が混じる。見上げれば、淡い黄色の葉の天蓋に目を奪われる。その隙間から青い空が覗き、木漏れ日が町中を照らす。

 すぐそばを流れる小川の音が涼やかに耳に響く。爽やかな風が甘い花の香りを連れてくる。


 思わず、心に引っかかっていることを全て忘れてしまいそうになる。


「綺麗ですねえ」


 マーが優しい口調で呟いた。


 旅用品店に向かう道にも、幹をくり抜いたお店がいくつもある。木の形を生かした机や棚があったり、木の枝に洗濯物が干されていたりと、見ていて飽きなかった。

 道を挟んで、両側に高く大きな木があるところは、頭上に橋がかかっていた。橋を行き来する人々の中には、立ち止まって景色を眺める者もいる。

 シャイナやマーも時折足を止めて、町並みや頭上を眺めていた。

 路面店では、見たことのない食べ物や飲み物もあり、つい興味をそそられた。

 シオンはリタホーム自体にはあまり出入りしてないらしく、料理や果物の匂いがする度に鼻をヒクヒクさせていた。


 ただ、気になることもあった。

 通りは多くの人が行き交っている割に活気がない。

 視線を落として歩く者や、険しい顔で足早に通り過ぎる者。そこかしこでは数人が寄り集まり、不安げに声を潜めて話し込んでいる。

 風に乗って、その一部が聞こえてくる。


「薬草が買えないとなると、この先どうする?」

「また、すぐ入ってくるんじゃないのか」

「わからないんだと」

「火事に先日の霧といい……こんなことになるなんて聞いてないぞ」


 シャイナにも聞こえていたらしい。


「なぁ、やっぱりみんなも気になってんだな」

「ああ、そうみたいだな」


 マーも口を開く。


「薬草がいつ入るかはわかりませんし、コウさんのように依頼を受けている方々はおいそれとは帰れません」

 

 確かにコウも依頼の未達成を気にしていた。


「ただ、それだけじゃない奴もいる気がするんだが……」

 

 冒険者や傭兵には見えない。

 何かを探すように遠くを見つめる者や、今にも泣き出しそうな顔をしている者もいる。

 声をかけてもいいものか、迷う。

 マーは少し言い淀んだが、こちらを見た。


「その方々のお目当ては、おそらく想い出人でしょうね。心の底から会いたいと願う人が現れる、とお伝えしていましたね」


 シャイナと同じように、黙ってうなずく。


「それは生きている人間に限った話ではありません。亡くなった方、行方がわからなくなった方なども含みます。だから、何かしら心に不安や寂しさを抱えていらっしゃる方も、少なくないんでしょうね」


 穏やかだが、その声はどこか寂しげだ。

 こちらに向けられたアイスブルーの瞳が微かに揺れていた。


 旅用品店では、以前と同じようにマーに任せ、シャイナと二人で店の中を探索する。薬草のほかにも、ここ特有の木を素材に使った商品もあり、つい手に取ってしまう。

 一通り店内を見て回ったころ、シャイナに肩を叩かれた。


「ね、ビー。いいにおいしない?」

「ん?」

「するでち!」


 思わずシオンが小カバンから身を乗り出す。


「「しー!!」」


 二人で口に人差し指を当てて、注意する。

 シオンはハッとして、少し頭を下げた。

 それを確認してから、シャイナが店の入り口の外を指さす。


「この店の向かいに露店があってさ、お菓子売ってるみたいなんだよね」


 思わず外へ視線を向けた。

 開け放たれた両開きの扉の向こうに、赤と白の日よけ天幕がついた小さな露店が見えた。

 揚げた生地の香ばしさと甘い砂糖の匂いが重なって、鼻と腹を刺激する。 


 じっと眺めていると、シャイナが小さく笑う。


「食べてみない? さっきエチルスに少しだけお小遣いもらったし」

 

 マーに目をやると、店の奥でまだ店員と話し込んでいて、もう少しかかりそうだった。

 肩掛けの小カバンがもそもそと動いている。

 シャイナはこちらの返事を待たずに歩き出す。


「行こ」

「ん」

 

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次回更新予定 2026年10月21日(水)

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